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『昔やっていたテーブルトークRPGの世界に転生し、精霊に好かれるところから始めます』  作者: ゆふぉん


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第五話 名を持たぬ英雄

異変に気づいたのは、サラだった。


「……煙」


 森の向こうで赤い光が揺れ、焦げた匂いと悲鳴が風に混じる。


「村ね」


 逃げることはできた。

 関わらなければ、生き延びられた。


 だが――


「行く」


 俺が言うと、サラは理由を聞かず弓を背負い直した。


「分かった」


 村は、すでに地獄だった。


 柵は壊れ、家屋は燃え、悲鳴が交錯している。


「ゴブリン……三」


 その瞬間だった。


 家屋の影から、巨体が現れる。


「……オーガ」


 魔物レベル5。


 そして――

 広場に転んだ、逃げ遅れた子供。


 左右から迫る影。


 ゴブリンと、オーガ。


 同時。


 考える時間は、なかった。


「サラ!」


「分かってる!」


「俺がオーガ!」


「ゴブリンは任せて!」


 サラの指が弓を引いた瞬間、迷いが消えた。


 弓術レベル7。


 かつて、魔物レベル8のワイバーンを

 一射で心臓ごと撃ち抜いた射。


 その戦果によって与えられた称号。


 アーチャー。


「……風の精霊シルフ。

 この矢に、力を貸して」


 お願いに応え、風が矢を抱いた。


 一射。


 矢は一直線に飛び、

 ゴブリンの心臓を貫く。


 悲鳴は、上がらなかった。


 撃てば、終わる。


 それが、アーチャーだった。


 一方、ユウトは俺はオーガへ踏み込む。


(……剣術1じゃ、本来は無理だ)


 正面から相対すれば、即死。


 だが――

 今、この瞬間だけは違う。


 頭の奥に、裁定前の静けさが降りる。


 行動は決めた。

 あとは、世界がどう裁くかだ。


 白い六面体が二つ、意識の中で転がる。


 六。

 六。


 六ゾロ。


 ――神の奇跡。


 そう呼ぶしかない現象が、

 これで二度目だった。


 偶然ではない。

 幸運でもない。


 俺にだけ与えられた、

 明確な“例外”。


 世界が、行動に対して最大の結果を返した。


 身体が、理解する前に動く。


 踏み込み。

 体重移動。

 剣先が、一直線に走る。


 狙う場所は、最初から決まっていた。


 心臓。


 刃が、硬い筋肉を裂き、

 確かな手応えを残して突き抜ける。


 オーガの巨体が、その場で崩れ落ちた。


 止めたのではない。

 討ち取った。


 剣術1では、絶対に不可能な結果だった。



 サラは――遅れて、感情が追いついた。


(……普通なら、死んでいる)


 それが、サラの率直な認識だった。


 剣術レベル1。

 十二歳。

 相手は、魔物レベル5のオーガ。


 勝ち負け以前の問題だ。

 立った時点で、結果は決まっている。


 任せたわけじゃない。

 信じたわけでもない。


 言われたから、従っただけだ。


 あの場で判断を覆す時間はなかった。

 役割分担は、最善だった。


 それでも――


(100%死んでいたはず)


 ほんの一瞬の遅れ。

 一歩の踏み込みの差。


 どこかが狂っていれば、

 今ここに、彼はいない。


 サラは、唇を噛みしめる。


(私は、止められなかった)


 それが、後悔のすべてだった。


 だが。


 オーガを討ち取ったユウトの背中を見た瞬間、

 サラは、息を呑む。


 剣を握る姿。

 迷いのない踏み込み。

 一点にすべてを賭けた、一突き。


 ――見覚えがあった。


(……剣王)


 炎の中で、

 すべてを背負って前に出た、

 あの男の後ろ姿。


 重なる。


 強さでも、

 技量でもない。


 「引かなかった」という一点だけが、

 同じだった。


(……だから、見えてしまった)


 普通なら、死んでいる。


 それでも、生きている。


 その背中が――

 剣王のものに、見えてしまった。


 ユウトはオーガを倒した瞬間、視界が揺れた。


 あの感覚。

 否定も拒否もできない、世界からの通知。


剣術:3

警告


 この世界では、

 レベルは滅多に上がらない。


 一度に二段階の上昇など、前例がない。


 祝福ではない。

 これは――越境への警告だ。


 二度と同じ条件は揃わない。

 二度と同じ裁定は出ない。


 この上昇は、

 強さの証明ではない。


 限界を越えた者への、

 最後の猶予だった。


「……水の精霊ウンディーネ。

 この村を、守って」


 サラのお願いに応え、

 水が流れ、炎を鎮めていく。


 子供は、無事だった。


 村人たちが、恐る恐る近づいてくる。


 一人の老人が、深く頭を下げた。


「ありがとうございました……お名前は?」


 名はある。

 だが、今は名乗れない。


「……名は、まだない」


 老人は少し考え、やがて言った。


「では……名を持たぬ英雄、ですね」


 英雄。


 その言葉が、胸に重く残る。


(違う)


(奇跡がなければ、

 俺は何もできなかった)


 村を離れたあと、

 サラが静かに言った。


「……生きていてよかった」


「……ああ」


 名は、まだない。


 英雄でもない。


 それでも――

 守ったという事実だけは、

 確かに残った。


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