第三十八話 誕生日
世界樹の内で過ごした半年。
外の世界に換算すれば、まだわずかな時間のはずだった。
だが――ユウトの身体は、確かに変わっていた。
「……え?」
隣を歩いていたサラが、ふと足を止める。
「ちょっと、止まって」
「ん?」
ユウトが立ち止まると、サラは正面に回り、じっと見上げた。
視線が、以前よりも上にある。
「……抜かれた」
「何が?」
「身長」
ユウトは苦笑する。
「この半年で、急に伸びたみたいだ。170は超えたな」
「……人族の成長、早すぎる……」
サラは一歩下がり、改めてユウトを見る。
肩幅。
剣を持つ手。
落ち着いた立ち姿。
一瞬だけ、
“かっこいい”という感想が浮かび――
サラは慌てて視線を逸らした。
「……気のせいね」
「今、何か言ったか?」
「言ってない」
即答だった。
歩き出そうとして、サラが思い出したように言う。
「そういえば……今日」
「?」
「14歳の誕生日でしょう」
ユウトは一瞬きょとんとしてから、はっとする。
「あ……」
本当に、忘れていた。
「……そうか。今日だったな」
戦いと修行に追われ、数える余裕もなかった。
「おめでとう」
「……ありがとう」
短いやり取り。
だが、それだけで十分だった。
しばらく歩いたあと――
サラが、また足を止める。
「……ねえ」
「ん?」
振り向いた瞬間。
距離が、近い。
次の瞬間――
頬に、柔らかな感触。
ちゅっ
一瞬だった。
「……っ?」
ユウトが理解する前に、サラはすでに一歩引いていた。
「……誕生日の、ご褒美」
「ハイエルフのお姫様にキスしてもらえるなんて、世界一のご褒美よ」
視線を逸らしたまま、少し早口で。
「深い意味はないからね!これからもよろしく!」
耳が、赤い。
ユウトはしばらく固まっていたが、
やがて頬に手を当て、小さく笑った。
「……ありがと」
それ以上、何も言わなかった。
サラは横目でその横顔を盗み見る。
(……やっぱり、少し大きくなった)
背丈だけじゃない。
立ち方も、空気も、やっぱりカッコいい
けれど――
まだ、守るべき存在だ。
二人は並んで、また歩き出す。
誕生日。
祝宴も、贈り物もない。
それでも。
生きて迎えられたこの日だけは、
確かに――特別だった。
世界樹の白い空間は、何も語らない。
ただ静かに、
その一日を記録するように佇んでいた。




