第三十六話 回復
どれほどの時間が過ぎただろうか。
白い空間に、かすかな変化が訪れた。
「……ユウト……?」
小さく、しかし確かな声。
ユウトは弾かれたように顔を上げた。
「サラ……!」
彼女の瞳が、ゆっくりと焦点を結ぶ。
額に手を当て、呼吸を確かめるように深く息を吸った。
「……寒くない。苦しくも……ない……」
その言葉に、ユウトの肩から力が抜けた。
「治ったんだ。完全に」
サラは一瞬きょとんとした顔をしてから、ゆっくりと自分の体を確かめる。
そして、指に嵌められたままの指輪に気づいた。
「……この指輪……?」
「サラマンダー熱だった」
ユウトは、静かに告げた。
「火の精霊に近づきすぎた反動だ。
ポーションじゃ、どうにもならなかった」
サラは、わずかに目を見開く。
「……精霊干渉型の状態異常……」
理解したのだろう。
彼女は短く息を吐き、視線を落とした。
「……だから、回復が遅かったのね」
「だから、指輪を使った」
それだけ告げて、ユウトはそれ以上言わなかった。
言い訳も、後悔もない。
ただ事実だけ。
サラは、しばらく黙っていたが――
やがて小さく笑った。
「……ユウト、本当に無茶するわ」
「しない理由がなかった」
それ以上、言葉は要らなかった。
回復の指輪は、まだ淡く光を宿している。
それは治療が終わったというより――
精霊の流れを安定させ続けているようだった。
サラは身を起こし、周囲を見渡す。
世界樹の根が織りなす白の空間――
その奥、今まで気づかなかった場所に、一つの宝箱が静かに佇んでいた。
「……あれは?」
「さっきまでは、なかったはずだ」




