第三十五話 サラマンダー熱
炎の巨人との死闘から三日目の朝。
ユウトは、ゆっくりと目を覚ました。
世界樹の根が形作る白い空間。
精霊の気配は穏やかで、全身に残る痛みも、ようやく現実のものとして感じられる。
「……生きてるな……」
上体を起こした瞬間、違和感に気づいた。
すぐそばにいるはずのサラの姿が、ない。
「……サラ?」
視線を巡らせると、少し離れた場所で彼女が倒れていた。
「っ……!」
ユウトは立ち上がり、駆け寄る。
抱き起こした瞬間、はっきりと分かる。
――熱。
異常なほど高い。
ただの疲労ではない。
ユウトはすぐにアイテムBOXを開き、ポーションを取り出した。
「頼む……!」
慎重に口元へ運び、少しずつ飲ませる。
だが――変化はない。
「……効かない……?」
嫌な予感が走る。
ユウトは歯を食いしばり、サラのステータスを確認した。
【サラ:状態】
HP:減少
MP:枯渇
状態異常:サラマンダー熱
「……火精霊の過剰干渉……」
理解した瞬間、胸が締めつけられた。特にエルフ族は炎の精霊術を嫌う。森を破壊してしまう象徴、あるいは長寿のエルフの死因が高いのがサラマンダー熱と言われている。
炎そのものではない。
精霊と深く同調した者だけが負う、内側から焼かれる異常。
佑都の記憶を思い出す、、
最高司祭クラス8のエクストラヒールでないと治せない。
ただのハイポーションでも治らない。
どうする、、
ユウトは、自分の指にはめられた回復の指輪を見る。
サラのレベルなら、、
迷いはなかった。
彼は指輪を外し、サラの指に通した。
次の瞬間。
淡い光が広がる。
派手ではない。
だが、確実な回復の流れ。
指輪は、サラの精霊術レベル8に反応し、
本来以上の力を引き出されていた。
熱が、ゆっくりと引いていく。
荒れていた呼吸が、次第に整う。
「……っ……」
サラの指先が、わずかに動いた。
表情から、苦しみが消えていく。
ユウトは、何も言わず、その場に腰を下ろした。
今、指輪は――
彼女を生かすために、最も正しく使われている。
回復の指輪は、サラの指で静かに輝き続けている。
今はただ、
生き延びたことを受け入れる時間だった。




