第三十三話 封印ではないもの
炎は、収まらなかった。
ファイヤストームが止んでも、
空気そのものが燃えている。
呼吸のたび、喉が痛む。
「……おかしい」
サラが、短く言った。
弓を構えたまま、炎の巨人から視線を外さない。
「これだけの存在なら、
普通は“封印”されるはずなのに」
ユウトは、荒い息を整えながら答える。
「封印された、って話は聞いてる」
「七つの街を滅ぼして、
最後は封じられた……って」
サラは、ゆっくりと首を振った。
「違う」
彼女の視線は、炎の巨人ではなく――
周囲の空間、世界樹の内部へ向けられていた。
「ここは、封印じゃない」
「管理されている」
その言葉が、胸に落ちる。
確かに、そうだ。
封印なら、もっと荒れている。
もっと不安定で、歪んでいるはずだ。
だが、この場所は――
整いすぎている。
炎の巨人は、暴れてはいない。
ただ、そこに在る。
まるで――
役目を与えられているかのように。
「世界樹が、引き取った……?」
ユウトがそう口にすると、
サラは静かに頷いた。
「倒せない災厄を、
世界から切り離すんじゃなくて……」
「世界の中で、制御する」
炎の巨人が、一歩動く。
熱が増す。
だが、先ほどのような無差別な殺意は感じられない。
「……試されてる?」
ユウトの言葉に、
サラは即答しなかった。
代わりに、アイテムボックスに手を伸ばす。
取り出したのは――
銀の矢を、三本。
「普通の矢は、届かなかった」
「でも、精霊に“触れられる”なら話は別」
一本を手に取り、
静かに炎の巨人を見据える。
「……倒すためじゃない」
「“通じるかどうか”を、確かめる」
サラは深く息を吸い、
精霊へと意識を向けた。
「――水よ、ウンディーネ」
蒸気が広がり、
炎の流れがわずかに緩む。
続けて、
「――風よ、シルフ」
風が炎を押し流す。
二体の精霊が、同時に応えた。
ユウトは、その背中を見ていた。
命令していない。
無理に縛ってもいない。
精霊が、自然に並んでいる。
(……すごいな)
矢を番えたサラの腕が、微かに震える。
「……一瞬だけ、よ」
「その一瞬で、何かが変わらなければ――」
言葉の続きを、彼女は飲み込んだ。
放たれた銀の矢が、炎を裂く。
直撃ではない。
だが――
初めて、炎の向こうへ届いた。
その瞬間。
炎の巨人が、ぴくりと動きを止めた。
ほんの一瞬。
だが、確かに――
反応した。
広間の空気が、僅かに変わる。
「……今の」
ユウトが呟く。
「“敵”の反応じゃない」
苦しんでる?
炎の巨人は、まだ倒れていない。
だが、ただの災厄でもない。
ユウトは、剣を握りなおした
強烈な殺意が炎の巨人から向けられた‼️




