第三十一話 第六層〜
第六層に入った瞬間、世界樹の空気は完全に変わった。
これまで感じていた圧も、問いも、選別の気配もない。
代わりにあったのは――分かりやすさだった。
石造りの通路。
明確な分岐。
そして、敵。
「……普通のダンジョンね」
サラの言葉に、ユウトは小さく頷く。
「うん。迷いようがない」
敵がいて、倒して、進む。
それだけだ。
獣型の魔物が現れれば、ユウトは前に出る。
剣は迷わず、足は止まらない。
サラの矢が風を纏って背後から援護する。
精霊に命じてはいない。
だが、風が流れ、土が足元を支え、水が疲労を和らげる。
「……精霊、強く感じるわね」
「俺もだ」
剣術レベル5。
精霊術レベル5。
数値は変わらない。
だが、身体への馴染み方がまるで違っていた。
剣は“振るもの”ではなく、“そこにあるもの”になりつつある。
精霊術もまた、使う技ではなく、共に在る感覚へと変わっていた。
第七層。
第八層。
第九層。
戦いは途切れることなく続く。
迷いはない。
第五階層で覚悟を決めた成果だった。
精霊は常に側にいる。
命令も、詠唱も不要。
ただ――一緒に進んでいる。
時間は静かに流れた。
第十五層。
第十八層。
第二十層。
休息は短いが、疲労は少ない。
精霊が、自然に回復を助けているのが分かる。
「……ねえ、ユウト」
サラがふと口を開く。
「もう、私が指示しなくても戦えてるわね」
ユウトは少し考え、答えた。
「でも、一緒に来てくれ」
サラは迷わず頷いた。
「当然よ」
そして――
世界樹の内側で、半年。
外の世界では、すでに五年以上の時が流れている。
二人が辿り着いたのは、第二十九層の終端。
そこには、下へ続く階段があった。
「……まだ、終わりじゃない」
ユウトの言葉に、サラも息を整える。
「ええ。
本当の区切りは――下ね」
階段を下りきった先で、空気が一変した。
重い。
これまでとは質が違う。
そこにあったのは、巨大な石扉。
中央に刻まれたのは、世界樹の紋章。
扉の向こうから漏れ出す気配は、魔物でも精霊でもない。
もっと古く、
もっと重く、
明確な“意思”。
ユウトは剣を握り直す。
剣術レベル5。
精霊術レベル5。
数値は同じ。
だが、その意味はここに来る前とはまるで違う。
「……行こう、サラ」
彼女は静かに並び、短く答えた。
「ええ」
第二十九層を越え、
二人は扉に手をかける。
――第三十層。
ここが、
世界樹ダンジョンのボス部屋。
半年分の覚悟を背負い、
ユウトとサラは、その先へ踏み出した




