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『昔やっていたテーブルトークRPGの世界に転生し、精霊に好かれるところから始めます』  作者: ゆふぉん


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第3話 追われる二人

 洞窟を出たのは、夜明け前だった。


 森はまだ眠っている。

 霧が低く垂れ、音を吸い込むように広がっていた。


 十二歳の身体で歩くには、道は険しい。

 それでも止まらない。


「……無理してない?」


 前を行くサラが、振り返らずに言う。


「正直、きつい」


「正直でいいわ」


 彼女は歩調を、ほんの少しだけ落とした。


 違和感に気づいたのは、その直後だった。


(……静かすぎる)


 鳥の声がない。

 風の流れが、不自然に途切れている。


 前世で空手と剣道をやっていた頃の感覚が、

 背中を強く叩いた。


 ――見られている。


「サラ」


 小声で呼ぶ。


「気づいた?」


「ああ」


 サラは立ち止まり、地面に膝をついた。


「追手よ。

 人型、六」


 即答だった。


 王都の残党狩り。

 もう、始まっている。



「距離は?」


「詰められてる」


 短い返事。


 それだけで、十分だった。


 十二歳の身体。

 荷物あり。

 相手は訓練された兵。


 ――逃走成功率、ゼロ。


(……このままなら、100%追いつかれる)


 迷いようがなかった。


「戦う?」


 俺が聞く。


 サラは森の奥を見渡し、静かに首を振った。


「戦えば勝てる」


「でも、勝っても意味がない」


 弓に手を添え、続ける。


「ここで時間を使えば、

 次に必ず囲まれる」


「あなたは、

 ここで終わる存在じゃない」


 サラは、低く息を吸った。


「……風の精霊シルフ。

 私たちに、力を貸して」


 囁く声に応えるように、

 森を抜ける風が流れを変える。


 霧が揺れ、

 音が歪み、

 追手の足音が一瞬だけ乱れた。


「右よ!」


 走る。


 だが――

 距離は、縮まり続ける。


 背後で怒鳴り声が上がった。


「追いつけ!」


「逃がすな!」


(……ダメだ)


(六ゾロがなければ、ここで終わる)


 その瞬間、

 頭の奥で“裁定前の静けさ”が訪れた。


 TRPGで、

 行動を宣言し、

 サイコロを振る直前の感覚。


 白い六面体が、

 意識の中に浮かぶ。


 二つ。


 転がり、

 ぶつかり、

 跳ねる。


 ――止まる。


(……六)


(……六)


 六ゾロ。


 世界が、

 行動に対して最大の結果を返してきた。


「サラ!」


「分かってる!」


 前方に、深い谷が現れる。

 普通なら、完全に詰みだ。


 だが――

 今は違う。


「……水の精霊ウンディーネ。

 私たちを、受け止めて」


 谷底から、水がせり上がる。


「跳ぶわよ!」


 迷いはなかった。



 落下。


 冷たい水が、全身を包む。


 だが、叩きつけられない。


 水流が、

 正しい位置で、正しい強さで

 俺たちを受け止めていた。


 背後で、追手の悲鳴が響く。


 誰も、飛び込んではこなかった。


 それで、十分だった。



 水に押し出され、岸へと転がり出る。


「……生きてる?」


「……ああ」


 息が切れて、それ以上言えない。


 サラは、安堵の息を漏らした。


「神の奇跡ね」


「……違う」


 俺は、濡れた手を見つめる。


「これは選択じゃない」


「100%失敗する行動に対して、

 世界が“最大の結果”を返しただけだ」


 サラは首を傾げる。

 理解はできていない。


 それでいい。


 六ゾロは未来を選ぶ力じゃない。


 覚悟を伴った行動に対する、世界の裁定だ。


 追われる二人。


 だが――

 生き延びた。


 確率ゼロを、

 ひっくり返した一回。


 一日三回だけ許された、

 確定級の結果。


 サイコロは、

 確かに振られた。

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