第二十八話 第三階層――再挑戦
境界は、静かにそこにあった。
拒絶の気配も、歓迎もない。
ただ、踏み出せば――測られる。
ユウトは、剣を鞘から抜いた。
構えない。
気負わない。
呼吸を整え、
ただ、立つ。
そして――一歩。
世界が、切り替わった。
第三階層。
空間は、以前よりも狭く感じた。
いや、違う。
逃げ場が、消えている。
圧が来る。
前回よりも、重い。
だが――押し潰されない。
(……立てている)
影が、現れる。
形は曖昧。
だが、確かに“敵意”を持っている。
ユウトは、剣を構えなかった。
踏み込まない。
振らない。
影が、動く。
速い。
前回と同じ――いや、さらに。
ユウトは、避けた。
剣で受けない。
距離を取る。
床を滑るように後退し、
影の動きを“見る”。
(……焦るな)
勝とうとするな。
倒そうとするな。
ここは、戦場じゃない。
測定場だ。
影が、再び迫る。
今度は、真正面。
ユウトは、半歩だけ踏み出し、
刃を横に流した。
当たらない。
だが――通さない。
影の軌道が、わずかに逸れる。
圧が、変わった。
評価が、動いた。
(……通じてる)
剣術レベル5。
数値としては、最低限。
だが、
“剣を使わない剣”が、ようやく噛み合う。
影は、距離を取った。
次の瞬間、
圧が一段階、上がる。
ユウトの膝が、軋む。
だが――膝は、落ちない。
ここで、精霊術を使えば楽になる。
分かっている。
だが、使わない。
当てにしない。
影が、分裂した。
二体。
三体。
包囲。
前回なら、詰んでいた。
ユウトは、目を閉じた。
一拍。
呼吸。
次の瞬間、
歩いた。
走らない。
跳ばない。
ただ、歩く。
影の隙間を、
読み切って。
一体が、触れた。
――触れた、だけ。
致命ではない。
評価は、下がらない。
むしろ、
影が、迷った。
(……そうか)
第三階層は、
勝敗を求めていない。
“選択”を、見ている。
何を使い、
何を捨て、
それでも立てるか。
影が、後退する。
圧が、徐々に薄れる。
空間が、静まった。
そして――
視界に、文字が浮かぶ。
――第三階層・試練再挑戦――
評価:可
進行:継続許可
可。
だが、前回とは違う。
拒絶ではない。
通過だ。
ユウトは、剣を下ろした。
腕は重い。
身体は、限界に近い。
それでも――
立っている。
背後で、気配が揺れた。
サラだ。
だが、彼女は何も言わない。
近づきもしない。
ただ、見ている。
それでいい。
ユウトは、前を向いた。
第三階層は、
まだ終わっていない。
だが――
道は、開いた。
次は、もっと深い。
奇跡も、近道もない。
それでも進む。
自分の人生として。
世界樹のダンジョンは、
静かに、次の試練を用意していた。




