第二十七話 再挑戦の条件
第三階層の境界は、何も変わっていなかった。
扉も、段差も、標もない。
ただ一歩踏み出せば――拒まれる。
それだけが、はっきりしている。
ユウトは、剣を見つめていた。
精霊王の剣。
何度も命を救われ、
何度も道を切り開いてきた剣。
(……それでも、足りなかった)
第三階層は、
剣の性能も、精霊の加護も見ていなかった。
見られていたのは――
自分自身。
「……何が、足りなかったんだろうな」
独り言のように呟く。
少し離れた場所に、サラが立っている。
近づかない。
声もかけない。
“見ているだけ”。
約束どおりだ。
「間違ってはいないわ」
サラが、静かに言った。
「ただ――
足りなかっただけ」
「何が?」
サラは、少し考えてから答えた。
「依存」
短く、だが迷いのない言葉。
ユウトは、反論しなかった。
「剣も、精霊術も」
「それから……私も」
サラの声は淡々としている。
「全部、“使えるもの”として見てた」
胸の奥に、重いものが落ちる。
否定できない。
「第三階層はね」
サラは続ける。
「“できるか”じゃなくて」
「手放せるかを見てる」
ユウトは、目を閉じた。
頭の奥に、
これまでの戦いが浮かぶ。
追い詰められた場面。
どうにもならなかった瞬間。
そのたびに、
「何か」に期待していた。
(……待ってたんだ)
自分で踏み出すより先に、
“流れが変わる瞬間”を。
「次は」
ユウトは、静かに言った。
「切り札を、当てにしない」
サラが、わずかに眉をひそめる。
「切り札?」
「……うん」
それ以上は、説明しない。
説明できないし、
言葉にすれば、歪む気がした。
サラは一瞬だけ考え、
それ以上は踏み込まなかった。
「要するに――」
「自分の力だけで立つ、ってことね」
ユウトは、小さく頷く。
それで、十分だった。
「私も条件を出すわ」
サラの声が、少しだけ硬くなる。
「次は、声を出さない」
「助言もしない。合図もしない」
「私は――
ただ、見ている」
それが、彼女にできる最大の支援。
ユウトは、深く息を吸った。
「……ありがとう」
礼というより、
覚悟を受け取った証だった。
ユウトは、剣を握り直す。
構えない。
頼らない。
ただ、立つ。
世界樹の空間が、わずかに揺れた。
拒絶ではない。
観測。
第三階層は、まだ開いていない。
だが――
条件は、揃った。
他人の力でも、
運に似た何かでもなく。
自分の人生として、
この先へ進むための条件。
ユウトは、一歩前に出た。
再挑戦は、もうすぐだ。




