第二十六話 介入できない理由
第一階層の入口に戻されたあと、
二人はしばらく言葉を交わさなかった。
静寂が、重い。
敗北の余韻ではない。
理解が追いついていない沈黙だった。
ユウトが、先に口を開いた。
「……さっき」
「サラは、助けようとしただろ」
サラは、否定しなかった。
「したわ」
短く、はっきりと。
「でも、動けなかった」
拳を握る。
「身体が、拒まれた」
第三階層で感じた“壁”。
あれは、敵ではなかった。
選別だ。
「第三階層はね」
サラは、視線を世界樹の奥へ向ける。
「技量も、才能も、レベルも見てない」
「見てるのは――
“誰の人生か”」
ユウトは、眉をひそめた。
「……どういう意味だ」
「簡単よ」
サラは、静かに言う。
「借り物か、自分のものか」
空気が、わずかに揺れる。
「私が出たら、どうなる?」
サラは続ける。
「ユウトは“守られた”って評価される」
「それは、弱点になる」
第三階層は、
“一人で立てるか”を測る場所。
守られる強さではなく、
守る覚悟を試す場所だった。
「だから、私は……」
言葉が、一瞬だけ詰まる。
「一番大事な場面で、手を出せなかった」
ユウトは、何も言わなかった。
慰めも、謝罪も、いらない。
理解してしまったからだ。
⸻
ユウトは、ゆっくりと剣を抜いた。
構えない。
ただ、握る。
「……俺さ」
ぽつりと、言う。
「前は、サラがいれば大丈夫だって思ってた」
サラは、黙って聞く。
「剣も、精霊術も」
「足りないところは、
埋めてもらえばいいって」
剣の柄が、少しだけ軋む。
「でも、それじゃ――」
言葉を、選ぶ。
「王になれない」
サラは、目を伏せた。
それは、彼女がずっと恐れていた答えだった。
「……そうね」
ゆっくり、顔を上げる。
「王は、誰かの影にはなれない」
「隣には立てる。
でも、前には立てない」
ユウトは、頷いた。
「次は……」
視線が、階層の奥を向く。
「一人で行く」
サラは、即座に否定しない。
だが、条件を付けた。
「完全に一人じゃない」
「私は――
“見ているだけ”でいる」
それが、限界。
それが、彼女にできる最大の支援。
ユウトは、深く息を吸った。
(……孤独だ)
だが、不思議と怖くはなかった。
第三階層は、拒絶した。
だが同時に――
道を示した。
何を捨てるか。
何を背負うか。
そして、
誰の人生として立つのか。
世界樹のダンジョンは、
まだ、黙って待っている。
次に進むための答えを。




