第二十四話 第二階層――拒絶
階段は、いつの間にか現れていた。
白い石の床に、影のような段差。
数えられないほど続くそれを下りきった先で、空気が変わる。
第一階層よりも、さらに濃い。
息を吸うだけで、胸の奥がざわつく。
「……ここが、第二階層」
サラの声は低い。
「ここからは、剣だけじゃ足りない」
ユウトは、頷いた。
分かっている。
だから、来た。
精霊術を鍛えるために。
足を踏み出した瞬間、周囲の光が歪む。
音が、消えた。
次の瞬間――
圧倒的な静寂。
そこに現れたのは、形を持たない存在だった。
風のようで、霧のようで、
確かに“意思”だけがある。
「……精霊」
「違う」
サラは即座に否定する。
「精霊“王”に近い存在。
でも、名は持たない」
試練だ。
今度は、逃げ場がない。
ユウトは、深く息を吸った。
剣を下ろす。
そして――
精霊術の詠唱に入った。
「……力を、貸してくれ」
お願い。
命令ではない。
だが――
何も起きない。
返事がない。
気配も、反応も。
(……拒否?)
違う。
拒まれているわけじゃない。
見られているだけだ。
圧が、増す。
足が、地面に縫い止められたように重くなる。
「焦らない!」
サラの声が響く。
「ここでは、術は“通す”ものじゃない!」
「……理解させるものよ!」
理解。
ユウトは、歯を食いしばる。
前世での感覚が、頭をよぎる。
TRPGでは、
術は成功率の問題だった。
ダイスを振り、
成功すれば発動。
失敗すれば、何も起きない。
だが――
(……違う)
ここは、
成功か失敗か、じゃない。
関係性だ。
ユウトは、ゆっくりと膝をついた。
剣も、構えない。
力を、見せない。
「……頼みたい」
声は、小さい。
だが、はっきりしていた。
「一緒に、進みたい」
沈黙。
長い、長い沈黙。
次の瞬間――
圧が、消えた。
試練の存在が、後退する。
完全に応えたわけではない。
だが、拒絶でもない。
“聞いた”。
それだけで、十分だった。
空間が、震える。
視界に、文字が浮かぶ。
――第二階層・試練中断――
評価:未達(進行可)
未達。
だが、進める。
サラが、ゆっくりと息を吐いた。
「……今の、見た?」
「うん」
「拒絶じゃない」
サラは、確信を持って言った。
「精霊に、名前を覚えられた」
ユウトは、静かに立ち上がる。
足は、まだ重い。
だが――
恐怖は、なかった。
(……やっぱり、簡単じゃない)
第二階層は、
精霊術を“使えるか”を問う場所じゃない。
精霊と、並べるかを問う場所だった。
世界樹のダンジョンは、
さらに深く、口を開けている。
試練は、まだ終わらない。




