第二十三話 第一層ーー最初の試練
扉の向こうは、森ではなかった。
地面は滑らかな白い石。
天井も、壁も見えない。
ただ、淡い光が満ちている。
方向感覚が、狂う。
「……広い」
ユウトが呟くと、サラは小さく首を振った。
「広く見せられてるだけ」
「ここは第一階層。
“測る場所”よ」
何を?
と問う前に、空気が変わった。
ひやり、と冷える。
光の中から、形が浮かび上がる。
人の背丈ほどの影。
輪郭は曖昧で、色は淡い。
「精霊……?」
「違う」
サラの声が低くなる。
「精霊そのものじゃない。試練」
次の瞬間、影が動いた。
速い。
剣を抜く間もなく、圧が襲う。
ユウトは反射的に後退した。
――重い。
剣術レベル5。
だが、身体が思うように動かない。
(……まだ、足りない)
影の腕が、振り下ろされる。
ユウトは踏み込み、剣で受けた。
衝撃が、腕に響く。
「っ……!」
力ではない。
姿勢が崩される。
次の一撃が来る前に、距離を取る。
「命令じゃだめ!」
サラの声が飛んだ。
「ここでは、精霊は従わない!」
分かっている。
だから、ユウトは深く息を吸った。
剣を構え直す。
力を抜く。
勝とうとしない。
倒そうともしない。
ただ、向き合う。
影が、再び迫る。
今度は、避ける。
無駄な動きが消え、
剣が“自然に”動いた。
一太刀。
影が、わずかに揺らぐ。
――反応が変わった。
「……いい」
サラが、静かに言う。
「今のは、通じてる」
だが、終わらない。
影は、分裂した。
二体。
三体。
数ではない。
理解の深さが問われている。
汗が、額を伝う。
息が荒くなる。
それでも、剣は止めない。
何度も。
同じ型を、同じ呼吸で。
やがて――
影が、崩れた。
霧のように溶け、
淡い光だけが残る。
静寂。
空間が、わずかに震えた。
視界に、文字が浮かぶ。
――第一階層・試練達成――
評価:可
可。
合格だが、余裕はない。
サラが、ゆっくりと息を吐いた。
「……最低限、ね」
「でも――」
ユウトを見る。
「ここに立ててるのは、確かよ」
ユウトは剣を下ろした。
腕は重い。
だが、心は静かだった。
(……まだ、先がある)
第一階層は、
ただの入口にすぎない。
世界樹のダンジョンは、
ここからが本当の修行だった。




