第二十二話 修行編—扉の前
世界樹の内部へ続く扉は、
最初から開いてはいなかった。
巨大な根が絡み合う壁。
その中央に、淡く光る紋章。
近づいた瞬間、
ユウトの視界に、冷たい感覚が走る。
――拒否。
言葉ではない。
だが、はっきりと分かる。
「……入れない」
ユウトが呟くと、サラは静かに頷いた。
「当然よ」
「ここは、世界樹の“内側”。
修行のための場所じゃない」
サラは扉に手を触れず、続ける。
「資格のある者だけが踏み込める、ダンジョン」
「しかも、階層型。
深部に行くほど、戻れなくなる」
ユウトは息を飲んだ。
「じゃあ、条件は?」
「スキルレベル二つを5以上」
即答だった。
「最低でも――
剣術レベル5」
その数字に、ユウトは歯を食いしばる。
今の自分は、3。
まだ、足りない。
扉から少し離れた場所。
そこが、前段修行の場だった。
敵はいない。
だが、空間そのものが重い。
「ここで一年」
サラは言う。
「外では一年。
中では――十年分」
ドラゴンボールの精神と時の部屋。
その感覚に、近い。
「……間に合うか?」
「ギリギリね」
サラは正直だった。
「でも、やるしかない」
修行は、単純で、地獄だった。
剣を振る。
止まらず、振る。
踏み込み。
体重移動。
姿勢。
一本、一本。
だが――
レベルは、動かない。
「……上がらない」
何度目かの呟き。
サラは、短く言った。
「ここは経験値を“与える場所”じゃない」
「削る場所」
癖。
甘え。
前世の感覚。
全部、削られる。
剣を振るたび、
身体が拒否する。
正しくない、と。
三ヶ月目。
腕は重い。
だが、剣は以前より安定していた。
半年。
呼吸が変わる。
無駄な力が抜ける。
九ヶ月。
ユウトは、ようやく理解する。
(……数値じゃない)
剣術は、
レベルを上げる前に
身体そのものを書き換える必要がある。
一年。
外では、まだ少年。
だが、内では――十年。
ユウトは、扉の前に立った。
剣を握る。
以前のような拒絶は、ない。
代わりに――
重い圧が、かかる。
試されている。
次の瞬間、
視界に文字が浮かんだ。
――条件達成――
剣術レベル:5
扉が、わずかに軋む。
まだ、全開ではない。
だが――開いた。
サラが、静かに息を吐く。
「……行ける」
「ここからが、本番」
ユウトは、剣を構えた。
世界樹の内側。
本物のダンジョンが、
今、口を開けた。




