第二十一話 宴
「……一日くらい、よかろう」
ハイエルフ王――エル=リーフェリアは、そう言って小さく息を吐いた。
「世界は待たぬ。だが、決断の前に息を整える時間は必要だ」
短い沈黙ののち、王は命じた。
「宴を開け」
それは休息の許可であり、同時に――
ユウトを“客人”ではなく、“認められた者”として迎える宣言でもあった。
永久の森の奥、世界樹の根元近くに設えられた広間。
光る果実、香草と霊酒。精霊が戯れるように舞い、ハイエルフたちの静かな笑みが灯る。
ユウトは正直、落ち着かなかった。
向けられる視線は敵意でも好奇心でもない。評価だ。
「人族の少年が……」
「精霊を拒ませなかった者……」
囁きが耳に届く。だが、誰も距離を取らない。
杯が差し出され、名を呼ばれ、言葉が交わされる――それ自体が歓迎だった。
隣でサラが小さく笑う。
「緊張してる?」
「……少し」
「大丈夫。今ここにいるってこと自体が、もう合格みたいなものよ」
そう言われ、ユウトは少し肩の力を抜いた。
宴の中ほど、エル=リーフェリアが静かに立ち上がる。
場は自然と静まり返った。
「ユウト」
名を呼ばれ、ユウトは姿勢を正す。
「お前を、我らは認める」
ざわめきは起きない。
当然のこととして受け止められる。
「王ではない。だが、王を目指す資格はある」
ユウトは深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
それ以上の言葉は、必要なかった。
やがて、サラが弓を軽く掲げる。
「これ、私の武器。アーティファクトよ」
淡々と続ける。
「一回で三射できる。
それと――自分よりスキルレベルが低い相手なら、致命傷。ほぼ即死」
誇りも虚勢もない。事実だけ。
「だから、強い。ワイバーンを一撃で落としたのも……」
少し間を置き、肩をすくめる。
「……たまたまよ」
条件、距離、風、相手の動き。
すべてが噛み合った一射――それだけだ。
そのとき、エル=リーフェリアがサラの前に立つ。
差し出されたのは、翠の風を宿す指輪。
「サラ。これを持て」
「風の王の指輪。国宝だ」
場がざわめく。
「本来は王族の守護者にのみ与えられる。
レベル八以上でなければ扱えぬ。今は眠っているが……いずれ力になる」
サラは深く頭を下げた。
「……ありがとうございます、父上」
次に、王はユウトへ向き直る。
手には二つの指輪。
「ユウト。お前は人族だ。短命で、脆い」
少しだけ、口元が緩む。
「……死なれても困る」
一つ目の指輪。
「異常状態耐性の指輪」
二つ目の指輪。
「自動MP回復の指輪」
「どちらも、お前のレベルに応じて進化する」
国宝ではない。だが、特別だ。
ユウトは両手で受け取る。
「……ありがとうございます」
「感謝はいらぬ。生き延びろ。それが我らへの礼だ」
宴は続く。
だが、浮かれた気持ちはなかった。
(……守られている)
それは甘さではない。期待であり、責任だ。
サラが杯を掲げる。
「修行前夜、ね」
「……ああ」
三年で三十年。
戻れないかもしれない道の前で、与えられた一夜。
ユウトは杯を軽く掲げ返した。
宴の光の中で、覚悟が静かに固まっていった




