第十九話 精霊の集まる場所
最初に変化が現れたのは、音だった。
永久の森には似つかわしくない、
かすかな風のざわめき。
次いで、光。
淡い光点が一つ、また一つと現れ、
ユウトの周囲をゆっくりと漂い始める。
「……精霊?」
サラが、思わず声を漏らした。
見間違いではない。
風、水、土――
名を持たぬ小精霊たちが、
引き寄せられるように集まってきている。
その中心にいるのは、ユウトだった。
次の瞬間、
ユウトの視界に静かに文字が浮かぶ。
――精霊術のレベルが上がりました――
LV5〈熟練〉
力が溢れたわけではない。
威圧感が増したわけでもない。
ただ――
空気が、柔らいだ。
精霊たちは命令を待っていない。
支配もされていない。
ただ、
「ここにいてもいい」と思ったかのように、
ユウトの周囲を漂っている。
その光景に、
ハイエルフたちがざわめいた。
「精霊が……集まっている?」
「呼び寄せたのではない……」
「まるで、居心地を確かめているようだ……」
ハイエルフ王は、しばし言葉を失っていた。
精霊と共に生きる種族。
その頂点に立つ存在であっても、
この光景は滅多に目にするものではない。
精霊は、血を選ばない。
地位にも従わない。
まして人間など、なおさらだ。
「……なるほど」
王は、低く息を吐いた。
「力ではないな。
この少年は……精霊に拒まれていない」
その一言に、
周囲のハイエルフたちは息を呑んだ。
それは称賛ではない。
評価だった。
サラは、黙ってその光景を見つめていた。
(……そう)
驚きは、なかった。
不安も、なかった。
ただ、胸の奥が、わずかに締めつけられる。
(やっぱり……ユウトは)
精霊に無理をさせない。
力で従わせようとしない。
それでも――
だからこそ、精霊が集まる。
ユウトは、まだ十二歳だ。
剣も未熟で、身体も細い。
それなのに、
精霊の前では不思議なほど自然だった。
(私が見てきた中でも……こんな在り方は、そう多くない)
サラは知っている。
精霊術の本質は、
才能でも、魔力量でもない。
姿勢だ。
敬意を持つこと。
恐れすぎず、軽んじず、
対等であろうとすること。
(……精霊術、熟練)
それが、今のユウトの立っている場所。
英雄には、まだ遠い。
王でも、もちろんない。
けれど――
(ユウトは、ちゃんと進んでいる)
精霊たちは、
ユウトの周囲をゆっくりと巡っていた。
戯れるように、確かめるように。
世界樹は、何も言わない。
だが、その沈黙は拒絶ではなかった。
見ている。
ユウトの成長を。
ユウトの選択を。
サラは、小さく息を吸った。
(私が、この人を導くと決めた理由)
(……間違ってなかった)
精霊の淡い光の中で、
サラは、静かにそう確信していた。




