第十八話 決意
ハイエルフ王の前で、ユウトは一歩、前に出た。
剣を掲げることはしない。
跪きもしない。
ただ、名を明かすために立った。
「俺は――亡国の王子だ」
声は、震えなかった。
「剣の国は滅びた。
王も、民も、もういない」
空気が、わずかに張り詰める。
だが、ハイエルフ王は驚かなかった。
ただ、静かに目を細める。
「……やはり、か」
その反応だけで十分だった。
世界樹の前では、すべてが見通されている。
白い世界が、再び重なり合う。
意識の奥に、声が響いた。
『――今は、まだ』
短い言葉。
拒絶でも、肯定でもない。
ただの保留。
『そなたは、王ではない』
『だが――
王になる可能性を、否定はせぬ』
精霊王の剣が、これまでとは違う震え方をした。
拒まれてはいない。
だが、完全にも応えていない。
ユウトは、剣を握り直す。
「従わせるために来たわけじゃない」
「精霊王を、支配するつもりもない」
声は静かだった。
「ただ――
混沌から、この世界を守る」
「そのために、
精霊王の剣に相応しい王になる」
誓いではない。
宣言でもない。
決意だった。
世界樹が、ゆっくりと脈打つ。
次の瞬間――
森そのものが、息を呑んだ。
音ではない。
言葉でもない。
意味だけが、
すべての意識に流れ込んでくる。
『この少年を、認めよ』
――世界樹の声だった。
『今は、王ではない』
『力も、足りない』
一拍。
永遠にも思える沈黙ののち、
最後の意思が、重く落ちる。
『だが――』
『このままでは、世界は終わる』
精霊王の剣が、かすかに応えた。
輝きは強くない。
だが、拒絶もない。
それだけで、十分だった。
ハイエルフ王は、深く息を吸う。
そして――
迷いなく、ユウトへこうべを垂れた。
続いて、周囲にいた
ハイエルフたちも、一斉に頭を垂れる。
それは礼ではない。
服従でもない。
世界樹の意思を受け取り、
種族として下した選択だった。
次の瞬間、
ユウトの視界に文字が浮かぶ。
――経験値を獲得しました――
500
300
50
150
500
50
100
300
50
100
50
150
500
200
9999
9999
それは、合計ではなかった。
ひとつひとつが、
この旅で刻まれた出来事そのものだった。
救った村。
守り切った命。
襲われた馬車。
剣を抜いた判断。
暗曜騎士団長――
ヴァルグリム。
名を名乗り、
逃げ道を断ち、
圧倒的な力を前に立ちはだかった存在。
その死線さえ、
一つの数値として刻まれている。
そして最後に、
永久の森に踏み入ったという事実。
世界樹へ辿り着いたという到達。
その重みだけが、
他と明確に違っていた。
戦闘の勝敗ではない。
効率でも、結果でもない。
生き方そのものが、評価されていた。
表示が切り替わる。
――称号を獲得しました――
亡国の王(仮)
精霊王の剣主(仮)
世界樹の記録者
王ではない。
だが、もう王子でもない。
境界に立つ者。
世界樹に「記された」だけの存在。
最後に、問いが現れる。
――スキルを解放しますか?――
ユウトは、すぐには答えなかった。
力を得ることはできる。
だが、それは道を固定することでもある。
世界樹は、答えを急がせない。
ハイエルフ王は何も言わず、ただ見ていた。
サラも、隣で静かに立っている。
ユウトは、精霊王の剣を見る。
まだ、すべては眠っている。
(……解放は、まだだ)
これは、始まりにすぎない。
世界は、混沌へ向かっている。
その中で――
自分は、王になる。
その資格を、
これから奪い取る。
ユウトは、表示を閉じた。
世界樹は、何も言わない。
それが、
記録された者にだけ与えられる沈黙だった。




