第十七話 ハイエルフ王
気配は、突然だった。
森の闇が、わずかに揺れた瞬間――
殺意が降り注いだ。
「伏せて!」
サラの声と同時に、
風が爆ぜる。
次の瞬間、
無数の矢が空を裂いた。
上、横、背後。
逃げ場はない。
だが――
矢は、届かなかった。
「風の精霊、シルフ」
サラの詠唱は短い。
旋風がユウトを包み、
矢をすべて弾き飛ばす。
木々に突き刺さる音が、
遅れて響いた。
「……三十人」
サラが低く告げる。
闇の中から、
銀の瞳が浮かび上がった。
全員が弓を構え、
一切の無駄がない。
ハイエルフ。
しかも――
戦士だ。
次の一斉射を待たず、
空気が変わった。
ハイエルフたちの視線が、
一点に集まる。
ユウトの手の中。
精霊王の剣。
刃が、微かに鳴った。
それだけで、
弓が下ろされる。
沈黙。
やがて、
前に立つ一人が口を開いた。
「……剣を」
短く、重い声。
「精霊王の剣を持つ者よ」
「王が、お会いになる」
ハイエルフの国は、
森そのものだった。
建物は、ない。
だが、秩序がある。
世界樹の根が張り巡らされた広場に、
一人のエルフが立っていた。
老いているはずなのに、
年を感じさせない存在感。
ハイエルフ王。
王は、ユウトではなく、
剣を見た。
「久しいな……
精霊王の剣よ」
視線が、サラへ移る。
「外に出た王族が、
よく戻ったものだ」
サラは、一礼した。
「……お久しぶりです」
「答えよう」
王が、静かに言う。
「精霊王の剣とは何か」
空気が、張り詰めた。
「それは、
精霊王たちを従える資格を示す剣」
王の言葉と同時に、
森が、わずかにざわめく。
「風の王――イルク」
「炎の王――イフリート」
「水の王――クラーケン」
「土の王――ベヒモス」
そして、一拍置く。
「森の王――
エル=シルヴァ」
その名が告げられた瞬間、
大地が、わずかに脈打った。
「この五柱を、
従えることができる剣だ」
だが、と王は続ける。
「従わせることは、
持つだけでは叶わぬ」
「戦い、勝ち、認めさせねばならない」
ユウトは、息を呑んだ。
「精霊王の解放条件は二つ」
「剣術レベル七」
「精霊術レベル七」
はっきりと告げられる。
「世界樹が、それを認めた時」
「初めて、
精霊王は剣に応える」
王は、ユウトを見た。
「人間には、
ほぼ不可能だ」
「寿命が足りぬ」
そして、
静かにサラを見る。
「だが――
エルフならば、可能性がある」
長寿。
時間を味方につけられる種族。
王の視線が、
意味を持つ。
ユウトも、サラを見た。
目の前に立つ彼女は――
精霊術レベル七。
弓術七。
精霊と共に生きる者。
条件を、満たしうる存在。
(……そういうことか)
精霊王たちが、
まだ自分を認めなかった理由。
剣は、王を選ばない。
世界が、王を試す。
「選べ」
ハイエルフ王が告げる。
「時間を賭けるか」
「ここで、引き返すか」
永久の森は、逃げ場を与えない。
だが、
答えは、すでに出ていた。
ユウトは、剣を握り直す。
その横で、
サラが、静かに立つ。
精霊に愛され、
条件を満たす者。
だが――
剣を持つのは、自分だ。
世界樹は、
まだ何も言わない。
それが、
試練が始まった合図だった。




