第十六話 世界樹 ep2
白い世界は、何も変わらない。
光も、影も、動かない。
風も、音も、存在しない。
それでも――
確かに、見られている。
拒絶された直後だというのに、
世界樹は沈黙したままだった。
問いもない。
評価も、続きもない。
ただ、
そこに在る。
(……終わり、か)
ユウトは、剣を下ろさなかった。
諦めたわけではない。
次に何をすべきか、
まだ分からないだけだ。
精霊王の剣は、
重いまま沈黙している。
力を貸す気配も、
導く意思も感じられない。
だが――
拒絶されてなお、
剣は手の中にあった。
それが、
答えのすべてだった。
『……』
再び、意味だけが流れ込む。
言葉ではない。
音でもない。
理解だけが、落ちてくる。
『拒んだのは、力が足りぬからではない』
胸の奥が、わずかに震えた。
『戦う覚悟がないからでもない』
ユウトは、静かに息を吐く。
(……じゃあ、何だ)
『そなたは、
まだ“失っていない”』
世界が、わずかに歪んだ。
『王とは、
奪われ、
選び、
なお立つ者』
『そなたは、
まだ立場を失っていない』
亡国。
その言葉が、
遅れて胸に落ちる。
(……王子、だからか)
国は滅びた。
だが、
自分はまだ“選ばれていない”。
王でも、英雄でもない。
ただ、生き残っただけだ。
『故に、
精霊王の剣は応えぬ』
剣が、かすかに震えた。
拒絶ではない。
未成熟の印。
『そなたは、
選ぶ前に、
試されねばならぬ』
白い世界が、静かに遠のく。
距離ではない。
重なりが、解けていく感覚。
次の瞬間、
ユウトは地面に膝をついていた。
永久の森の中だ。
闇は、相変わらず深い。
だが、
あの白は、消えていない。
ただ、
“先”にある。
サラが、すぐ傍にいた。
「……終わったの?」
声は低い。
だが、焦りはなかった。
「いや」
ユウトは、短く答える。
「始まってすら、いない」
それで、十分だった。
世界樹は、拒んだ。
だが、
道を断ったわけではない。
条件を、示しただけだ。
精霊王の剣を、見下ろす。
力はある。
奇跡も起こせる。
だが、
それだけでは足りない。
選ぶこと。
失うこと。
背負うこと。
それを、
時間の中で証明しろと。
永久の森は、
逃げ場を与えない。
外の世界は、
待ってくれない。
なら――
やるしかない。
「三年だ」
ユウトは、闇の中で呟いた。
「外で三年」
「ここで……三十年」
サラは、何も言わずに頷いた。
それが、
導き手の答えだった。
世界樹は、沈黙している。
だがその沈黙は、
拒絶ではない。
猶予だ。
時間を賭ける者にだけ与えられる、
唯一の猶予。
こうして――
永久の森での修行は、
静かに始まった。




