第十三話 世界樹と精霊王の剣
圧倒的だった。
剣を交えたわけでもない。
勝負と呼べるものですらなかった。
ただ、そこに立ち――
何も、できなかった。
あれが、強者。
暗曜騎士団長――
ヴァルグリム。
世界が認める“武”だ。
サラですら動けなかった。
レベル七のハイエルフである彼女が、
精霊と共に立ち尽くすしかなかった。
それが、何より重かった。
⸻
夜、焚き火の前。
サラは炎を見つめたまま、静かに言った。
「……正直に言うわね、ユウト」
「あなたが生きていること自体に、驚いたわけじゃない」
少し間を置いて、続ける。
「三回」
ユウトは、視線を上げる。
「ヴァルグリムの一撃を、三回もかわした」
「偶然でも、運でもない」
「精霊ですら動けなかった場面で――
あなたは、“そこにいなかった”」
視線が、精霊王の剣へ向く。
「それに……剣が、光った」
「精霊に命じたわけでも、
魔法を使ったわけでもないのに」
サラは、言葉を切った。
「……あれは、精霊王の剣が、
あなたに反応した証よ」
断定はしない。
だが、確信はあった。
⸻
その夜。
ユウトは、久しぶりに意識の奥を覗いた。
ステータス。
剣術レベル 3
精霊術 1
――変わっていない。
(……やっぱり、上がってない)
オーガを倒した時、
守ると決め、退路を断った時だけ、
剣術は三に上がった。
それから半年。
剣を振り続けても、数値は動かなかった。
だが――
視線を下げた瞬間、
見覚えのない一行に気づく。
――称号。
亡国の王子
(未継承)
(……未継承、か)
力が足りないわけじゃない。
努力が無意味なわけでもない。
世界は、力の前に――
立場を与えた。
王子であるという事実。
だが、まだ何も選んでいない。
王として立つのか。
英雄として進むのか。
それとも、別の道か。
(だから、止まってる)
これは停滞じゃない。
選択待ちだ。
⸻
焚き火が、はぜる。
サラは、少し迷いを含んだ声で言った。
「永久の森……その奥に、世界樹がある」
「精霊王の剣の“力”じゃない」
言い直す。
「……あの剣が、
“何のために存在しているのか”」
「そのヒントが、
世界樹には残されていると言われているわ」
世界樹は、精霊の源。
だが、
力を授ける場所ではない。
意味を問う場所だ。
「答えを得られるとは限らない」
「ただ――
進むべき道を、知ってしまうかもしれない」
ユウトは、精霊王の剣を見る。
五年。
世界が一つになると告げられた期限。
今のままでは、勝てない。
それだけは、はっきりしている。
奇跡だけでも、
精霊だけでも、足りない。
なら――
選ぶしかない。
強くなる“意味”を。
答えは、まだ口にしない。
だが、心の奥では――
すでに、森を見ていた。
永久の森。
世界樹。
精霊王の剣が、
“剣である理由”を示す場所。




