第十二話 初対決
剣の王国が崩壊してから、五ヶ月。
俺とサラは、村から村へと移動しながら、
助けられる命を拾う旅を続けていた。
名を残さず、
旗にも属さず、
ただ、目の前で失われようとする命のために剣を振るう。
その日、最初に聞こえたのは――
悲鳴だった。
村の中央広場。
鎧を着た男たちが、五人。
逃げ惑う村人を追い、剣を振るい、
躊躇なく命を刈り取っている。
動きは揃っていた。
迷いも、感情もない。
(……騎士)
だが、守るための剣ではない。
「サラ!」
「分かってる!」
言葉は、それだけで足りた。
「――ノーム、止めて!」
サラの声に応え、地面が唸る。
土が盛り上がり、騎士たちの足を絡め取った。
その一瞬で十分だった。
踏み込み、一人目を斬る。
体勢を崩した二人目も、続けて斬る。
「ノーム、縫い留めて」
土に拘束された騎士へ、
サラの矢が放たれる。
一射。
迷いはない。
続けて、もう一射。
五人。
全員が、地に伏した。
村に、静寂が戻る。
その瞬間だった。
風が、止まった。
シルフが沈黙する。
(……?)
次の瞬間、
空気が落ちた。
寒気でも、殺気でもない。
ただ――
ここにいれば、死ぬ。
理由は分からない。
だが、身体が理解していた。
背後。
何かが、立っている。
振り向いた。
黒い鎧の男。
いつ来たのか分からない。
足音も、気配もなかった。
そこに「現れた」のではない。
最初から、世界の一部として存在していたかのような圧。
男は、倒れた五人の騎士を一瞥し、
俺を見た。
「……人か」
分類するような一言。
剣を抜いていない。
構えてもいない。
それなのに、足が動かない。
次の瞬間。
来る。
剣を振る暇はない。
考える時間もない。
(……頼む)
頭の奥で、
二つのサイコロが転がる。
六。
六。
一歩、ずれる。
刃が通り過ぎ、
俺のいた場所が抉れる。
――二度目。
六。
六。
世界が遅れ、
衝撃だけが後から追いつく。
――三度目。
六。
六。
膝が沈み、
視界が揺れる。
それでも――
生きている。
その瞬間。
精霊王の剣が鳴った。
鞘に収まったまま、
低く、澄んだ音。
風が止まり、
土が沈み、
精霊の気配が遠のく。
男の視線が、
初めて剣へ向いた。
剣が、剣に触れる。
ぶつからない。
交わらない。
それでも――
世界が、一瞬だけ静止した。
精霊王の剣が、
奇跡ではなく、意思に反応した。
男は、剣を下ろした。
「……我が名は、ヴァルグリム」
誇示でも、威圧でもない。
ただ、名を告げるという行為。
「今の技を交わした人間は、五人もいない」
そこに感情はない。
確認と、満足だけがあった。
去り際、剣を見る。
「五年だ」
「五年後――
世界は、一つになる」
予言ではない。
理解した者の言葉だった。
ヴァルグリムは、森に消えた。
しばらく、剣を下ろすことができなかった。
サラが、静かに隣に立つ。
「……精霊が、圧された」
「ああ」
あれは戦いじゃない。
測られただけだ。
五年。
ヴァルグリムの言葉が、頭から離れなかった。
長いようで、短い時間。
剣を握り、
傷つき、
生き延びるには――
あまりにも短い。
(……五年後)
世界が、一つになる。
それが平和なのか、
支配なのか、
破滅なのか。
そんなことは、まだ分からない。
だが一つだけ、はっきりしている。
(その時、俺は――
“選ばれる側”でいなきゃいけない)
奇跡に頼るだけでは、足りない。
精霊に守られるだけでも、足りない。
剣を振るう理由を、
自分で選べる場所に立たなければならない。
五年後。
逃げている自分は、いない。
守ると決めた世界の中に、
俺は、必ず立っている。
それだけを、胸に刻んだ。




