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『昔やっていたテーブルトークRPGの世界に転生し、精霊に好かれるところから始めます』  作者: ゆふぉん


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第1話 サイコロは、もう振れないはずだった

第一話


サイコロは、もう振れないはずだった


 痛みは、前触れもなくやってきた。


 腹に突き立てられた刃の感触に、息が詰まる。

 視界が白く滲み、足から力が抜けた。


「……は?」


 意味を理解するより先に、俺は床に倒れ込んでいた。

 天井の蛍光灯が、ゆっくりと回る。


 私の名前は――永瀬佑都。

 35歳。

 プライベートを捨てて、仕事人間となり、大手ディスカウントストアの支社長に抜擢された‼️


 支社長となり、初出勤。

 お客様様とレジで揉めていたので、対応にしようした。

 それだけだ。


 刃物を持った客に刺される理由など、

 どこにもなかった。


 血の匂いが広がり、

 意識が、静かに遠のいていく。


 そのとき――

 なぜか、思い出した。


 サイコロを。


 大学時代。


 狭い部屋に集まり、

 紙と鉛筆、キャラクターシートを広げていた。


 白い六面体のサイコロが、

 テーブルの上を転がる。


 テーブルトークRPG――TRPG。


 そこには、

 世界を語る者と、

 世界を生きる者がいた。


 語る者は、ゲームマスター。

 世界を作り、敵を動かし、

 神や運命すら演じる存在。


 俺たちは、プレイヤー。

 剣士、魔法使い、神官、弓手。

 それぞれが一人の人生を背負い、物語を進めていく。


 成功するか、失敗するか。

 それを決めるのは――

 二つのサイコロだった。


 一つは、行動の正しさ。

 もう一つは、世界がそれを許すかどうか。


 そして、

 二つともが「六」。


 六ゾロ。


 それは、

 世界が完全に肯定する瞬間だった。


 だが、ルールは厳しい。


 レベルの上限は、10。

 どれほど英雄でも、神にはなれない。


 そして――

 死は、やり直せない。


 理論上、生き返りの魔法は存在した。

 だが、それはレベル9の神聖魔法で、

 成功する保証はなく、失敗すれば完全消滅。


 だから、死は本物だった。

 だから、俺たちは真剣になれた。


 そんな遊びも、

 大学卒業と同時に終わった。


 社会人になり、

 俺はサイコロを置いた。


 もう二度と、

 振ることはないはずだった。


「……我が子よ!」


 声が、炎の中で響いた。


 誰かに強く抱き上げられる。

 熱。

 轟音。

 崩れ落ちる建物。


 視界の端で、

 空から火の塊が降り注いでいた。


(……隕石?)


 違う。


(……魔法だ)


 その瞬間、

 記憶が一気につながった。


(……俺は)


(第一王子だ)


 剣王国アル=エイン。

 剣王アルベルトの息子。


 ユウト・アル=エイン。

 十二歳。


 燃え落ちる王都。

 降り注ぐ高位火炎魔法メテオ


 レベル7でも即死する規模。


 この世界の人間は、

 これを神罰と呼ぶのだろう。


 だが俺は知っている。


(……これは、世界を壊す魔法だ)


 瓦礫の回廊。


 炎に照らされ、

 剣王アルベルトは、血に染まりながら立っていた。


「聞け……ユウト」


 荒い息の合間でも、

 その声は、確かに王のものだった。


「この国は……滅びた」


 否定したかった。

 だが、空から落ちる炎を見て、理解してしまう。


「だが……終わりではない」


 王は、一本の剣を差し出す。


 精霊王の剣。


 鈍い剣身。

 だが、確かに“何か”が眠っている。


「これは、精霊王の封印を解く剣だ」


「力を振るう剣ではない」


「選び、背負う者の剣だ」


 天井が崩れ、火花が散る。


 時間がない。


「我が子よ」


 王は、俺の額に額を寄せた。


「復讐のために、剣を振るうな」


「だが――」


 その瞳に、確かな怒りが宿る。


「この国を、無かったことにするな」


「生き延びろ。学べ」


「そして……」


 王は、最後の力で言い切った。


「かつて、わしと背中を預け合った者たちを頼れ」


 剣王の仲間。

 冒険者たち。


「彼らが生きている限り、

 この国は、終わっておらん」


 次の瞬間――

 王は、俺を突き飛ばした。


「行け!!」


 爆炎。


 視界が白に染まり、

 身体が宙を舞う。


「父――!!」


 叫びは、炎に呑まれた。


 落下。

 熱風。

 死の気配。


 だが――

 頭の奥で、懐かしい感覚が蘇る。


 確率の重さ。


 成功と失敗が、

 同時に存在している感覚。


 そして、

 一点に収束する未来。


(二つの流れが……重なった)


(……六ゾロだ)


 世界が、一瞬だけ静止した。


 風が止まり、

 音が消え、

 炎さえ揺れなくなる。


 それは祈りじゃない。


 確定した成功だった。


 精霊王の剣が、

 強く手に押し付けられる。


 見えないはずのものが、見えた。


【ステータス】

•名前:ユウト・アル=エイン

•年齢:12

•称号:第一王子

•剣術:1

•精霊術:1(精霊王の剣の加護)

•固有ギフト:《ダブルシックス・ギフト》(一日三回)


(……本当に)


(サイコロの世界だ)


 ただし。


 ここには、

 ゲームマスターはいない。


 やり直しも、

 巻き戻しもない。


 世界は、

 誰も調整してくれない。


 サイコロの意味を知っているのは、

 俺だけだ。


 それでも――

 振るしかない。


 これは、

 かつてプレイヤーだった俺が、

 王として世界と向き合う物語だから。


 炎の中、

 俺は剣を握りしめた。


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