1/3 目覚め
初投稿です(; ・`д・´)。
まだ仮の設定で、余裕があれば本編を考える予定ですが……。
現時点では全三部とします。
よろしくお願いします。
土の匂いが鼻をついた。
湿り気を含んだ風が頬を撫でる。いや、正確には——鼻先と、長く伸びた口元のあたりを通り抜けていった。
「……クゥゥ……」
喉の奥から漏れた声は、自分のものとは思えなかった。妙に短く、高い。
まるで動物の鳴き声のような……。
いや、間違いなく仔犬の鳴き声だ。
頭の中が混乱した。確か、目をつむる前までは柔らかい毛布にくるまれて眠っていたはず……。
こんな場所は知らないし、夢の中?いや、待てよ……最期、眠りについた時の記憶が曖昧だ。なぜ、僕はこんな所にいるんだ?
反射的に立ち上がろうとすると、前脚がぬかるみに沈んだ。
やや湾曲した爪、しなやかに曲がる関節、しっかりと大地を捉える肉球の感触。とくっ、と心臓が高鳴る。
小さく早い鼓動と共に、徐々に理解が追いついてくる。こんな場所、知らない。でも、夢だったら違う感覚のはず。
(っ……これは……?)
——そう思ったはずの言葉は、またも「クゥ?」という鳴き声になって漏れた。
訳がわからない。パニックに陥りかけたその時——目の前にある小さな水たまりに映り込んだ姿が見えた。
わずかに揺らいでいる水面に映っていたのは、薄い甘栗色の毛並み、胸元には白銀の襟巻きがある、耳の長い仔犬の姿。額のあたりに膨らんだ白銀の毛が、ひときわ印象的だった。どこかで見覚えが……いや、これは……。
(僕……だけど……小さい?いや、若返ってる?湿った前脚の冷たさはこんなにハッキリしている。)
考えれば考えるほど、これは“夢”では済まされないと感じた。
名前は「れあ」。まだそれ以外はっきりと思い出せない。
(ここは……どこだったか? 僕は……何をしていた?)
これは夢ではなく、また元いた場所で「生き返った」のでもなく。あてはまる状況を考えると、全く異なる世界で生き返ったみたいだ。
しかし結局、目覚める前まで自分が何をしていたのかを思い出すことはできなかった。
——それからしばらく、僕は本能に従って森の中を歩き回っていた。
空腹と喉の渇き。冷たい風と、毛に纏わりつく湿度。それらすべてが現実の感触として身体に訴えかけてくる。
木々は太く、枝は高く張り出し、まるで神社の杜のように空を覆っていた。足元では生い茂る草の間を縫うように、小さな生き物たちが逃げていく。
(ここは……夢じゃない。現実の異世界だ)
そう再認識するには、時間はかからなかった。
時折、蛙のような小動物を捕まえては口にすることで空腹を紛らわすことを繰り返し、何か元の世界に返る手がかりはないかと森の中を散策して歩く日々が続いた。
数日が経った頃——僕は森の中でも木漏れ日が挿すような明るい場所で、人間の少女に出会った。
「わっ、犬! こんなところに?」
何日も、誰とも出会うことがなかったので、こちらも驚いていたが、少女はより驚いたようだ。
「こっちにおいで!」
僕の姿が仔犬そのものだったからか、その少女は怯えることもなく僕に近づきながらやさしくそう言った。
「だいじょうぶだからね。」
そう言って、自分の名前が「ミリカ」であること、薬草を摘みにここに来ていることをやさしい口調で語りかけながら、ゆっくりと近づいてきた。
見た感じ、彼女は明るく懐っこい性格のようで、10歳前後の幼い容姿だ。記憶に残る主人たちの着衣と比較すると、かなり粗末に見える服、竹で編まれた小さな籠を背負っていた。
さらに近づいてくるミリカに僕は本能的に唸り声を上げてしまったが、彼女は両手を広げてしゃがみ込み、より優しい声で話しかけてきた。
「大丈夫、わたし、怖いことしないよ。……お腹、すいてる?」
彼女は、懐から小さな干し肉を取り出して僕の前に置いた。そして僕が匂いに釣られて一歩踏み出した姿を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「よかった……食べてくれるんだね」
——その日から、僕はミリカと一緒に行動するようになった。
彼女は森の近くで独りで暮らしていた。両親を病で亡くし、小屋で細々と生きているという。
僕は人間の言葉を話せないが、声の強弱や態度である程度の意思疎通をすることができた。
「れあ、って名前にしようかな。茶色の毛が、なんか陽だまりみたいだから……」
ミリカに呼ばれた時、僕はちょっと驚いた。まさにそれは、前の世界での僕の名前だったからだ。
毎朝、彼女は朝早くから火を起こし、自分で管理している畑から少量の野菜を収穫し、スープを作り朝食にする。
僕にも同じようにスープを分けてくれたし、午前中は薬草を取りに誘われて一緒に森の奥まで散策し、時には近くの村まで買い出しに連れて行ってくれた。夜中に遠くから獣の鳴き声がする時は、近くに抱き寄せて一緒に寝てくれたりもした。そんな彼女は、一人で森をさまよっていた僕の心に大きな安心を与えてくれた。
そんな平穏な日々が二、三週間ほど続いた。
だが——ある日、突然それは終わりを告げた。
森の奥から、異様な唸り声と地響きが迫ってきた。土の匂いが生臭さに変わり、地面を這うような異音が混じっていた。
ミリカが悲鳴を上げた時、目の前に現れたのは——犬に似た、しかし仔犬の僕から見れば大きな獣で、背中には巻貝のような殻がある魔獣。
よく見ると、うっすら開いた口からは粘を引く体液、その奥からは触手のような舌がうねっていた。
——後に、スネイリードッグと呼ばれる最も低ランクの魔獣だと知ることになる。
今後の展開をどうするかは未確定; (; ゜Д゜)
時間は作ろうとしても作れないもの……(涙)




