【8月11日(月) 晴れ、浴衣日和】
この日が来た。
“偶然”を最も不自然に装うイベント、夏祭り。
Twitterに出回る「○○神社の夏祭り行きます!浴衣着ます〜✨」という川崎さんのポスト。
偶然を装うため、俺は5秒でリツイートを見てから7時間かけて慎重にプランを練った。
◆作戦その10:夏祭りすれ違い大作戦
まず大前提:彼女に「ストーカー?」と思わせてはいけない。
だからこそ、「え!?いるの!?」感が必要不可欠。
■ルール:
待ち伏せは禁止
「たまたま友達と来た」演出必須
一人でいると“怖い”、でも友達といると“近づけない”——
→よって、適度なフェードアウトのできる友達=石田
18:45、会場入り。
20:00、ついに発見。浴衣姿の川崎さん。
やばい。めちゃくちゃ似合ってる。なんか発光してる。
唐突に心臓が倍速。
「あの川崎さんが、今ここに存在してる事実だけで死ねる」感。
ここで深呼吸。あくまで“偶然”を演出。
20:03、声をかける。
僕:「……あれ?川崎さん?」
川崎さん:「えっ……!あ、○○くん!?(名前呼ばれた死んだ)」
僕:「うわ〜、ほんと偶然……今日来てたんだ?」(※100%知ってた)
川崎さん:「う、うん、友達と来てて、今ちょっと別れてて……」
僕:「奇遇だね、俺もちょうど今ひとりだった」
→ その瞬間、石田、空気を読んで屋台へフェードアウト。マジ感謝。
そこから5分くらい歩いた。
他愛ない話をした。「かき氷、絶対頭キーンなる派?」とか、「金魚すくい、戦力外です」とか。
話してるうちに、川崎さんの表情が、
あの“LOVE弁”を見たときと全然違ってることに気づいた。
素直に、楽しそうだった。
たぶん、本当に“偶然会ってよかった”って思ってくれた顔だった。
そして、花火が上がった。
ドーン。ドドン。
あまりに近すぎて、音が胸に響いた。
それに混じって、彼女の横顔がふっと照らされた。
僕は、意を決して言った。
「……来てよかった。川崎さんに会えて。」
一瞬、彼女は黙った。
でも次の花火の後、
小さく、ほんとに小さく、
「……私も。」
って言ってくれた。
→【本日の結論】
・偶然を演出するには、入念な準備と程よい図々しさが必要
・浴衣の破壊力は想像の3倍、記憶に一生残る
・恋の花火は、たぶん、ちゃんと上がった
夜、帰宅して、靴を脱ぎながら小さくガッツポーズをした。
明日からまた日常だけど、
今日という一日があれば、あと3か月は生きていける。
【明日予告】
8月12日(火)『翌日LINEを送るか送らないか問題会議』
恋の“翌日連絡”、それは最も繊細な一手。
送る? 送らない? スタンプだけ? 長文は地雷?
夜まで悩む男子の苦悩、ここに開幕。