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CODE:0(コード・ゼロ) -公安を目指すはずが、なぜか美少女に囲まれてます-  作者: nime
受験編

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LOG.009 ─ 脱出の合言葉

LOG.009 ─ 脱出の合言葉


――午後試験、終盤。

一人を欠いたチームが、警報の鳴り響く仮想施設内を駆け抜ける。

その中に混じる、微かな違和感。そして、沈黙の中に潜む“嘘”。



「……とにかく、先に進もう。湊のことは、後で考える」

天音の声が響き、冷たち3人は頷いた。


施設内にけたたましく鳴る警報。真っ赤に染まる照明。

一人――御影 湊を失ったチームは、残された4人で脱出ルートの確保に動き出していた。


「くっ……捕まるって、どういうことよ……」

さくらは悔しそうに奥歯を噛みながら、拳を握る。

だがその手が、無意識にジャケットのポケットを押さえていることに、天音だけが気づいていた。



「こっちの通路……封鎖されてたはずじゃ?」

まつりが地図を睨みながらつぶやく。


「誰かが開けたのかも。時間がない、進もう」

冷がそう判断し、先を急ごうとするが――


「ちょっと待って」

天音が一歩踏み出すと、静かに言った。

「さくらさん、さっきからそのポケット、ずっと触ってない?」


さくらは小さく首を振り、視線をそらした。

冷はその様子を見て、少しだけ微笑むと優しく言った。

「……よし、じゃあ進もう」


さくらは小さくうなずくと、静かにその場を後にした。

その背中には、どこか張り詰めたものが漂っていた。


天音も静かに頷いた。まだ不安は残っていたが、今は前に進むしかなかった。



施設内の空気は、次第に荒れていた。警報に合わせて足元が微かに振動する。


「待って、あの先……床のパターンが違う」

まつりが指差した先には、不自然な四角い区画。


「トラップかも。天音、回路の干渉頼める?」


「やってみる。ここの信号は……中継式。干渉まで十秒」


天音が小型端末を操作する間、冷は壁の影に入りバリケード代わりの金属板を持ち上げる。


「成功。今、通れる!」


「行くぞ!」


4人は息を合わせてトラップを回避し、隔離区域の前へと到達した。

まつりが計算したコード候補を冷に渡し、端末に打ち込もうとしたその時――


「あれ、もしかして……このコード?」

さくらがふと何かを思い出したように端末を操作し、扉が開いた。


「……午前の資料に書いてあったコードだよね?」


天音が確認するように言った。


「さすが、覚えてたんだね」

まつりが素直に感心したように呟いた。


「……進もう。ここで止まるのが一番まずい」

冷が静かに告げ、4人は再び走り出した。



脱出地点へ到達し、試験終了の音声が無機質に流れる。


『第2段階試験、終了。脱出成功を確認――』


試験官がUSBの提出を促す。


「提出するのは、代表一名で構いません」


さくらがポケットからUSBを震えながら取り出す。


「……私が、持ってきたから……」


その手が震えているのを見て、冷がそっと言った。


「大丈夫。俺が渡すよ」


冷がUSBを受け取り、試験官へと差し出す。


「4人でのゴールですね?」

試験官が確認する。


「うん、4人での……ゴールだね」

さくらが頷いた、その瞬間――


「5人目、到着っと」


背後のゲートから、捕らえられていたはずの湊が現れた。


「えっ……!? 湊っ……!!」


さくらが振り返って目を見開く。


「まつりに解除を頼んだんだ。時間があればできるって言っていたから」

冷が静かに言う。


「うう……冷ぃ……!」

湊が駆け寄り、思わず抱きついた。


その場に、別の試験官が入ってくる。


試験官たちがひそひそと短く会話を交わすと、冷たちに告げた。


「午後の部はこれで終了です。他の受験者と同じく、控室でお待ちください」



湊の視界には、暗い鉄格子の部屋が広がっていた。

彼はその片隅に膝を抱え、ぼそりと呟いた。


「……これでよかったのかな……」


指示された任務は、“仲間を閉じ込めること”。

それを実行すれば合格、拒否すれば失格。


「でも、みんなを閉じ込めたくなんてなかった……だったら、僕は……」


彼はゆっくりと立ち上がると、扉の端末を見つめて決意を固めた。

「冷なら、きっと……何か方法を考えるって、信じてる」



控室へ向かう無機質な廊下。

さくらが、ふと立ち止まった。


「……ごめん……!」


突然の謝罪に、冷たちが振り返る。


「USBのデータ……偽装した。私、みんなを……裏切ったんだ」


沈黙。


冷は一歩進み、さくらの肩に手を置いた。


「大丈夫。策は打ってある。データがオリジナルに戻るように細工しておいたから」


「そんな……なんで……」

さくらは泣きながら、冷の胸に顔をうずめた。


「やらなきゃいけなかったの。あの隠し任務……成功すれば合格、拒否すれば失格……」


「……知ってたよ」

天音がそっと、さくらの頭を撫でた。


「行動は不自然だった。でも、表情が……全部語ってた」


「USBの渡し方とか、ポケットに手をやるクセとか……全部ね」

まつりも優しく微笑んで言った。


「……僕も……」

湊がぽつりと呟く。


「僕にも“仲間を閉じ込める”って隠し任務があった。でも……それなら自分も一緒に閉じ込められるって決めたんだ」


「だから……わざとトラップにかかったんだ」


冷は頷き、まつりも続けた。


「それがなければ、解除は間に合わなかったかも。ありがとう」


湊は涙を拭いながら、再び冷のそばに寄り添った。


冷「……もう誰も失いたくないんだ。任務が成功しても、誰かが欠けたら意味がない。

この5人で──成功したかった。たとえ失敗しても……みんなが無事なら、また挑めるから」


天音とまつりは、ふと視線を交わした。

その頬が、ほんのわずかに紅く染まっていた。


そのまま彼らは、静かに控室のドアをくぐる。


中にはすでに何人もの受験者たちが待機していた。

ざわ……と空気がわずかに揺れ、数人がこちらを振り返る。


「……あいつら、5人そろってる」「え、うちのチーム、2人脱落してるのに……」

「全員生き残ってるチームなんてあるのかよ……」


ざわめく声が断片的に聞こえる中、冷たちは自然と壁際へと歩いていった。


「……あれが、チーム003?」

誰かの小さな囁きが聞こえた。


さくらは少し身を寄せて冷の隣に並ぶと、ぽつりと囁いた。

「……冷……その……ごめん、なんか……」


「さくら、胸当たってる」


「だって、怖かったんだもん……」


冷は苦笑しながら、さくらの頭をそっと撫でた。

「ほんとのこと言ってくれて、ありがとう」


「ひゃっ……! ご、ごめんっ……!!」


湊が「な、なんか仲良しだね……」と笑う横で、

天音とまつりがそれぞれ小さな声で、ふと呟いた。


「……やっぱり、気に入ったかも」

「……私も、少しだけ……」


微かに、絆の音が響いた。



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