表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CODE:0(コード・ゼロ) -公安を目指すはずが、なぜか美少女に囲まれてます-  作者: nime
受験編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/123

LOG.007 ─ 混信のサイン

LOG.007 ─ 混信のサイン


冷たく無機質な音声が、教室に響いた。

「──午前試験、終了です。筆記用端末の電源を切り、所定の位置に置いてください」


静寂とざわめきが交錯するなか、空調の風音が微かに流れている。

席を立つ音が次々と重なり合う中で、俺──**才牙さいが れい**は、最後の設問を見つめたまま動けずにいた。


『あなたは本日、どのようにしてこの試験会場に到着しましたか?』


思わず口角が引きつる。今日という日を予見するかのような、異様な設問。

それも、最後に置かれていたことが、なおさら不気味だった。


(……混入された? 誰が、何の目的で?)


まるで何者かが、試験そのものを\"試している\"──そんな感覚が背筋を這った。



昼休憩の案内と共に、受験者たちは廊下へと流れ出していく。

午前試験にギリギリで到着したせいで、俺はこの建物の構造をまだ把握しきれていなかった。

初めて廊下を歩きながら、公安管轄の警察学校内部を目の当たりにする。


無機質で無駄のない白とグレーの壁、無数の監視カメラ、冷たく静かな空気。

採光は控えめで、窓はほとんどない。建物全体に緊張感が張り詰めている。

ただ立っているだけで、ここが\"選別の場\"だと肌で理解できた。


「冷~、お疲れ~。お昼どうする? あ、でもさ、アナウンスで“受験者は指定食堂を利用すること”って言ってたよね。じゃあ行こっか」

湊──**御影 湊**が、柔らかい声で誘ってくる。


俺は軽く頷きながら、バッグに手を伸ばす。

中には、妹が早起きして作ってくれた弁当。──だが、指示が出ている以上、食堂に行くこと自体も試験の一環かもしれない。


構内カフェテリアには、受験者向けに限定されたランチセットが用意されていた。

メニューは大きく4種類。


- A:和定食(焼き魚と味噌汁)

- B:スパイシーカレー(特製ブレンド)

- C:スムージー&サンドセット(ライト志向)

- D:サラダ&プロテインバー(機能性重視)


「うーん、やっぱスムージーかな。午後も動きやすそうだし」

湊は迷いなくCを選び、トレイを手に席へと向かう。


俺も弁当を持ったまま、湊の向かいに腰を下ろした。

弁当の包みを開くと、ふわりと出汁の香りが広がる。

卵焼き、焼き鮭、ひじきの煮物、梅干し入りの白ごはん──丁寧に詰められた手作りの味。


「わぁ……手作り弁当?」

後ろから声がかかる。振り向くと、両手にトレイを持った桜井さくらが立っていた。

「ここ、座ってもいい?」

頷くと、彼女は嬉しそうに席に着いた。


さくらは俺の弁当を興味津々に覗き込み、微笑む。

「妹さん、料理上手なんだね。……ねぇ、ひじき、ひと口もらってもいい?」


「いいけど……味、濃いかも」


さくらは嬉しそうにひじきをつまみ、もぐもぐと味わった。

「……うん、おいしい! いいなぁ、兄妹でそういうの……ちょっと憧れる」


頬をほんのり染めながら、さくらは小声で続ける。

「……今度、私の手料理も、食べてくれる?」


「え?」


「前から、ちょっと思ってたんだ……冷くんに食べてもらいたいなって……」

恥ずかしそうに俯く彼女を見て、俺は言葉を失った。


──その瞬間、さくらのトレイがぐらりと傾いた。


「わっ……あ、危な──!」


咄嗟に手を伸ばした俺は、彼女のトレイを支える。──が、勢い余って、手が彼女の胸に──。


「……っ!? ご、ごめん!」


「い、いえっ! こ、こちらこそ!」


真っ赤になったさくらと目が合い、二人で慌てて視線を逸らした。

……妙な気まずさが漂う。だが、ほんの少し、互いの距離が縮まった気がした。


「……転ぶよりは、マシだな」


「うん……ありがとう」



昼休みも終盤に差しかかる頃、構内のモニターにメッセージが表示された。


『午後試験のチーム編成を開始します。各自、自身の番号を確認してください』


食堂にどよめきが走る。

直後、試験官の無機質な声が響いた。


「チーム編成には、昼食時に選択されたメニューによる心理傾向データが用いられています」


A:和定食──安定志向・協調性重視

B:スパイシーカレー──挑戦志向・能動性重視

C:スムージー&サンドセット──自己管理・計画性重視

D:サラダ&プロテインバー──効率・機能性重視



モニターに映し出されたチーム一覧に、俺は目を凝らした。


──D-03──

そこには、見慣れた名前が並んでいた。


才牙 冷、桜井 さくら、御影 湊、花菱 天音、桔梗 まつり。


「お、冷と一緒だ。よかったぁ」

湊が穏やかに微笑む。


その隣で、さくらが胸を撫で下ろしながら明るく笑った。

「うんっ……ほんとによかった!」


「天音ちゃんとまつりさんも一緒なんだね!」

嬉しそうに声を弾ませるさくらに、俺は小声で尋ねた。

「二人、知り合いなのか?」


「ううん、大学は違うけど。天音ちゃんは頭がすごく回るし、まつりさんは分析が得意なんだ。すっごく頼りになるよ」


そこへ、天音とまつりが近づいてきた。

天音はさくらを見つめ、小さくつぶやく。


「……あの二人、付き合ってるの?」


「ち、違うよっ!」

さくらは慌てて否定し、耳まで真っ赤にする。


それを見て天音はふっと笑った。

「でも、なんとなく、しっくり来る気がしたわ」


周囲の女子たちも、ひそひそとささやき合う。


──さくらは聞こえないふりをしながら、ちらりと俺を見た。

何か言いかけたが、結局、何も言わなかった。


「午後は、よろしくお願いします」

天音が微笑み、まつりも一礼する。


「……こちらこそ」

俺は短く返し、湊もにこやかに手を振った。


自然とみんなが席に着き、チームとしての空気が静かに生まれた。


「さて──午後試験に向けて、軽く役割を確認しておこうか」


俺が提案すると、みんなが顔を上げた。


天音が真っ先に口を開く。


「私は状況把握を優先するわ。周囲の動きや変化を見て、リアルタイムで整理していく。あと、リスクが高いポイントは事前に共有しておきたい」


クールな声ながら、その表情には僅かな熱意が宿っていた。


まつりも続く。


「あ、あたし、分析系は任せてください! データとか通信系も、できる範囲なら……! あと、状況によっては即席でマッピングもできるかも!」


慣れないながらも必死に言葉をつなぐ様子が微笑ましい。


「ぼくはー……えへへ、動き回るの得意だから、連絡とか伝達係になるね~」


湊がマイペースに笑いながら付け加え、さらにぽつりとつぶやいた。


「みんなに差し入れとかできたらいいんだけどなぁ、残念~」


「わ、私も……足引っ張らないように、みんなにちゃんとついていくね!」


さくらが元気よく拳を握る。


「あと、意外と声は通るほうだから! 必要なら、応援係とか……っ」


その言葉に湊がぱちぱちと拍手をし、まつりも「すごい……!」と感心したように小声でつぶやく。


それを見て、俺は心の中で小さく笑った。


(バランスは悪くない──それぞれ、自分のできることを意識している)


(──この雰囲気を守りたい)


だが──午後の試験には、もうひとつ"別のルール"が潜んでいる。


(油断はできない。誰も──俺自身も)


再び、試験官の声が響いた。


「午後の実技試験は、指定エリアにて実施されます。他者を適切にサポートすることも、評価対象です」


食堂に緊張が走った。

──その言葉には、何かそれ以上の意味が含まれている気がした。


(サポート……か)


仲間を信頼し、意図を理解し、支え合うこと。

ただの連携ではない、深い洞察力が試される。


歩きながら、ジャケットの内ポケットに手を伸ばす。

そこには、何も入っていなかった。


(……俺だけが、食券を選ばなかった)


この違いが、午後の試験にどう影響するのか──まだ、わからない。

だが確かに、何かが静かに動き出していた。


(少し、離れた場所から全体を見よう)

そんな直感が、俺の胸の奥に、静かに芽生えていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ