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CODE:0(コード・ゼロ) -公安を目指すはずが、なぜか美少女に囲まれてます-  作者: nime
受験編

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LOG.002 ─ 僕らが選んだ道

LOG.002 ─ 僕らが選んだ道


※現在、冷は創進大学・情報工学部の4年生。卒業を控え、内定を得るために公安試験を受験中。


講義室を出ると、廊下はさっきまでの緊張感とはうって変わって、学生たちのざわめきが戻っていた。


公安志望の学生たちが数人、講義の内容について興奮気味に話している。 「綾城教授、やっぱすごいよな」「実際に現場で指揮してた人の話は重みが違う」 そんな声を背に、れいは一人、教室の出口を目指して歩き出した。


「あ、冷くん発見。やっぱり今日も前から二番目の席なんだね」


後ろから、ふわりとした声がかけられた。 振り返ると、柔らかい雰囲気の男子学生が、にこにこと笑いながら近づいてくる。


「冷くん、一緒にランチしない? ちょうど今、食堂向かってるところだったんだ〜」


冷は苦笑いを浮かべながらも、自然に並んで歩き出す。「今日も律儀に誘ってくれるんだな」


その自然な誘いに一瞬戸惑ったが、湊のあまりに無垢な笑顔に押される形で、冷はうなずいた。


大学のカフェテリアは、未来的な設備が整った自動配膳式。AIが栄養バランスと個人の嗜好を元にメニューを提案してくれる。


「今日は“疲労軽減と集中力向上”メニューだって。AIって、こっちの体調まで把握してくるのすごいけど、ちょっとプレッシャー感じるよね〜」


御影みかげ みなとは盆を片手に、笑いながら席につく。彼の実家は都内の法律事務所を構える弁護士一家で、本人もその影響からか、どこか理知的で礼儀正しい雰囲気を持っている。けれど普段は天然な振る舞いで周囲を和ませる、癒し系男子として学内でも密かに人気が高い。冷も隣に腰を下ろした。


二人が今日選んだのは、鶏むね肉のソテーに温野菜添え、玄米と味噌汁、そして小鉢のひじき煮。カロリーは抑えつつも、しっかりエネルギーを補給できる構成だった。


湊は箸をつける前に、ふと窓の外に目をやりながら言った。「教授の話、現場感すごかったよね。ああいうの、やっぱ憧れるなあ」


「……現実の重さを感じた。公安って、ただ正義を語るだけの場所じゃない」


「だよね。僕、実はけっこう真剣に目指してるんだ。正義感だけじゃやっていけないって、わかってるつもりだけど……それでも」



そこへ、女子学生二人が近づいてくる。


百瀬ももせ あおいと、結城ゆうき みお──冷もよく知る同じゼミの顔ぶれだ。一人は少しキツめの顔立ちの美女、もう一人は落ち着いた雰囲気の眼鏡の女性だ。


「湊くん、ここ座っていい?」


「ちょっと湊くん、ひとりじめとかずるくない?」と葵が冗談めかして言う。


「そうそう、私たちも一緒にいたかったのに」と澪もやんわりと笑いながら続ける。


御影は困ったように笑って、「えへへ、そんなつもりじゃ……」と頭をかいた。


「ほら、冷くんが相手だと、すぐ話し込んじゃうんだから」と葵がぷくっと頬を膨らませるように言うと、湊は「そ、そんなことないよぉ……」とまた照れた表情になった。


葵は社交的で行動力があり、言いたいことははっきり口にするタイプだ。実家は老舗電子機器メーカー『モモセ・テクノロジーズ』の本家で、家業の広告塔として表に立つことも多かった。洗練された所作と強気な性格は、まさに令嬢という言葉がぴったりだ。その分、周囲を引っ張るような存在感があるが、たまに空気を読まない発言で場を凍らせることもある。 一方の澪は、どちらかといえば控えめで冷静。実家は大手医療機器グループ『ユウキメディカル』を率いる家系でありながら、その立場を誇示することは一切なく、常に落ち着いた態度で周囲に気を配る。成績は常に上位に入り、ゼミでも意見をまとめる潤滑油のような存在だ。 二人はタイプこそ違うが仲が良く、湊とは高校時代からの付き合いで、三人で行動を共にすることも多い。


「湊くん、今週末ヒマかな? もしよかったら、みんなでどこか行かない?」と葵が少し照れた様子で言う。


「……あれ? 葵って、彼氏いたんじゃなかったっけ?」と御影が首をかしげる。


その言葉に、葵は一瞬だけ間を置いてから軽く笑って答えた。「うん、別れたの。なんか色々合わなくてさ、今は一人の方が気楽だし」


「そうなの? また最近変えたんだ」と澪が少しあきれたように笑う。「葵って、相手に対しての理想が高いっていうか、すぐ冷めちゃうじゃない」


「うーん、まあ否定はできないかも。最初はいいなって思っても、時間が経つと“あれ?”ってなるんだよね」


「それは……大変だね……」と湊がやや戸惑い気味に相づちを打った。


すると、湊が少しだけ視線を冷に向けた。「……あ、冷くんって、今週末ってどっちの日が空いてるの? 忙しかったりする?」


「楓の予定次第だな。でも、たぶん日曜は空けられると思う」と冷が返すと、湊はほっとしたように微笑んだ。


「じゃあ日曜にしよっか。冷くんも来てくれるかもしれないし!」と湊が無邪気に言った。


「……って、あんたそれ最初から冷に合わせて動いてない?」と葵がじと目でつっこむと、湊は頬を赤らめて「そ、そんなことないよぉ……」と照れ笑いを浮かべた。


「湊くん、今度みんなで出かけようって誘いたかったんだよね」と澪が助け舟を出す。


「うん、せっかくだし、気分転換にね」と葵も照れ笑いを返す。


そして、ふと湊の方へ視線を向けて、少しだけ口元にいたずらっぽい笑みを浮かべた。その拍子に身を乗り出し、胸元のブラウスのボタンがわずかに開いて、谷間がちらりと覗く。 湊の視線が一瞬そちらに吸い寄せられ、慌てて目を逸らす。 「ねぇ湊くん……私の次の彼氏、やってみる気ない?」


その言葉に湊は一瞬固まり、口の中のスープを慌てて飲み込む。 「え、えぇっ!? な、なんで急にそんな……」


「冗談だよ〜、そんなに本気にしないで」と葵はさらりと笑いながら返すが、どこか本気の色も混じっているようだった。


澪は呆れ半分、からかうように言った。「ほらね、また始まった」


そして、いたずらっぽく微笑むと、ミニスカートの裾をさりげなく整えながら脚を組み替え、その動きで自然とすらりと伸びた脚線美が際立った。 「湊くん、うちの彼氏枠も空いてるんだけど、どうかな?」と、さらりと冗談交じりにささやく。


湊は「う、うわっ……」とたじろぎ、視線のやり場に困って目を泳がせた。「そ、そっちはもっと無理だよぉ……!」


「ふふ、冗談よ。でも、照れてる湊くん、ちょっとかわいい」


澪の微笑には、ほんの少しだけ本音も滲んでいるようだった。


「うわぁぁ……二人ともほんとに冗談きついよ……」 湊は両手をぶんぶんと振りながら、完全に動揺していた。


その様子に冷はやれやれと肩をすくめる。「はいはい、そろそろ解放してやれ。湊が泣きそうだ」


「え〜、冷くんに言われたら仕方ないかな」と葵が微笑み、澪もクスッと笑って頷いた。


「助かったぁ……冷くん、ありがと……」と湊がほっと息をついた。


「そういえば、葵と澪は進路どうするんだ?」と湊がふと問いかける。


「んー、私は……まあ、親の会社を継ぐ感じかな? 社外で一回経験積めって言われてるけど」と葵が肩をすくめながら答える。


「私も同じようなものかな。将来的には医療関連の開発職に就きたいと思ってる。今は研究職か技術系かで迷ってるところ」と澪。


「へぇ……二人とも、ちゃんと見据えてるんだな」と御影が感心したように言うと、


「なにそれ、湊くんだってちゃんと考えてるじゃん」と葵が笑い、澪も頷いた。


その流れで、再び葵が思い出したように切り出す。「そうだ、今週末の件だけど、冷くんも空いてる日ある?」


湊がすかさず冷の方に目を向ける。「うん、日曜ならどうかなって思ってるんだけど……」


冷は少し考えてから、やんわりと首を振った。「……悪い、俺は遠慮しとく。楓の用事で家にいないといけなくてな」


──実際には、楓の予定というのはそこまで差し迫ったものではなかった。けれど、ここで自分が参加してしまえば、葵と澪のどちらかが少しだけ遠慮してしまうだろう。


彼女たちが湊と気兼ねなく過ごせる時間を、あえて邪魔しないように。


冷は、そう判断して一歩引いたのだった。


「え〜、せっかくなのに」と葵が少し不満げに言うと、冷は軽く肩をすくめて苦笑した。


「まあ、楓ちゃんが相手じゃしょうがないか」と御影が笑い、場が和んだ。


葵が水を飲んでからふと問いかけた。「ていうかさ、湊くんも冷くんも、ちゃんと進路考えててえらいよね。冷くんは、どうして公安志望なの?」


冷は一瞬だけ言葉を探し、少し静かに語り始めた。「……昔、母が事件に巻き込まれて亡くなった。未解決のまま処理されたその出来事が、どうしても頭から離れない。だから、自分の目で真実を確かめたい。誰かに任せるんじゃなくて、自分で追いたいんだ」


一瞬、空気が静かになり、湊は目を伏せながらもうなずいた。「そっか……それなら、冷くんが目指す理由、すごくよくわかるよ」


湊はまっすぐに冷を見つめて、優しく笑った。「冷くんが前に進もうとするなら、僕はその隣でサポートする。ずっと、力になるから」


その言葉に、冷はわずかに目を見開き、それから静かにうなずいた。湊のまっすぐな言葉に、心のどこかで揺れ動いたものがあった。だが同時に、彼には巻き込んでほしくないという思いもあった。湊の人生は湊のものだ。自分の選んだ道が彼に影響するのは、本意ではない──そんな複雑な思いを抱きながら、冷は静かに湊の眼差しを受け止めた。


その様子を見ていた葵が、不意に小さく口をとがらせた。「……なんかずるいな、湊くん。そういう大事なこと、私たちには言ってくれなかったのに」


「ほんと。急にそういう話になると、こっちが置いていかれた気分になるじゃない」と澪も少しだけ不満げな表情で言った。


「えっ!? ご、ごめん……!」と湊があたふたして謝ると、葵はふいっと顔をそらしてそっぽを向く。


「別に怒ってるわけじゃないよ? でも……なんかちょっとだけ、やきもち」


「私も少し……羨ましかったのかも。あんなふうに、まっすぐ誰かに気持ちを伝えられるなんて」


葵と澪、それぞれの言葉に湊はますます混乱し、再び冷の方を見て助けを求める視線を送った。


冷は苦笑しながらも、その視線をしっかりと受け止め、「あとでフォローしとけよ」と小声で返した。


食事が終わると、冷は受験票の提出のため、キャンパスの中央管理棟に向かって歩き出した。


事務局は校舎の中でも古くからある建物の一角にあり、カフェテリアからは歩いて7〜8分ほど。舗装された遊歩道には植え込みやベンチが点在し、ちょうど昼休みを楽しむ学生たちの声が穏やかに響いている。


春の風が緩やかに通り抜け、街路樹の若葉がちらちらと光を反射していた。冷は歩きながら、ふと自分のポケットを確認する。封筒に入れた受験票は、折れないように硬めのクリアファイルに挟んである。


(ここからが、ようやく本番か──)


そんな思いを胸に、冷は足を止めることなく管理棟の階段を上っていった。


ちょうどそのとき、角から勢いよく飛び出してきた人物とぶつかりかけた。


「きゃっ、ご、ごめんなさ……えっ……」


書類が散らばり、スカートが捲れかけ──咄嗟に冷は目を背けつつも、思わず手を伸ばして彼女の肩を支えた。


「すみません、大丈夫ですか?」


彼女は顔を真っ赤にしながら慌てて体勢を整えたが、スカートの裾がまだふわりと浮いていた。


「……見えてますよ。下着」と、冷はごく小声で囁いた。


「ひゃあっ!? う、うそっ……!」


彼女は瞬時にスカートを押さえ、しゃがみ込んで顔を覆うようにしながら書類をかき集めた。


「本当に、ごめんなさい……! あの、ありがとうございます……!」


「こちらこそ、不注意でぶつかってしまって……怪我がないなら良かったです」


彼女はうつむいたまま、書類をまとめ終えるとぺこりと頭を下げて、逃げるように走り去っていった。


──あれ、どこかで見た顔だ。


冷はふと足を止めて、去っていく彼女の背中を見つめた。


公安試験説明会で一度だけ見た記憶がある。あのとき、目を引くほど小柄で、どこか不安げな雰囲気を漂わせていた彼女の姿が印象的だった。目立たない存在だったが、どうしても気になって仕方なかった。


ただ、きりっとした目元やまじめそうな態度とは裏腹に、ふとした瞬間に見せる天然さがどこか愛嬌を感じさせた。背丈は平均的だが、バランスの取れたスタイルとやわらかな雰囲気が人目を引いたのを覚えている。名前は──たしか、桜井さくら。


スタイルの良さもあって、男性の目を引くことが多いように見えたが、本人にその自覚はなさそうだった。今日も桜色のカーディガンに白のブラウス、花柄のスカートという、女性らしい可愛らしさを感じさせる服装をしていた。その淡く優しい色合いは、彼女の雰囲気と不思議とよく調和しているように見えた。


ふと、立ち止まりこちらを向いた彼女の視線が冷の手元にある書類に向けられた。


「……あ、公安の書類……私と一緒だ……」


その言葉に冷が顔を上げると、彼女は少し驚いたように微笑んだ。「あの……公安志望なんですね。私も、なんです」


書類を抱えて戻ってきたさくらが、冷のそばで立ち止まる。


「あの……公安の説明会で、お会いしてましたよね?」


冷はわずかにうなずく。「ああ、君も来てたんだな。印象に残ってた」


「えっ……そうなんですか? わ、私、全然気づかなくて……」


彼女はまた少し顔を赤らめながらも、丁寧に一礼した。「さっきは、本当に助かりました……あの、ありがとうございました」


「お互い受験、頑張りましょう」


さくらはふと立ち止まり、少し照れたように言った。「あの……桜井さくらです。国立白鷺しらさぎ大学の法学部に通ってます」


才牙さいが れい。こっちはこの創進そうしん大学の情報工学部だ」


「創進大学……すごい。やっぱり公安志望の人って、理系も多いんですね」


「最近は特に。サイバー犯罪の比重が大きくなってるから」


「なるほど……私も、誰かの力になれるようになりたいって思って……それで公安を目指してます」


彼女のまっすぐな瞳に、冷は自然と頷いていた。「その気持ちがあれば、きっとなれるさ」


短いやり取りではあったが、冷の中に、何か柔らかい余韻が残った。


さくらが歩き出そうとしたその瞬間、ふいに一歩だけ冷へと身を寄せ、耳元でそっと囁いた。


「……さっきの、パンツ……見ましたよね? お返し、ちゃんとしてもらいますからね」


そして、くすっと笑ってそのまま歩き去っていった。歩きながらも何度か振り返り、そのたびに冷の方をちらりと見て、楽しげな笑みを浮かべていた。その様子からは、冷に対してどこか特別な興味を抱いているようにも見えた。


冷はその場に立ち尽くし、ほんのわずかに頬をひくつかせた。


(……今のは、冗談、だよな?)


返事も追いかけることもできず、ただ、妙な汗が首筋を伝っていくのを感じていた。





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