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CODE:0(コード・ゼロ) -公安を目指すはずが、なぜか美少女に囲まれてます-  作者: nime
公安学校編9:七不思議決着

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LOG.154 揺れる記録、届く声

LOG.154 揺れる記録、届く声


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## ◆ 旧資料室内部の異様


開いた扉の向こうは、学校の延長とは思えぬ空間だった。

廊下の白い蛍光灯は途切れ、そこから先は重苦しい闇に沈んでいる。四人が一歩踏み出すたびに、靴音が湿った床に吸い込まれ、鉄とカビと機械油の混じった空気が肺を押し潰してくる。


中は倉庫のように広がっていた。錆びついた棚が無秩序に並び、そこには焼け焦げたファイルや黄ばんだ書類、ひしゃげた端末が乱雑に積み上げられている。まるで「記録を隠すために捨てられた記録」の墓場だった。

棚の隙間からは冷たい水滴が落ち、床の染みを黒く濡らしていた。どこかで配管が破損しているのか、空気には金属的な湿気がまとわりついている。埃の層は分厚く、靴の跡がそのまま残り、まるで誰かがつい先ほどまでここにいたかのような錯覚を与えた。


「……ここは、本当に学校の中なのか」

湊の声はひどく小さく、吸い込まれるように闇に消えた。彼の顔色は蒼白で、肩の上下が呼吸の荒さを物語っていた。


冷は黙したまま、周囲を睨むように見渡した。暗闇の奥に漂う重苦しさが、過去の記憶を呼び覚ます。母を喪った夜の匂い、父が消えた空虚——その全てが重なり、この異常空間の重圧と同化していくようだった。胸の奥で、誓いが再び疼く。「もう誰も失わせない」と。


まつりは手元の端末を操作し、光のホログラムを散らした。光粒が漂う中で、LogicDrakeがデータの波形を映し出す。そのグラフには多数の断裂と不自然な塗り潰しが走っていた。


「……おかしい。正常な記録の裏に、改竄痕跡が山ほどある」

まつりの声には冷静さがあったが、眉間の皺は深い。その瞳は冷たい光を帯び、まるでこの空間そのものが人為的な“棄て場”であることを証明しているかのようだった。


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## ◆ 声の断片


突如、空気がざらりと震えた。棚の奥、黒い端末の残骸から、ノイズ混じりの音が漏れた。


「……れい……きこえる……?」


四人の心臓が同時に跳ねた。

確かに、それはさくらの声だった。だがそれは肉声というより、誰かが遠い水底から叫んでいるような、湿った残響を帯びていた。空気がひととき重く沈み、全員の呼吸が止まる。


「さ……さくら?」

湊が思わず駆け寄ろうとする。だが天音がその腕を掴んだ。


「待って! 罠かもしれない!」

天音の声は震えていた。必死に理性を働かせようとするが、その瞳は動揺に揺れていた。彼女の耳にも、その声が確かに届いてしまったからだ。


声は途切れ途切れに続く。

「……たす……け……て……」

ノイズが混じるたびに文字化けのような歪んだ音が差し込み、鼓膜を焼く。冷や汗が背を伝い、四人の視線は一点に縫いつけられた。


まつりは声の方向を探りながら、震える指先を握り込んだ。言葉は出なかったが、その瞳は恐怖と同時に希望を宿していた。


冷は声の主を探すように周囲を睨み、唇を強く噛んだ。耳の奥で心臓の音が重く響く。

「本物か偽物か……それはどうでもいい。声がある限り、辿り着く。——俺は、必ず」


その言葉は、自分自身に突き刺す誓いのようでもあった。湊と天音、そしてまつりもまた、その決意に飲まれるようにして無言で頷いた。彼らは皆、その声が幻覚であっても進まずにはいられなかった。


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## ◆ 記録の改竄


まつりが端末で記録を追い続ける。画面には候補生の一覧が一瞬だけ映り、次いで一部が黒塗りで消えていった。そこに浮かび上がったのは、不自然に欠けた番号列、重複するはずのない識別コードの欠落だった。データベースに走る線は焼け焦げた紙のように断ち切られ、明らかに“人の手”によって意図的に削除された痕跡だった。


消えかけたリストの隅に、一瞬だけ「MORIKAWA」「KIRISHIMA」といった断片的な名前が浮かび、すぐに黒塗りに上書きされて消えた。誰だったのか、どんな顔をしていたのか、その痕跡すら残さぬまま。


「……存在データが……抹消されてる?」

息を呑んだまつりの声が、かすかに震える。指先が震え、画面に触れるたびに波形が揺れ動く。


「どういうこと?」湊が不安げに問う。喉が渇き、声が掠れている。


「つまり、過去にも——消された候補生がいた。存在そのものを……なかったことにされた人たちが」

まつりの言葉に、沈黙が落ちた。視線を交わすたび、四人の胸に冷たい鉄球が沈むような重苦しさが広がっていく。


天音が拳を握る。「……やっぱり……候補生管理システムそのものが、記憶を上書きしてる。制度が……私たちを消せるように作られているんだ」


彼女の瞳は怒りと恐怖の入り混じった炎で揺れていた。理屈では抑えられない本能的な嫌悪感が背筋を走り、彼女は思わず冷の隣に一歩近づいた。湊は唇を噛みしめ、まつりは眉をひそめながらも記録をさらに遡ろうとする。


その言葉と空気は、胸を氷の刃で刺されるような重さを持っていた。


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## ◆ PetalWingの残影


暗い棚の奥で、淡い光が瞬いた。

ふわりと浮かび上がったのは、薄紅色の翅の残光。PetalWing——さくらのGhost-Lの残影だった。


光はほの暗い倉庫の闇を縫うように揺れ、周囲の埃をきらめかせながら漂った。翅の縁はノイズで途切れ、時折、存在そのものが途切れそうに歪む。まるで助けを求める意志が電波の雑音にかき消されているかのようだった。


「……!」湊が目を潤ませる。「彼女が……呼んでる」


その声は確信と祈りの混じったものだった。湊の胸の奥に溜まっていた感情が揺れ動き、目尻に涙がにじんだ。


光はまるで道を示すように漂い、奥へと進んでいく。しかし、その翅音は途切れ途切れで、ノイズにまみれた呻きのようにも聞こえた。苦しみながら、それでも仲間を導こうとしている——そんな必死さが滲んでいた。


天音はその光を見つめながら小さく息を呑む。「……泣いてるみたい」彼女の声には同情と不安が入り混じり、握りしめた拳が震えていた。


まつりは冷静を装いながらも端末を光に向ける。「残留信号……でも、これほど強く情動が残っているなんて……」彼女の指先は震え、普段の計算高さが霞んでいた。


冷は光を見据え、静かに頷く。「……行こう。彼女が待ってる」


その声は短いが、揺るがない。三人の心をまとめるようにして、彼は暗闇の奥へ視線を逸らさず歩みを進めた。


通り過ぎる際、光は一瞬だけ温もりを帯びたように感じられた。頬を撫でるかすかな温風のような、あるいは涙に触れる冷たさのような。四人はそれぞれに“まだ彼女はここにいる”と確信する。


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## ◆ クロージング


奥へ続く通路は、壁一面にコードと監視機器が埋め込まれていた。コードは無数の血管のように絡み合い、時折、機械音が低く唸っている。赤いランプが不規則に点滅し、その光が通路を照らしてはまた闇へと飲み込んだ。まるで学校そのものの心臓部へ向かっているようだった。


四人の靴音が硬い床に響く。その度に空気が微かに振動し、冷たい風が背中を撫でた。緊張で喉が渇き、誰も言葉を発せない時間が続いた。


やがて、まつりの声が低く響く。「……この先は、学校全体の中枢に繋がってる」


その瞬間、端末にノイズ文字が浮かび上がる。

> 【たすけて——】


その文字は画面上で歪み、滲み、まるで血のように赤黒くにじんで消えた。

四人の心臓が同時に跳ねた。湊が短く息を呑み、天音の指先が震える。まつりは端末を握り直し、冷は唇を結んで前を見据えた。


鼓動が耳の奥で爆ぜるように響き、呼吸は細く荒く、ひときわ強く張り詰める。

彼は奥の闇へと足を踏み出した。


——さくらの声は確かに、まだ届いている。


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