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CODE:0(コード・ゼロ) -公安を目指すはずが、なぜか美少女に囲まれてます-  作者: nime
公安学校編9:七不思議決着

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LOG.152 旧資料室の扉

LOG.152 旧資料室の扉


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### ◆ 扉の前で


旧資料室の前に立つと、錆びついた鎖と封印シールが彼らを威圧するように揺れていた。薄暗い階段下は空気が淀み、湿った冷気が肌にまとわりつく。壁に沿って垂れる配管からは水滴が落ち、滴る音がやけに大きく反響した。静寂の中で響くそのリズムは、まるで「入るな」と警告する鼓動のようだった。まつりの端末には微弱なデータ波形が映し出され、翅音に似た振動がノイズのように震えている。


冷はその光を見つめながら、低く息を吐いた。「ここを突破するしかない……」声は低く、しかし揺らぎはなかった。胸の奥では恐怖と焦燥がせめぎ合っていたが、それをかき消すように耳の奥で“さくらの声”が蘇る。「れい……」「たすけて……」。幻聴かもしれない、それでも冷の心を強く突き動かしていた。かつて彼が救えなかった瞬間、守れなかった過去が鮮明に脳裏に浮かび、その痛みを糧にするように拳を握った。


「待って、これは明らかに規則違反よ。もし見つかれば——」天音が制止しようとする。彼女の額にはうっすらと汗が浮かび、普段の理性が揺らいでいた。緊張がその声を震わせていた。


「退学になっても構わない。俺は、あいつを取り戻す」冷の返答は即答だった。その目には迷いの欠片もない。鋭く光る瞳に、天音は言葉を詰まらせ、喉の奥がひりつく。自分だって本当は——と胸に渦巻く感情を、彼女は押し殺した。


その場の空気を、湊の柔らかな声が割った。「……だったら、僕らも一緒に行くしかないよね。戻る道なんて、もうないんだし」笑みはかすかに震えていたが、仲間を支えたい気持ちが確かに宿っていた。彼の言葉に、張り詰めた空気がわずかに和らいだ。


天音は視線を落とし、制服の袖を強く握りしめた。爪が白くなるほど力がこもる。やがて彼女は小さく頷き、目を上げる。そこには揺るぎない決意が浮かんでいた。冷はその瞳を見返し、短く頷いた。


まつりが端末を操作し始める。Ghost-L《LogicDrake》の青いホログラムが浮かび上がり、鎖を覆うように走査線を走らせた。青白い光が金属を撫でるたび、鎖は低くうなりを上げるようにきしみ、影を長く引き伸ばした。まつりの指先は迷いなく動いていたが、その頬には緊張の色が走っていた。光に照らされた彼女の横顔は硬く、眼鏡越しの瞳はまるで鋼のように冷たく輝いていた。


「解析開始……」彼女の低い声が、湿った空気を震わせる。四人の心臓の鼓動が重なり合い、階段下の狭い空間は一層重苦しく沈んでいった。


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### ◆ 解錠の瞬間


「おかしい……」まつりの視線が端末の波形を追う。「資料室の扉に、三層のプロトコル……しかも古い鍵と新しい鍵が重ねてある。誰かが後付けで“隠した”。」


天音は廊下の奥を振り返り、小さく囁く。「監視の目もあるはず。カメラの死角は把握できてる?」


「できてる。……けど、長くはもたない」まつりの指先がさらに速く踊る。青い走査線が鎖と封印に沿って走り、ホログラム上でロックの構造が分解されていく。冷たい電子音が細かく響き、古びた鎖と新しい鍵の異質な組み合わせが露わになった。LogicDrakeのホログラムは、光の翼を広げるように線を描き、分解された鍵の位相が宙に舞う幾何学模様となって空間を彩った。


湊はごくりと唾を飲み込んだ。「僕、音……抑えるね」携行していた布を鎖の結節部に巻き付け、金属音が漏れないよう即席の消音処理を施す。手は汗で濡れていたが、その指は必死に震えを抑えていた。


「助かる」冷は短く言い、扉に掌を当てる。冷たい。内部から漂う空気は異様に重く、ただの資料庫ではない直感が全身を刺した。背筋に悪寒が走り、心臓が一瞬遅れて跳ねる。


カチ、カチ……と乾いたクリック音が連続する。最後の鍵が外れ、鎖が地に落ちる瞬間だけ、湊が布で音を吸い取った。静寂。冷はゆっくりと扉を押し開けた。軋みが階段下の闇に溶け、長い呼気のように広がる。彼ら全員の背筋に、ぞわりと寒気が走った。


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### ◆ 旧資料室内部


一歩踏み入れた途端、湿った紙と古いインクの匂いが鼻を刺した。層になって降り積もった埃が、懐中ライトの光に舞い上がる。書架はところどころ歪み、札の外れたファイルが崩落寸前に突っ込まれている。床には細い筋のような跡が並行に走っており、重いキャビネットを引きずった形跡に見えた。破れたファイルの表紙には「候補生管理」「特別措置」「記憶消去」などの不穏な文字が読み取れる。紙をめくるとざらりとした埃が指先にまとわりつき、乾いた皮膚がひりつくような不快さを残した。


「最近、誰かが入ってる」天音が低く言う。光が壁の一角で止まった。そこだけ埃の堆積が薄く、指の跡がついている。ぞっとするほど生々しい痕跡だった。彼女は思わず袖口で口元を覆い、匂いを遮ろうとする。胸の奥に嫌な吐き気がこみ上げてきた。


そのとき——微かな翅音が、奥から。Link端末が自動起動し、黒い画面にノイズ混じりの文字列が浮かぶ。


> S A K U R A


湊の喉が震えた。「いまの……聞こえた? さくらさん、だよね……」声は涙声に近かった。恐怖で足が竦みながらも、微かな希望が胸に灯り、頬を紅潮させた。


まつりは表情を動かさずに解析を続ける。「断片ログ……タイムスタンプ改竄。だけど核はオリジナル。消そうとして消し切れなかった“痕”。」彼女の指が止まらず動く音が、やけに大きく室内に響いた。


蛍光灯が瞬く。古い端末が一斉に目を覚まし、どこからともなく短い通知音が連鎖した。ガラス面にノイズが走り、同じメッセージが繰り返される。


> たすけて……

> たすけて……


冷の心臓が跳ねる。呼吸が浅くなるのを自覚し、意識的に吐いた。——急くな。焦りは判断を鈍らせる。だが、彼の視線は揺らがない。むしろ強く前を見据えていた。


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### ◆ データ異常と“影”


「……待って」まつりが急に立ち止まる。端末のスペクトラムが鋭く尖った。「翅音の波形、PetalWingのキャリアに似てるけど、干渉が入ってる。誰かが“中継”してる」


「中継?」天音が眉を寄せる。声には苛立ちと不安が混じっていた。その指先は震え、息が上ずっている。


「ロギング経路が直ではない。別のノードで反射してる。そのノードの位置は——この室のさらに奥」


説明と同時に、視界の隅を白い気配が横切った。冷が反射的に向き直る。書架の影に、人影のような淡い光。湊が小さく悲鳴を飲み込む。「今、誰か——」声は裏返り、肩が強張っていた。


「違う」天音が即答する。目は逸らさない。「“誰か”じゃない。あれは痕跡……残像」それでも彼女の声は震え、無意識に冷の袖を掴んでいた。


冷は静かに頷く。「進む」声に力がこもり、三人の足が自然と前へ進んだ。


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### ◆ 奥の扉


四人が奥へ進むと、鋼鉄製の分厚い扉が現れた。電子ロックの端子が側壁に埋め込まれ、古い封印札がその上から無造作に貼られている。重ねられた“旧”と“新”。意図的な二重構造。扉の表面には爪でひっかいたような傷跡があり、「NO ENTRY」と英字が擦れて刻まれていた。


「……こっちが本当の入口かもしれない」まつりの声がわずかに硬い。彼女の端末に走る波形は強まり、警告色の赤が点滅していた。


「アラームは?」天音。


「触った瞬間に鳴るタイプ。だけど、端子側から“開けたふり”ができる」まつりは端末を接続し、LogicDrakeを展開した。薄い幾何学模様が空中に浮かび、鍵の位相が少しずつ解像していく。光の文様は複雑に重なり、花弁のように開閉しながら周囲の壁面にまで反射した。青白い輝きが仲間の顔を照らし、全員の緊張を映し出す。まつりの額には汗が滲み、手は止まらなかった。


湊は深呼吸し、手袋をきつく握る。「ぼ、僕は……音、見張る。もし何か来たら合図するから」彼の声は震えていたが、その瞳は真っ直ぐ冷に向けられていた。


冷は扉に掌を当て、低く目を閉じた。向こう側に、薄い呼吸の気配がある——そんな錯覚が背骨を這い上がる。「さくら」心の中で名を呼び、ゆっくりと目を開く。「必ず行く」


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### ◆ 兆し(クロージング)


まつりの端末に小さな緑の点が灯った。「……第一関門、突破」


同時に、室内の古い端末が一斉に消え、闇が濃くなる。遠くで、翅音が一段深く沈んだ。ノイズの底から、微かな声が滲む。


> ……れい……


湊が顔を上げる。天音の喉がひくりと動き、強張った指が冷の袖を放した。冷は迷いなく言った——


「進むぞ」


緊張の糸が張り詰めたまま、四人は扉の前で体勢を整える。次の瞬間に踏み込むための“間”だけが、旧資料室の闇に長く、長く伸びた。


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