表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CODE:0(コード・ゼロ) -公安を目指すはずが、なぜか美少女に囲まれてます-  作者: nime
受験編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/123

LOG.010 ─ 最後の問いかけ

LOG.010 ─ 最後の問いかけ


公安試験、実技試験が終わったころ。


模擬訓練施設から戻った受験者たちは、控室に集合していた。空気は張りつめており、誰もが先ほどの試験の結果について思案している。


やがて、試験官の一人が前に出る。


「午後の模擬任務、お疲れ様でした。皆さんの行動はすべて記録・分析され、今後の評価に反映されます」


短い沈黙の後、試験官は続けた。


「今回の試験では“裏切り者”の存在がありました。通常は1名の予定でしたが、意図せず2名いたチームがありました。しかし、無事に試験を終えることができました」


控室がざわめく。


「どのチームだったかは、開示しません。結果に関しては、後日合否とともに通知します。次は個人面接になります。それが終わりましたら、各自帰宅して大丈夫です」


冷のチーム──003チーム──は、互いに目を合わせることなく沈黙を保っていた。


---


午後の最終試験──個人面接。


冷が案内されたのは、静かな一室。そこにいたのは、目元の鋭い美人の女性面接官だった。


「才牙 冷くんね。…あなたの経歴、よく知っているわ。公安を志すには、少し“事情”があるようね」


「……父のことですか」


「ええ。失踪事件について、公安でも把握しているわ」


冷の目が細くなる。面接官は淡々とした口調で続けた。


「あなたが目指す場所は、正義の砦ではない。時に倫理を外れ、泥にまみれることもある。きっと地獄を見ることになるかもよ、それでもいいの?」


「……それでも、俺は知りたい。父がなぜ、あの時消えたのか。その答えを」


面接官はわずかに目を細める。


「気に入ったわ。それでは、面接に入りましょう」


彼女は姿勢を正し、冷にいくつかの質問を投げかける。


「あなたは仲間の裏切りをどう対処しますか?」

「……状況に応じて判断します。任務を優先すべき場面と、仲間を守るべき場面があるはずです」


「では、あなたが最も信頼していた者が敵だったと知ったら?」

「……信じた責任は俺にある。それでも、その先の行動で全てが決まると思っています」


「最後に。父の件が解決したとして、その後も公安に残るつもり?」

「……そのときの俺が、どう在りたいか次第です。でも、今は……進むしかないと思っています」


面接官はそれを聞きながら、静かにペンを走らせた。


ふと、面接官が逆に問いかけてきた。

「……才牙くん、あなたはなぜ裏切り者が“二人”いたと気づいたの?」


「……午後の実技試験だけのはずなのに、工作の手口が二種類あった気がします。それぞれ違う癖があって、別の人間が関与していたように感じました」


「なるほど……やはり、あなたは鋭いわね」


面接官はペンを止め、彼を見つめた。

「鋭いわね。あなたのチームが“異常”に早く発見された理由、記録に残っていたわ。複数の工作が確認されたことで、上層部が調査した結果──判明したの」


冷は黙ってうなずいた。自分たちの行動が、何かを変えたのかもしれない。


---


全ての試験を終えた5人は、控室で再集合したのち、帰り道にファミレスへ立ち寄ることにした。


「面接、どうだった?」と冷が何気なく口にすると、


「すっごい圧迫面接でこわかったよー」と湊が肩をすくめる。


「私は……妙にプライベートなことばかり聞かれたわ」と天音。


「記憶に基づく分析能力について試された。論理的には妥当だったが……面白い構成だった」とまつりは静かに感想を述べる。


「えへへ、私は“かわいいって言われたらどう返す?”って聞かれた!」とさくらが笑顔で言うと、全員が一瞬沈黙するが、すぐに笑いが起こる。


そんな話をしながら、彼らはファミレスに向かった。


「試験終わったし、たまには甘いものでも食べようよ〜」と湊が明るく言い出す。


店内の席につこうとした瞬間、問題が発生した。


「はいっ、冷くんの隣、もらいまーす♪」とさくらが先手を打とうとするが──


「ちょっと待って。それは私が──」とまつり。


「裏切り者は冷の隣に座らせません」


天音の一言が場を凍らせた。だが、すぐに彼女は微笑む。


「冗談よ。──でも、座らせないけど」


結局、冷を挟んでまつりと天音が左右に座り、さくらは向かいの席で不満そうに頬を膨らませた。


「僕、端っこなんだ……」と湊が呟く。


「ねえ、冷くん。私たち、結構相性いいんじゃない?」と天音が冷の肩に軽く体を寄せる。


「えっ……相性……?」と戸惑う冷。


その瞬間、天音の手がいつの間にか冷の太ももに自然と触れていた。

「……落ち着いて。あなたの緊張、伝わってきたから」と天音がささやくように言う。


さらにまつりも、無言で冷の反対側の太ももに手をそっと置きながら、

「この距離で食事するの、悪くないかも」と冷の手元のドリンクにさりげなくストローを差し出し、「ちょっと味見していい?」と無表情で聞く。


冷は視線を左右に泳がせながら、「いや、あの……これは……」とたじたじになった。


さらに、天音が体を動かした瞬間、その胸がふわりと冷の腕に当たる。

「……あ、ごめん」と言いながらも、どこか意図的な気配がある。


まつりも、身を乗り出すように冷の顔の近くで「味見、許可して?」と訊ね、その柔らかな感触が冷の肩にかすかに触れた。


「ちょ、ちょっと待って……」

冷は完全に混乱し、顔を赤くしながらうろたえていた。


さくらがそれを見てむくれ顔になりながらも、「じゃあ、今度は私の作ったスイーツでも食べてもらうんだからね!」と張り合うように言う。


湊が「こ、これは……修羅場ってやつ?」と小さく呟く中、5人のスマホがテーブルに並ぶ。


「連絡先、交換しとこうか」とさくらが言い出すと、湊が「それいいね!」とすぐに乗ってきた。


「じゃあ、冷くんも忘れずにね〜」とさくらがスマホを差し出し、全員が一斉に《LinkChat》でタップし合った。


「これでまた連絡取りやすくなるね」と湊が嬉しそうに言い、さくらも「冷くんの《LinkChat》ゲット〜♪」とにやけていた。


---


食事が終わると、湊が提案する。


「ねえ、せっかくだしカラオケ行かない? 今日はみんな頑張ったし!」


「疲れてるからパス」と天音。


「……同意」とまつり。


「え〜ちょっとだけ……でも明日寝坊しそう」とさくらも断念。


「じゃあ、また今度だね」と湊が苦笑した。


---


帰宅した冷を出迎えたのは、エプロン姿の楓だった。


「おかえりー。……なんか、女の子の匂いするんだけど?」


「……気のせいだよ」と冷がごまかすように言うと、楓がじと目で見つめながらも笑顔を浮かべる。


「じゃあ、質問ですっ。ご飯にする? お風呂にする? 私にする? ……私にする? ……私、だよね?」


「いや、選択肢の圧がすごいな」


冷が呆れながらも笑うと、楓は勝ち誇ったように「じゃあ決まりだね♪」と嬉しそうに言った。


「疲れた……」


ソファに倒れ込んだ冷は、そのまましばらく寝入ってしまった。


楓はそっと座り込み、タオルで汗を拭いたあと、冷の頭を膝の上に誘導する。


「ふふ、寝てる寝てる……これはチャンス?」


楓は嬉しそうに、そっと冷の頭を自分の膝に乗せた。


しばらくして、冷が目を覚ます。


「……ん?」


目を開けると、自分の顔の上には……楓の豊かな胸が乗っていた。


「うわ、ちょ……」と体をずらそうとしたその瞬間、


「っ……う、うぅん……ちょっと、それ、くすぐったい……」


思わず声を漏らす楓。


冷は固まったまま、天井を見つめた。


「……これは、夢だ。夢に違いない……」


「はい、おつかれさま。ご褒美、なにがいい?」


「静かに寝かせてくれれば、それで……」


「却下ー♪」


そのとき、冷のスマホがテーブルの上で震えた。


《LinkChat 通知:天音「今度の休日、気晴らしにどこか行かない?」》

《LinkChat 通知:まつり「資料提供の件、直接渡したい。ついでにランチでも」》

《LinkChat 通知:さくら「ねぇねぇ、遊園地行こうよ!冷くんと二人で♡」》


それを見た楓の目が細くなる。


「……女?」


「っ……いや、違っ……いや、違うってわけじゃないけど……」


「ふーん……別に気にしてないし? ほんとに、全然?」


冷は頭を抱えたまま、再び天井を仰いだ。


「……俺、何の試練を受けてるんだ」


その直後、再びスマホが震える。


《LinkChat 通知:湊「ねえ冷くん、今度一緒にカフェ行かない? 新作スイーツ出てるんだって!」》


通知を見た楓の顔がさらに曇る。


「……今度は男? お兄ちゃん、もしかして……そういう趣味も……?」


「……誤解される方向が増えていってる気がする」


冷は肩を落としながら、ソファに沈み込むように座り込んだ。


---


──一方その頃、公安本部の一室では。


その頃、公安本部の一室では、冷たち003チームの実技試験のデータを解析している職員たちの姿があった。


「……これは?」

「偽物のデータが提出された形跡がありますが、直後にオリジナルへ自動復元されています。何者かが復元用のスクリプトを仕込んでいたようですね」


別の職員が別端末のログを確認しながら言った。


「裏切り者の登録ログも……おかしいですね。誰かが認証システムに手を加えていた痕跡があります」


「午前の試験内容も改竄されていたことを踏まえると……嫌な予感がしますね」


沈黙が落ちる中、室内の空気が重くなる。


「……“何か”が動いている。上に報告しましょう」


冷がスマホで試験結果を確認しようとするも、公式サイトには「合否結果は後日、オンラインにて発表」との文字。


画面を閉じたその瞬間、一瞬だけスマホの画面がノイズ混じりにチカついた。何かが一瞬だけ表示されたような……。


冷は静かに天井を見上げる。


「……ここからが、本当の始まりだ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ