9話 ヤバい奴は路地裏にいる
放課後ーーー、
ー中栄野地区・裏通りー
派手でファッショナブルな街頭から狭い裏路地に入っていく。
奥へ進めば進むほど、建物の色が段々黒ずんでいく。
「この辺りだな。一緒に探すか手分けして探すか・・・。迷うぜ」
「吹村さんの占いだと、この周辺の範囲3キロだったよな。くまなくって考えると二手に別れた方が良いんじゃないか?」
俺は真悟へそう伝えた。この捜索はスピードも重要なのだ。
「確かにな。占ってからの時間も経っているし更に離れている可能性もあるもんな。俺は右周りで行くぜ」
「こっちは左回りって訳だな。俺は真悟のゴールから回るって事だろ」
「ああ。そうすれば見落としもすくなくなる筈だぜ!」
こうして俺達は別行動となった。
ちなみにどちらが見つけた場合も2人で飼い主さんの所々に行く予定だ。
~
地図アプリを便りにビルとビルの間の狭い空間にも入りながら、より奥深くへと進んでいく。
今、どこにいるのかと普段なら絶対に通らない場所も通る。
慣れていた道の筈だが、方向感覚まで狂いそうだ。
だからこそ、今探している猫も迷うのだろう。
今、どこにいるのかスマホで現在地を再び確認する。
「現在地が一定しないな。電波も悪いみたいだ」
そんな感じで気にせず、前へ前へと進み続けたーーー、
そうして、現在に至る。
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『フェーーー!』
メタリックな翼を持つ銀色の怪人は雄叫びが響き渡る。
その双瞳は明らかに俺を捉えている。
両肘から刀が飛び出ていて、薄暗くても鈍い光を放っていた。
今、正に襲いかからんばかりだ。
「マジでついてねぇ…」
背を向けるのはもってのほか。
すり足で少しずつ距離をとるしかない。
だが、ちょっと距離を離してもこちらににじり寄ってくる。
ピンと張り積めた緊張はふとした事で破裂するものだ―――。
『フェーーーッ!』
突如の強襲!
「っ!」
俺は近くにあったゴミ箱を放り投げて階段に向かった。
階段まで背後数センチのところで右の壁側にフェイントを入れ、左側にワンステップ&バックステップ。
そのままの勢いで階段を駆け上がる。
『アーーー!』
鳴き声や見た目から怪人は鉄元素モチーフの筈。今頃階段の鉄を食って・・・。
「なんで俺を狙って来るんだよ!」
こいつ、鉄元素モチーフじゃないのかよ!
この階段、鋼鉄性だよな!?
(未来の俺:クロムとの合金であるステンレスだった模様。スチール性の階段はレアだぜ)
「ヤバいヤバいヤバい!」
階段を登る音が近づいてきた。
このままでは追い付かれるのは必至。
「やりたくないけど・・・」
階段の手すりに手を掛けダイブ!
目指すは柔らかそうなポリ袋の上。
「痛っー!」
足は挫いていないし、腰も無事!
何とか走れる。
『フェーーーイ!』
まだ追ってくるか。
イイ感じに狭い路地を使って撒くしかねぇ。
地獄の鬼ごっこ第2弾の開幕だぜ(半ギレ)
その後も路地を右へ左へとランダムに曲がりながら繰り返しながら走る。
危機一髪も何度もあった。
だが―――、
「行き止まりかよ!」
引き返そうと振り返るも、怪人が此方曲がってきたところだった。
『フェー・・・!』
逃げ道は、ない・・・。
冷や汗が止まらない。心臓の音が耳に響く。
怪人がグッと地面を踏みしめるその時―――、
火炎が怪人と俺の間にゴウッと迸った。
「アッツッ!」
火炎放射が飛んできた方を見る。
そこには両腕にドラゴンを象ったような装甲を纏った白色の怪人の姿があった。
コチラもズコボコと身体中から立方体が突き出ている。
「2体目・・・!」
そう疑問に感じるも現状は刻一刻と移り変わっていく。
「フェ!?」
次の瞬間、銀色の方の怪人に竜拳が突き刺さった。
白い怪人の背中からブロックで構成されたバイクのマフラーのようなものから炎が吹き上がっている。
そのままラリアットの要領で腕全体で体を抱えると、マフラーの炎はよりロケットのように強く噴き出すと、勢いよく空へと飛び上がった。
「た・・・、助かった・・・」
天へと昇っていく白煙を見上げながら力なく崩れ落ちた。
~~~
一方―――、
2体の怪人は少し、少し飛行した後、とある裏通りにある人気のない場所へと降り立った。
直後、 白い怪人—オキシジェンプレヴィクターは小脇に抱えたアイアンプレヴィクターを地面に叩きつけた。
「目ぇ、覚ましてっ!」
彼女は手を翳すと黄色い光の粒子をアイアンプレヴィクターへと放つ。
すると、粒子が当たった傍から怪人は光り始め徐々に男性の姿に変わっていく。
「ぐっ・・・、ここは・・・」
バンダナを巻いた頭に手を当て、ツナギ姿の男は呻く。
「アイアン—哲人、正気に戻った?」
「うっ・・・。オキシジェンか・・・」
「やっほー、大丈夫?酸素足りている?」
「ああ。今は何時だ?1日も経っていたか・・・」
彼はスマホを取り出し、時間を見ると愕然としたようなどこか諦めたような表情になる。
「もっと暴れていたら、今頃狩られていたわよ」
人を襲ったことは敢えて彼女は言わない。
「すまない。しかも、“イオニックエナジー”も分けてくれて」
「どうってことないわ。私たちは“放課後同盟”の仲間を誰一人として失わせない」
「流石は幹部だな。俺達は自分の事だけで精一杯だ」
哲人は座り込んだまま、壁に背中を預け、力なく笑う。
「弱気になっちゃダメ。ネガティブな心は“イオニックエナジー”は減っていくばかりよ」
彼女は彼が傷つく事は話せない。
「そうだな。少しでも心を強く持たないと」
「それでこそ、アタシ達、“放課後同盟”よ」
差し出してきた手を哲人は手に取って立ち上がった。
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あの怪人騒ぎの後、何とか表通りに出て近くの公園で一息吐く。
マジで死ぬかと思った。
「準一、大丈夫か!」
「大丈夫かといえば、かなりヤバい」
「何かあったのか」
「爆発があっただろ、その衝撃で階段から落ちたんだよ」
ということにした。怪人の事は話すわけにはいかない。全部が嘘という訳ではないしな。
「それは不運だったな・・・」
「ゴミ袋に落ちたからそこまでではないさ。そういう真悟もボロボロじゃねぇか」
「あぁ。俺は、し・・・。じゃなくて服だけだから無事だぜ」
見せつけんな。
「ところでソッチは猫は見つかったか?」
「いや、爆発があったせいで中断して逃げてきたんだ」
「そっか」
今、あの裏通りの爆発騒ぎで誰も入れなくなってしまった。
2人して溜息をついて帰宅する運びとなった。
「みゃーみゃーみゃー、どこから来たのキミィ?」
遠くの方で聞き覚えのある声がした。
「「焦野さん!?」」
屈んだ焦野さんは猫じゃらしをもって子猫と戯れていた。
何、このほんわか空間。
「基成っちと、えーとA組の子、奇遇だねっ」
「何でこんなところに・・・って、その猫探していたヤツじゃん!」
指さした白猫は間違いなく、写真と同じ。
青色の首輪のデザインも同じだ。
「2人ともこの子を探していたの?・・・って、あ!」
子猫はするりと抜け出して公園から出て行った。
その先には優しげな雰囲気の瀟洒な女性。
そのまま胸元へと駆け上がり、女性は涙ぐみながら抱き締めた。
「あの人が飼い主さん・・・。結局、俺達が探さなくても再会できていたって事か」
「ここは絆がなせる感動的な再会という事にしておこうぜ」
ギザっぽいって我ながら思う。
でも、なんか理屈をつけたかったんだよ。
「そうだなー。はぁ、疲れたー」
「よくわかんないけど、ドンマイ?」
座り込んだ俺達にそう声をかける焦野さん。
マジ天使。
「そう言えば2人とも、ボロボロだけど大丈夫?」
「準一、階段から落っこちたって言っていたスよ」
「ちょ、真悟。多少すりむいただけだから、大事みたいに言うなって」
焦野さんに心配はかけたくない。
「階段から落ちたの!?傷口をよく見せて」
彼女は俺の袖を真剣な面持ちで捲る。
珍しいな、と思っていると今度は懐から霧吹きのようなものを取り出した。
「消毒するよ」
消臭剤並にでかいぞ、あの大きさで消毒液なのか?
「デカくね?」
真悟も引いているぞ。
「そ、お手製」
今時のJKは消毒液を手作りするのか!?
また新しい豆知識を知ってしまった。
「結構、沁みるよ~」
「こういうのって、普通ちょっとって言わな・・・って、ギャアアア!」
無茶苦茶沁みる!
っていうか傷口ヤバい位に泡立っているんだけど。
「まだまだかけるよ~」
「第2だーん!」
「コレでよし!」
「おのれ、焦野叶。貴様を我が軍の衛生兵長に任命する」
もう傷口がかさぶたになっているんだぜ。お手製消毒液パネェ。
「時々、基成っち訳のわからない事、言うよね、じゃまたね~」
彼女は消毒液を一通りかけた後、元気に去っていった。
はぁ、疲れた・・・。
明日も18時台に投稿予定です