6話 勉強会は距離感が縮まりやすい
「準一、大丈夫?いつもよりテンションが低いけど」
「ん、ああ。大丈夫。ゲームやりすぎただけだよ」
昨日の事のモヤモヤがまだ残っている。
ヒーローと怪人が戦うのは、そういうのもあるのかもねって非日常な感じだが、怪人の元がその辺の一般人だと日常を侵食するような気持ち悪さを覚えるのだ。
見て見ぬ振りはできないが、自分にやれる事もない。
というか、そもそも命が惜しい。
今日1日そういう感じでウジウジ悩んでいた。
淡海さんも心配そうにチラチラこちらを見てくる。
「う~ん」
椅子に座ったまま後ろにおもいっきり伸びをする。
「危ない!」
「大丈夫だよ、淡海さん。ほら」
「え、ブリッジしている・・・」
ブリッジしながら考えこむ。
「秋林、今の基成のブリッジって良い感じのアーチじゃないか?」
「江上、今のが分かるか。流石は工学オタク。俺もカードゲーム用のテーブルにどうかって思っていたところだ。財床はどう思う?」
「どうして俺に聞くんだ。俺が分かるのは、お前らがアホだと言う事だけだ」
お前ら好き勝手言いやがって・・・。
あーでも、頭がスッキリした。
どうしようもないのはしょうがねぇわ。
なるようになるしかないだろ。
退路は作るがな!
ひとまず体を起こすか。
体にグッと力を入れる。
「基成、今計っているから起きるな!」
「ふざけんな、鉄心!俺の体は俺の自由だ!」
「甘いぜ、準一。お前は究極のカードゲーム机になるための礎になれ」
俺の腹をバン、と勝一は上から押さえる。
力はそんな強くないのに何で動けないんだ?
「勝一、お前もか!」
「カードゲーマーが机の上に置いた手は何人たりとも動かす事はできないぜ」
「お前ら、マジでふざけんな!」
そんな感じでワイワイやっていたら、気が晴れた。
あっという間に放課後になってみんなで集まる事になった。
場所は灯矢の家だ。
~
灯矢の家は高校から電車で3駅離れた所にある。
みんな、定期券の範囲内だったので運賃もかからないのも好都合だった。
どの場所で勉強会を行うか、圧倒的支持率だったのが灯矢の家だった。
グループライムで圧倒的得票数(賛成2票 棄権2票)で全体の過半数(2/4)を取ったのだ。
投票者曰く、
「灯矢クンの家以外に選択肢なくない?」
「駅に近くスーパーもあります。利便性はダントツですね。誰も他の選択肢を提示できないようですね」
文面から滲み出る圧倒な圧力。
俺は豪邸そうな淡海さんの家が良かったんだけどな。
豪邸に行く事ができる機会なんてそうないから焦野さんも案外、賛成しそうなんだが。
後で淡海さんにそんな旨をLIMEしたところ、『そんな大それた事はもっと心の準備が必要』との事であった。
そう言うところだぞ。
あれよあれよという間に灯矢の自宅に到着した。
「へぇー、ここが灯矢クンの部屋。なかなかキマッてんじゃん」
「清潔感があって良いお部屋ですね。インテリアも素敵です」
2人とも興味深そうに眺めていた。
一方で灯矢は恥ずかしそうに頬を掻いている。
お前、女の子を部屋に上げるの初めてじゃないだろう。
「さっさと座ろうぜ」
俺は棚からクッションを取り出して床に並べた。
「基成っち、手慣れてるねぇ」
「じゃあ、俺はお菓子と飲み物を持ってくるよ」
「私もお手伝いしましょうか」
おずおずと声をかける淡海さんに灯矢は大丈夫だよ、と伝えるとキッチンに向かった。
「大した量じゃないから、灯矢1人で充分だろ」
「やけに詳しいわね」
俺はまあな、と返事をしてカーテンを開ける。
「隣の建物が俺ん家だからな。今日の朝にもいくつか持ってきたんだぞ」
だからこそ灯矢の家の冷蔵庫の中身もある程度覚えている。
「そういうワケね。だけど朝に荷物を他人の家に置くのは迷惑じゃないのかしら、いえあなた達がそれほど仲が良いということ?」
「流石淡海さん、よく分かっているじゃないか。親から仲が良いからな」
軽口を言い合う俺達。そこに焦野さんがフーンと口をはさむ。
「委員長と基成っちってそんなに仲良かったっけ?というか委員長が敬語使わないの初めて見たよー」
「な・・・」
「お似合いじゃない?」
「違います!」
そんなことを言い合っていたら灯矢が来た。
「盛り上がっているみたいだね。何を話していたの?」
「委員長が基成っちと仲良さそうなの。しかも2人ともタメ口!」
焦野さんはキラリと目を輝かせて灯矢にまくしたてた。
「そう言われたらそうだね。誰とでもすぐに打ち解ける。それが準一の凄いところだよ」
「まぁな」
なんでコイツはそういうことを恥ずかしげもなく言えるのかね。
それが灯矢の凄いところだと俺は思うよ。
「確かにあなた、友人多いものね」
はぁ、と遠い目をする淡海さん。いったい何を思い出しているのやら。
「へぇ、基成っち、只者じゃないんだねぇ」
「そうだよ(真顔)。早速始めていこうか、淡海さんよろしくね」
「ええ」
「じゃあ、飲み物淹れようぜ。俺は"ミスペ"な」
そんな感じで勉強会がスタートしていった。
1時間経過———、
、
「楠君、こういう風に公式を当てはめればいいの」
「これで解けるね。ありがとう、淡海さん」
淡海さんは順調に灯矢に勉強を教えている。
かなりの至近距離だが、最初は2人ともこの距離で恥ずかしそうにしていたが、慣れてきたようだった。
もちろん、この事を好ましく思わない人物もいる。
「ぐぬぬ」
俺が勉強を教えている焦野さんだ。
「焦野さん、話聞いている?」
体はテキストに向かっているが、首から上は灯矢と淡海さんを追っている。
「うぅ、聞いているよー。委員長が灯矢に引っ付きすぎなんだよー」
「そうでしょうか」
素知らぬ顔の淡海さん。そう話すや再び教え始める。
煽ってんなぁ。
「言っておくけど、焦野さんの学力が足りなかったから俺が教えているんだぞ。本当だったらみんなで淡海さんに教えてもらえたんだからな」
まさか基礎部分から俺が教えることになるとは思わなかったぜ。
淡海さんには万々歳かもしれないけど、この状況は良くない。
「それはそうだけど・・・」
「というか、なんでそんなレベルでウチの高校に入れたんだよ」
彼女は眼を逸らし、間を置いてポツリと呟く。
「その~、遊び過ぎて忘れっちゃった・・・。まぁ、脳に酸素が足りなかったんじゃない?」
どこか自嘲的な口調だ。言い過ぎたかなぁ。
「でも焦野さん、地頭は良いでしょ。俺が言ったこと完璧にモノにしているし」
「基成っち、ホント!?」
ピョコンと顔を上げる焦野さん。笑顔の破壊力がヤバ過ぎるぜ。
「ウソじゃねぇよ。今なら灯矢がやっている範囲についていけそうだぞ。淡海さん、俺達にも教えてくれ」
「え、こんな短時間で」
「フフン、私はやればできる子なのよ」
「フ、俺の教え方の賜物もあるがな」
恨めしげに見るなって、フォローするから。
「はいはい。淡海さん、焦野さんは普通に要領良いからな。教え甲斐があるぞ」
「へー。期待させてもらおうかしら」
「それに俺が来たからには、もっと踏み込んで聞いていくぞ。まずはこの文章題を見た時にどういう思考を辿るか、逐一教えてもらうぜ」
「し・・・、思考レベルで・・・」
「それは助かるかも、考え方を知ればほかの問題にも対応できそうだしね」
「楠君まで・・・」
「でも、アタシ疲れちゃったから先に休憩しようよ。このジョロキアカレーポテチから開けようよ」
「焦野さん、ソイツを開けるのか。ネタで持ってきたのに」
「私の好物なんだよ」
「そんなに辛いの、コレ?」
「そんなに辛くないよ、委員長。食べてみる?」
被害者を増やすな!
そんな感じで、みんなでワイワイやっていた。
あの後、淡海さんは水をがぶ飲みしていた。
とりあえず、距離感が縮まった感じがするぜ。
ここまでは、胃が痛むようなことはなかったんだ。
今思えば、割と伏線が出ていたんだよな(遠い目)。
明日も同じくらいの時間に投稿予定です。