5話 怪人は一体だけとは限らない
前話にも書きましたが、大タグをローファンタジーから、コメディに変更しています
代わりに小タグにローファンタジーを追加しました
日暮れ少し前の夕方、俺は淡海さんに直接お礼がしたいと昨日の公園で落ち合うことになった。
「基成くん、ありがとう。もう機会を作ってもらえるなんて。しかも連絡先まであっさりと」
「どういたしまして。肩入れするって言った以上、成果を出さないとな」
しかし、灯矢を好きになる奴って何で奥手になっちゃうのかね。
「俺ができるお膳立てはひとまずはここまでだ。後、焦野さんも一緒に勉強することになったのは・・・」
「それは大丈夫。あの子が知らないでいるのは抜け駆けみたいなものだからね」
分かってくれていたか、良かった。
「懐の広さも重要だからな」
「それって母性がある方が楠くんの好みってコト?」
グイっと身を乗り出しながら聞いてきた。
そんなに情報に飢えているのか?
「どう解釈したらそうなるんだよ。逆に聞くけど、嫉妬深くて狭量なヤツってアイツのタイプに当てはまりそうか?」
「それもそうね」
「そういうこと。淡海さんの良いところが灯矢に刺さればいいんだけど」
多分それだけじゃなくて、他の要素も必要なんだろうけどな。
「え?」
急に表情が削げ落ちて、ドヨンと落ち込む淡海さん。
「何で落ち込んでいるんだよ。自信がない訳じゃないだろ」
「私がカッコよく勉強を教えていれば好意を持ってもらえるかと・・・」
「それは一足飛びに進み過ぎ。何事も段階があるだろ」
そう伝えたら、淡海さんはモジモジしはじめる。
「でも私、生真面目だし、キツイこと言いやすいし・・・」
カワイイ。
「淡海さんの真面目で規則を重視する事、みんな好きだぞ。もちろん俺も。そうでなきゃ委員長になんてなれないだろ?」
実際俺は人柄で選んだし。
女子もほとんどが賛成に回っていた。
「そう言ってもらえると嬉しい、かな」
ココで更なる追撃だ。
「後、男の大半は今みたいなギャップの変化に弱いぞ」
「も、もう!」
顔を赤くしたと思ったら、ソッポを向かれてしまった。
何故だ。自分なりに淡海さんの良いところ伝えまくっただけだが。
「キミは良いことを言ってもすぐに余計なことを言うね。社交性があって、顔も整っている方なのに・・・。そういうところが残念だよ」
ハァ、と嘆息する淡海さん。
だけど、今聞き捨てならないことが聞こえたぞ。
「褒めてくれただと・・・!コレはワンチャンある・・・?」
「ないから!」
今度は白い目で見られた。解せぬ・・・。
その時―――――、
『ヌンヌンヌンヌゥン!』
少し先で煙と爆発音が響く。
「この音、ナイトロジェン・プレヴィクター!」
淡海さんは血相を変えて、バッグからメカニカルなネックレスを取り出す。
【Settle Equa Operator!】
起動音を聞きながら、先ほどの淡海さんの言葉を俺は1人納得していた。
前のヤツはブロンズプレヴィクターって言っていたな。つまりプレヴィクターって怪人名か。
【Loading Elemental Armor Type Hydro】
「転身!」
【Constract & Generate!Result up!Helm Waker:Equa!】
「人の道を踏み外したあなたを私は許さない!」
淡海さんは青色のアーマーの戦士、ヘルムウェイカー:エキュアへと姿を変えていた。
目の前での変身は特撮ファンじゃなくても興奮するな。
「ここからは私の領分、基成くんは早く逃げて」
イエッサー。命の危険からはできる限り距離を離れていたい所存です。
「わかった、気をつけてな。また明日!」
「ええ、また明日!」
彼女は戦場へのフワリと駆けて行った。
~~~
俺は全速力で自宅に向かって走り続けた。
この公園は街の象徴としてかなりデカい。
「ここまで来れば大丈夫だろ」
息を整えて、花壇の脇のベンチに座り込んだ。
しかし、それも長くは続かない。
『ケェーーーーー!!』
花壇から土くれのような怪人が飛び出してきた。
コイツも数多の立方体が突き刺さっている。
「ウッソだろ!おい!」
再び全力で走り出す。
追いかけてないといいなと思いながら、耳をそばだてる。
ドスドスドス!
足音が聞こえるよぅ。
現状は打てる手は逃げの一手のみ。
「来た道を戻ってエキュアと合流するしかねぇ!」
~~~
全速力の逃避行の末、エキュアの姿を捉えた。
【Burst Impact!】
その一撃は白色の怪人へと着弾した。
怪人はその威力に耐えきれず派手に爆散する。
これで1対2にならなくて済む。良いタイミングだ。
淡海さんに呼びかけようと息を吸い込む。
「なんだこれ!クサァ!」
無茶苦茶臭い。アンモニアの臭いだ。
それもかなり強烈なヤツだ。
「基成君!?どうして・・・。まさか!」
エキュアが俺を追いかけてきた怪人を視界に捉えた。
「逃げた先にコイツがいたんだよ!ヘルプ!」
「ナイトロゲンしかいないのは、おかしいと思っていたけど、こっちが原因ね!」
土色の怪人は答える代わりに、頭と両手を顎のようにバカンと開ける。
『ケェーーーーーイ!』
怪人に向かって空気が流れていく。
飛ばされる事はないが、かなり勢いが強い。
というか、1つ気づいた。
「臭さが薄くなってないか?」
「アンモニアを吸い込むってまさか」
みるみる内に土くれの体に黄色の結晶が生え出していた。
「パワーアップするのかよ!?」
『アンケェーーーーーモ!』
今度は地面の土を両腕の口に咥える。
コレ、アカンやつだ。サッと物陰に隠れる。
モチロン、エキュアにヘイトが向くように視線誘導も忘れない。
ビシュシュビシュシュシュシュ!
隠れた直後、両腕の先の土の場所から太い木の根のようなモノが飛び出してきた。狙いはエキュアだ。
「くっ」
紙一重で根の鞭を軽やかに避け、空中に舞い上がる。
空中は身動きが制限されるぞ。不味くないか?
根の鞭はエキュアから距離を取り、副根を生やし、四方八方を取り囲んだ。
やっぱり!
エキュアは自身の両腰を叩いた。
【Aquatic Blade】
次の瞬間、根は全て切り刻まれていた。
地面に降り立つエキュア。
彼女の右手には水色に波打つように輝く双剣が握られていた。
「植物の急成長にアンモニアとの親和性、そしてその原子発声。あなたはカリウムのプレヴィクター、”ポタシウム・プレヴィクター“という事ですね」
原子モチーフだったのか、コイツら!?
【Hydro Full Drive!】
エキュアは胸元の青色のキューブに触れ、剣を腰だめに構える。
さながら抜刀する侍の如く。
『ポォーーータァ!』
動いたのは怪人、ポタシウム・プレヴィクター。両腕と口から根がミサイルのように発射される。
発声、違くない!?
更に全身から土砂も発射されていく。
あまりの物量だ。コレは剣1本だけでは切れきれない!
だがーーー、
【Burst Slash!】
エキュアの姿は怪人の背後にあった。
『ポォタァーーー!』
「あなたが攻撃する瞬間、すでに私は動いていた」
上下に分かたれる怪人の姿を見て彼女はそう呟いた。
サァ、と怪人から粒子が立ち上っていく。
ひと安心だと、俺は隠れていた場所から抜け出した。
ドサッ
怪人がいた場所に作業着姿の男性が倒れていた。
「人間?まさか!」
「ええ、彼らプレヴィクターは元は人間よ」
淡海さんは変身を解くと沈痛な面持ちでそう告げた。
怪人は元は人間。
特撮ではよくあるパターンだ。
だが、実際にやられるとショック、いや怒りがこみ上げる。
「彼らは大丈夫なんですか」
「命そのものに別状はないけど、記憶の一部がなくなるわ。だからこそ原因を探れないんだけど」
そう答える彼女はギリっと唇を噛み締めていた。
明日も18時頃に更新予定です
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