4話 クラスメイトは時として一致団結するもの
今話から大ジャンルをコメディに変更しています。
よく考えたら、ローファンタジーよりもコメディ要素の方が強い気がしましたので。
昼休み―――、
「難渡先生の授業、ムズすぎだろ。何が『簡単だな』、だ!」
数学は公式を覚えて如何に公式を正しく組み合わせるか、公式をしっかり理解するまでの過程が大変過ぎるんだよ!
「口ではそんな事を言うけど準一、割と良い点数を取るじゃん」
「そこは努力の賜物よ。でも、淡海さんには逆立ちしたって勝てないからな」
チラっと淡海さんに視線を向ける。
「あーあ、淡海さんに勉強を教えてもらえたらなぁ、灯矢もそう思うだろ」
「そうだね。でも淡海さんに苦労かけるの、申し訳ないよ、忙しくしているのに、割と俺の事も気にかけてくれているし」
気にかけているのはお前が好きだからだよ、この朴念人!
だが、このパスはしっかり届いた筈。
入射角、威力ともに完璧だ。
赤面しつつも、顔をこちらに向け、呼吸を整えながら口を開く。
クラスメイト達も俄に色めき立つ。
「あの、楠君さえよければ・・・」
息を整え冷静さをキープする。
その判断は最もだ。
しかし、そんな悠長なことをしている時間はない。
「灯矢クーン、一緒にご飯食べよー♪」
いや、勢いよく扉を開けた彼女、焦野さんにとっては幸運だったかもしれない。
「ん、アレ?何か話していたの?」
「淡海さんが勉強を教えてくれるかも、って話をしていたんだよ」
コテンと首を傾げる焦野さんに灯矢は何の気なしにそう伝えた。
と言っても、このままでは焦野さんだけ除け者になる。予想通りの展開だ。
「淡海さん、勉強を教えてくれるって事でOKだよな」
「え、ええ。そうよ」
「ん?準一、淡海さんと普通に話してない?」
変に鋭いなコイツ。
ある意味、お前のためでもあるんだぞ。
「俺はいつもこんな感じだろ?それより灯矢、みんなでLIMEグループ作らないか?後、焦野さんもどうかな?」
「俺は良いよ。淡海さんは成績優秀だから心強いよ」
ニコポ。淡海瑠璃奈に効果はバツグンだ。
一方でおもしろくなさそうに膨れ面なのが焦野さん。
「えー。私、勉強苦手ー。でも赤点を取って再試になるのは、もっとイヤ」
意外と好反応。
「アタシも参加するよ、委員長よろしくね。『叶、再試なんだ。ゴメンね、誘っちゃって』みたいになるのはマジ勘弁!渡りに船だよ」
それは、辛い。とても辛い。
昔の封印された記憶が思い出される・・・。
「それに、私がいない時に2人を一緒にさせたくないしねー」
小声でそう呟く焦野さんにでしょうね、と頷く。
2人がLIME交換に集中している時で良かったな。
焦野さん、LIMEしまくりそうだな、牽制しとくか。
「焦野さんに耳寄り情報。灯矢は文章を書くのが苦手なので、LIMEとかSNSは苦手だぞ。一言書くだけでも数十分かかるぞ♪」
チラリとこちらを見やる焦野さん、初めて目があった気がするな。
「へぇ。アンタ、よく知っているね。やるじゃん」
「ずっと昔から灯矢のマブダチだからな。アイツに不幸な事をさせたくないからな」
「あんがとね。灯矢クン、委員長ー。アタシとも連絡先交換してよ」
サッと2人の輪に入る焦野さん。
「あ、俺を忘れんなよ」
「忘れてた。後でね、基成っち」
焦野さんスマイル、俺に効果はバツグンだ。
俺、ニコポされちゃった(照)。
そんな感じでグループ登録をした後、みんなでワイワイ昼飯を食べて勉強会の日を決めた。開催日は明日。
俺に数人から嫉妬の視線が刺さるが、今の俺には優越感しかないぜ。
フハハ!羨ましかろう!
~~~
放課後!
「羨ましいぞ、この野郎!」
淡海さんが華麗に教室を出た後、俺は男子達から襲撃を受けた。
日直じゃなかったら、スタイリッシュ帰宅できたのだが。
いきなり、ラリアットはどうかと思うぞ真悟。
「甘いぜ」
とはいえ、襲撃は予想できたから体を反らせば容易く避けられる。
所詮は文系の筋力よ。俺をノすなら、運動部の奴をつれてこい。
ガシィ
「お前がな。悪く思うな」
手首に凄まじい圧力がかかり、ひょいと持ち上がったと思ったらそのまま椅子に座らされる。
「灼剛、まさかお前かよ。お前はこういうの、乗ってこないかと思ったぞ」
俺の手首を掴んでいたのは、ライオンのタテガミのような荒々しい髪の男、灼剛透(-とおる)。
ボクシング部のエース。もうプロへのスカウトもされている全国区の男、いや漢だ。
近寄りがたいように見えるが、割と人情深く、正義感に熱い良い奴である。
学校内外から兄貴と慕われたり、勝手に舎弟になるヤツも多い。
あっれぇ?もしや、今の俺ってギルティ判定食らっている?
「キリキリ吐いてもらうぜ。準一」
椅子の後ろからガシッと両肩を掴むのは鉢塚刹那。
ムードメーカーその3だ。
灼剛が俺を置きやすいように椅子をセットしたのはコイツ。
「ぬぉおお、動けねぇ!」
何でお前、帰宅部なのに無駄にスペックが高いんだよ。
そんなピンチの中、ポンと右肩の重みが増す。
「ちょっと待って鉢塚君、それなら俺も同罪だろ」
それは灯矢の手。アイツは毅然として刹那達へと対峙する。
いざという時に己を顧みずにどんな相手だろうと向き合うその姿勢、普段の柔和な感じとは異なるその姿からは想像できないギャップ。
それが楠灯矢の魅力の1つだ。
「ありがとうな、でも大丈夫だ。俺にはこの状態を切り抜ける策がある。灯矢、ちょっと離れていてくれないか」
「だけど・・・」
「代わりに真悟、ちょっと耳を貸してくれないか」
俺が呼びかけたのは、ラリアットをかましてきた町前真悟(まちまえ-)。
怪訝な様子でこちらに来る。
「いいぜ。詳しく聞こうじゃないか」
奴はクラス1の情報通で流行りもの好き。
コイツと話がつけば、みんなも説得できたも同義。
真悟は灯矢に視線を送る。親友は皆の輪から離れる。
『いいぜ、話してみな』
『淡海さんのためだ。あの人の得意分野を灯矢に見てもらう』
『ほぅ』
先を促すような相槌。交渉材料はこれだけではない。
『プラス、灯矢自身のためだ。幼馴染としてアイツの恋愛への自覚のなさを改善したい。それに今のままだったら、アイツに恋愛感情を持つ人たちが増えすぎちまうだろう』
『確かに一理ある。楠の人たらしは半端ない。だけど、焦野さんを呼んだのは何故だ』
『焦野さんだけ仲間外れにはするわけにはいかない。フェアじゃねぇ』
これは俺も灯矢も同意見の筈だ。
『一理あるな。だが、お前も一緒についていくのはギルティだ』
痛いところを突くが我に反証ありだ。
『淡海さんと焦野さんは水と油だ。対立しかけても灯矢も強く出にくい。俺が緩衝材になるさ』
『フッ、分かったよ。なら代わりに2人の様子を後で聞かせてくれ。灯矢じゃなくて淡海さんと焦野さんだぞ』
『もちろん、分かっているさ』
それから町前は皆に小声で言い聞かせた。
「良い覚悟だな。それなら義がある」
灼剛とグッと拳を合わせる。パワーをもらった気になるぜ。
一方で刹那は肩を回してきた。
「良い話じゃねぇか。ソレなら俺から言うことは1つしかない」
「言うてみ」
「やっぱり羨ましいぞ!許すけどな!」
力が強まるが、逆に程よい程度だ。
そこでみんなを見渡して気づく。
ムービーメーカーその2こと、秋林勝一がいない。
どこに行った?
「秋林君、カードゲームの大会に行くって言っていたよ。彼女さんが教室の前で呼んでいたし」
そう答えたのは水泳部のアイドル、小倉さん。
「アイツ、彼女がいるからって追及されないうちに逃げやがったのか!」
俺の嫉妬の炎が燃え盛るぜ。
次話は29日18時頃に更新予定です