1話 気になるあの娘は、
『ねぇ、基成君。あなたなら楠君との仲を取り持ってくれるよね』
特撮スーツを解除してそんなことを宣うのはクラスの美人委員長。絹のような腰まで届く長い黒髪が街灯の薄明かりに映えるて幻想的な美しさを醸し出している。
『・・・』
―――――
『基成っちって、灯矢クンと仲良いもんね。私が言っていることが分かるよね?』
炎のカーテンをバックに白色のキューブが体中から生えている怪人がどこかで聞いたことがある声色で穏やかに話す。
『・・・』
これはちょっとお調子者の親友Aポジションの主人公、基成準一が必死に生き延びるために悪戦苦闘するお話である。
「ラブコメ主人公(楠木灯矢)よ。ここから先が地獄だぞ!」
俺は現在進行形で地獄だけどな!
どうしてこうなったのかを思い出してみる。
~~~
あれは、5月中旬の頃だった。大体1週間くらい前だ。
高校生活はこの頃になると、クラスメートの人物像なのかわかるようになってくる。
例えば、右斜め前のショートカットの娘は水泳部に所属している明るい元気っ娘。
彼女と喋っているのは褐色のギャル。トレーニング法の話で盛り上げっている。
このギャル、巻島さんは放課後にジムに通っていてトレーニングをしているそうだ。先生がいい感じの細マッチョらしい。
こんな感じで人間関係も何となく察してくる。
俺自体、いろんな人と喋る方だからというのもあるかもしれないけど。
決して盗み聞いているわけではないのだ。
そういうことが言いたいわけじゃない。そうつまり―――――、
「灯矢クーン、遊びに来たよー!」
バァンと扉を勢いよく開けて教室に入ってきたのは、金髪のショートヘアの女生徒、焦野叶さん。
スラっとした長い手足はまるでモデル。8頭身もかくやである。大半の男性をとろけさせるような人なつっこい笑みを向けるのはただ1人。
「ああ、うん!」
小学生以来の親友、楠灯矢。
一見、ナヨナヨした感じだが、芯は無茶苦茶熱いやつである。
そして、何事にも一生懸命で努力を欠かさない奴だ。
ついでに超がつくほどのお人よしで、困っている人がいたら凄まじい速度で助けに行こうとする。
しかも、そういった物を察知するのも得意で気配りの達人。
全てがモテ要素で構成された男、それがわが親友である。
「焦野さん、隣のクラス何で来ているんですか!今はお昼時でしょう。キチンとご自分のクラスで食べてください!」
日本人形のように長い黒髪の端正な女の子は淡海瑠璃奈さん。
1年D組の委員長だ。
無茶苦茶真面目で近寄りがたい雰囲気の持ち主だが、黒真珠のようなぱっちりとした大きな瞳、陶磁器のようなきめ細かい肌、モデルのようなプロポーションを持つ。この学園で1,2を争う美少女である。俺の見立てではもう1人は焦野さん。
「え~・・・って、委員長!何シレっと灯矢クンの隣に座っているの!?」
淡海さん、彼女のまた灯矢による犠牲者の1人である。
焦野さんに詰められても、何か?とコテンと首を首をかしげる淡海さん。可愛すぎかよ。
灯矢ラブな2人がやってきたらどうなるか。
「アタシが先に来たんだから、委員長はどくのが筋じゃないカナ?」
「違うクラスのあなたに委員長呼ばわりされる筋合いはありません」
答え.メッチャ険悪になる。
「あはは・・・」
灯矢、苦笑いしている場合じゃないぞ。何たそのアイコンタクト・・・。
助けてもらおうなんて・・・。仕方がないなぁ。ここは親友の俺が一肌脱ぐしかねぇな・・・!
「灯矢ぁ!こっちに来て飯食おうぜ!」
氷点下のような冷ややかな2人の眼差しが、敵意が突き刺さる。
「「は!?」」
視線だけで殺されそうである。今の視線だけで身体が抉られるようだぜ。
「ごめんなさぃ。机いりますかぁ?」
すまない。俺では力不足だ。ライオンに出会ったウサギは生贄を差し出すしかないのだ。
「準一、助かるよ。これならみんなで食べれるね」
机がないなら仕方がない。どこかで食べよう。
「財庄、一緒に飯食べようぜ」
とりあえず、斜め後ろのビシッと背筋が伸びている真面目な男性、財庄優一(-ゆういち)に声をかける。
彼は読みかけの本をパタンと閉じ、俺を冷ややかな目で一瞥する。
「却下だ・・・、と言いたいところだが机がないなら仕方がないな」
「流石、次期社長!太っ腹だぜ」
言質は取ったと弁当を並べていく。今日の弁当は腕によりをかけた渾身の出来栄えである。作りすぎたけどな。
財庄がみるみる青い顔になっていくが、もう遅い。
「基成、待て!お前、いくつ弁当を取り出すきだ!」
机の8割を占拠してやったぜ。(ドヤ)
クラスでは大体、こんな感じである。弁当はいくらか余ったので財庄を含むクラスメイトたちにあげた。
みんなからは好評だった。この出来栄えに満足しないで精進しないとな。
「準一、ありがとうね。席を譲ってくれて」
「水臭え事言うなよ。親友。俺は俺で楽しかったからな。この学校のトップクラスの美少女2人と会話できて役得だったしな」
灯矢は会話?と首を傾げているが気にするな。
は?の一文字だけでも会話なんだよ。1÷0は無限大だ。
「それに、美少女2人が俺の机を触ってくれた筈だからな。間接的に握手しているようなものさ」
「2人とも俺の机の方にいたよ。しかも食べ始める前に2人とも机の上をキレイしてくれていたね。これで険悪な感じが少しでも減ったら良いんだけど」
俺には2人とも変態であることしか分からない・・・。
灯矢、失くした持ち物とかないだろうな。
そこで、はたと気づく。
「あー。お前やっぱ2人の仲を心配しているのか」
「うん、2人して、ワザワザ俺の事を気にして来てお節介を焼いてくれているからね。折角来てくれるんだったら、2人とももう少し仲良くなってほしいからさ」
キラキラとした屈託のない笑顔でそう答えた。
なんて眩しい。同性じゃなかったら、落とされていた。
そう、灯矢は普通の友愛の感情はわかるクセに、自己評価が著しく低いせいで恋愛感情は全くと言っていいほどわからないのだ。昔のあのトラウマを鑑みたら、仕方がないと思うが。
ともかく、楠灯矢は正にラブコメ主人公にふさわしいといっても過言ではないのだ。
最も、下手に選んでいたらヤバい事態になる気がしないでもないが。
幼少期も、幼馴染の女の子数人や近所のお姉さんも落としてきたからな。
本人的には、優しくしてもらったいるとか、目をかけてもらっているみたいな感じなんだろう。
まぁ、でも初恋の近所のお姉さんが落とされたときは漆黒の意思に目覚めかけたがな。
なんやかんやあったからこその親友な訳だし。
その後もバカやりながら帰路についた。
まさか2年生に植物博士な先輩がいるとは。草抜先輩、覚えたぜ。道草の知識もさすがだった。
最も食用雑草の知識は俺の方が上手だったけどな。実践に勝る知識はないのさ。
あの植物にそんな性質が・・・って驚く先輩はかわいかったな。
おさげのメガネっ子とか最高じゃないか、
「おっと、帰り道にスーパーによっていかないとな。待ってろよ、タイムセール品!」
~~~
という訳でセール品をたくさん買えたぜ、やったね。
「ぶっちゃけ、買い過ぎ・・・?」
よく考えたら、普段と変わらない金額を使っている・・・?
流石はボッターストアだぜ。良い作戦だ。また明日もよろしくお願いします。
袋詰めした後、颯爽と入り口に向かう。
ガーーー
「ん?」
入り口の自動扉が開いた先にいたのは体中にブロックみたいなのを大量に貼り付いた2m位ある茶色の巨漢。
『ドウダ!ドウダドウダー!』
何あれ・・・。
周りの客もよくわからない格好の巨漢が大声で叫ぶのを見て、ギョッとなる。
そう叫ぶや巨漢はレジへと周囲の物を破壊しながら一直線に突進した。
『ドウダー!』
ここまでくると店内はパニック、客や店員は一目散に逃げていく。
巨漢、いや怪人は客には目もくれず、レジをこじ開け中身を漁っていく。
目の前の光景が信じられない。ドッキリにしては姿形があまりにも異形。コスプレではない。しかも吹き飛んだ品々のふっ飛び具合や頑丈なレジをこじ開ける膂力を鑑みるに、どうみても人外です。ありがとうございました。
よし、こっそり逃げよう。
『ドウダーーーッフォオオオ!』
バッと腕を掲げる。その手に握られているのは大量の10円玉。グワッと大きな口を開けて10円玉を食べ始めた。
「10円玉かよ!」
目的がショボイぞ!
グリン!
「ヤベ」
「ガアァアアア!」
怒ってらっしゃるー!怪人はレジをグイと引っ張って持ち上げた。
ブチン!
ああ、お客様!レジの本体は持ち上げるものでは・・・!
ブオン
慌てて障害物と重なるように隠れた。
ドオオオン・・・!
ああ、こんな時・・・。
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「好き勝手やりやがって・・・!」
俺は腰から弁当箱くらいの金属の塊を取り出し、ベルトのバックルに装着する。
【Rider at the moment! Kick us!】
スモークが周囲を包み俺は・・・。
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・
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はい、瓦礫の中でした。
走馬灯先輩、お勤めご苦労様でっす。
そんな都合の良い奇跡が起きる訳ないかー。
ドシンドシンとにじり寄る怪人に諦めのため息が出る。
その時———、
「見つけたわよ、”ブロンズプレヴィクター”!」
凛とした少女の声が響いた。
はー、また幻覚ッスかー。もうこの手には・・・。
「人の道を踏み外したあなたを私は許さない!」
幻覚じゃねぇー!
よく見たらその人、俺と怪人の間に立ちはだかっている。
きれいな黒い長髪とスラッとした生足が目に飛び込んだ。
「その生足!まさか淡海さん!」
ぐるん
「は、何言って・・・!」
「オッス、淡海さん。瓦礫に埋まっちゃったゼ」
黒真珠のような大きな瞳。照合確認100%、淡海瑠璃奈さんですね。
「基成くん?というか、さっき足で私のこと・・・」
彼女はキモって感じで見下ろす、いや見下す。
情報が少なかったから許してほしい。
「まあいいわ。とにかくまずはアレを倒すから」
彼女は怪人に振り向くと、胸元に手を当てる。
【Settle Equa Operator!】
よく見ると、胸元にメカメカしいネックレスをつけている。
続けて彼女は懐から青色のキューブを取り出し、ネックレスに取り付ける。
これってまさか・・・。
【Loading Elemental Armor Type Hydro】
「転身!」
キューブをグイ、と押し込むと、彼女の体を無数のキューブが包み込んでヒトガタをとる。
【Constract & Generate!Result up!Helm Waker:Equa!】
音声が鳴りやむとキューブが弾け、粒子が天へと昇る。
中から露になったのは青色のアーマーに身を包んだ戦士、いわゆる特撮ヒーロー。
なるほど、つまりこういう事か。
「ここがエキュアの世界か」
1話 気になるあの娘は、特撮ヒーロー
言ってみたかっただけ。