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ある日突然。娘がタイムスリップしてきた件  作者: りおの古書店
1日目
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1日目(4)


 柊さんに手を引かれるまま中庭まで来ると、彼女は見るからに疲れた様子でベンチに腰を掛けて、肩を揺らしながら息を整えていく。

「柊さん、その大丈夫?」

 僕は柊さんの隣に座り、彼女の顔色を窺いながら言葉をかける。

「大、丈夫……じゃないかも」

 柊さんはそう言うと、背もたれにもたれ掛かって姿勢を崩す。

「その、柊さんは僕のこと知ってるの?」

 柊さんは僕の方を見る余裕も無いようで、手で少し待ってとジェスチャーをすると大きく深く呼吸を始める。


 しばらく待っているとマシになったのか、姿勢を整えると僕の方に体を向けて丁寧に話し始める。

「ふぅ、お待たせ。もう大丈夫だよ」

「いや別にいいんだけど……僕達どこかで会ってましたっけ?」

 僕のその腑抜けた問いに、柊さんは真剣な面持ちになって、もう一度深呼吸をしてからしっかりと僕の目を見て話し始める。

「えーっと、その……信じてくれないとは思うんだけどね」

「う、うん」

 不安な切り出しから始まった会話だったが、彼女の深刻そうな顔に僕まで思わず息をのむ。

「私はね。未来からタイムスリップしてきた、翔君の娘なの」

「うん、なるほど。……もう一回言ってくれる?」

 柊さんの真剣な態度に、僕は一度頷くが考えても理解できないその言葉に、自分の耳を疑ってしまう。

「だから、未来から来た。君の娘なんだってば!」

 どうやら僕の聞き間違いではなかった様で、柊さんはもう一度、今度は怒ったような身振り手振りを付きで同じことを伝えてくるが、改めて聞いても全く意味が分からないでいる。

「柊さん」

「同じ苗字なんだから名前で呼んで」

 何故か僕の名字まで把握していた柊さんは、僕が話そうとしたのを即座に遮って、至極どうでもいい事を言ってくる。

「柊さん」

 僕は柊さんの提案を無視して続けようとすると、柊さんは子供の様に頬を膨らませながら耳を塞いで、聞く耳を持たないとでも言いたげな表情で僕の顔を見つめてくる。

「その……雫さん?」

「うん! 雫で良いよ」

 僕が諦めて彼女の名前を呼ぶと、彼女は満面の笑みでそれに答えて、満足そうな様子で僕の横に座り直しながら呼び捨てを要求してくる。

 コロコロと表情を変える美少女は、さっきよりも少しだけ近くに座りなおしてくる。

 そんな些細な事にドキっと揺さぶられてしまう僕の心を誤魔化すために、大きく咳払いをしてから先ほどの内容に話を戻す。

「……それで雫、さっきの話なんだけど」

「信じてくれた?」

 雫は教室で見せたミステリアスで凛とした転校生の面影なんて無く、キラキラした瞳で僕の目を見てきて、その様子は少し幼い子供の様な印象を思わせてくる。

「中二病ってやつは早めに直した方が良いぞ、後々後悔することになるから……」

 僕が深刻な声色でそう告げると、雫の表情はまたコロッと変わって、悲しそうな顔をして会って数分の僕にでも分かるほど肩を落とす。

 そんな彼女の様子に、言った本人の僕まで申し訳ない気持ちになってしまう。

「そっか、ごめんね」

 雫は無理やり作ったのか引きつった笑顔を浮かべてそう言うと、唐突にポケットからスマホを取り出して画面をいじり始める。

 僕はなんだかやるせない気持ちになり、コーヒーでも飲もうと直ぐ側の自動販売機で『あたたかい』と書かれたコーヒーを二本買って雫の下へと戻る。


 戻っていく最中。学校の校舎に設置されている時計を確認すると、とっくに一時間目が始まっている時間になっていて、僕は今、人生初のサボりをしているんだと、そんな事がどこか楽しく思えて、雫の居る方へとまた歩き始める。

 戻ってきた僕に気が付いたのか雫は僕の方を見ると、一瞬だけ驚いた様な顔をした後に、直ぐに優しそうな笑顔を浮かべる。

「こういう所なんだろうな」

「ん? なんか言ったか」

「ううん。おかえり、翔君」

 僕は不覚にも雫のその嬉しそうな表情に、またドキッとしてしまい、無言のまま片手に持っていたコーヒーを手渡す。

「ありがと。あったかいね」

 雫は両手でコーヒーを受け取ると、頬に当てて笑みを零す。

 そんな仕草に目を奪われそうになりながらも、何も気にしていないように取り繕って雫の横に腰を下ろす。

「それで、なんでまた僕の子供だなんて」

 僕がそう言うと、雫は思い出したかのようにコーヒーを僕達の間に置いて、先ほど弄っていたスマホを手に取る。


「そうそう、これこれ」

 雫は僕に見やすいように考慮してくれたのか、スマホの画面を僕の顔のすぐそばまで持ってくる。

 雫が向けてきたスマホの画面を見ると、そこには『パパのアルバム』と書かれたフォルダが表示されていた。

「なんだこれ?」

「これは昔お父さんが、書いてた魔法のノートとか、おじいちゃんからもらった子供の時のアルバムを残しているやつ」

 雫が説明をしながら開いたフォルダの中には、確かに子供の時の僕の写真や、中学の頃に書いていた、封印したはずの魔法の呪文が書かれたノートが、事細かに整理して保存されていた。

「……」

 僕があっけにとられて言葉を失っていると、雫は追い打ちをかける様にして言葉を繋げる。

「あっ、あと翔君。本の隠し場所は変えた方が良いと思うよ、流石にベッドの下は分かりやすすぎるから」

 雫から出てきたその言葉に、僕は寒気すら覚えて身震いをする。

「お……お前どうしてそれを」

「未来でも同じ所に隠してたからかな。どう、信じてくれた?」

 信じる信じない依然に僕は目の前の美少女に対して、どこか恐怖心すら覚えて、何も言えずにコクリと首を縦に振る。

 すると雫は僕のこの感情など知りもしないで、目を輝かせて大喜びする。

「良かったーこれで一安心だ!」

 僕の心の声とは大きく違い、雫は肩の荷が下りたと言わんばかりの安心しきった声を出して、ニコニコしながらコーヒーの缶を開けた。



これって改行して空行をいい感じに入れると見やすいって聞いたんですがこんな感じであってます?

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