4日目(13)
考えた所で答えなんて出る筈も無くて、ゆっくりと動き続けていた足はいつの間にか僕を家の前まで運んでしまっていた。
ドアの前に立った僕は、重たい右腕でドアノブを捻る。
家の中に入り最初に目に入ってきたのは、乱雑に脱ぎ捨てられた雫の靴だった。
どうやら雫は家に帰ってきている様で、それを確認しただけで、僕の肩に籠っていた力が抜けていくのが分かる。
自分が安心しているのを感じると、僕は自分の靴と雫の靴を丁寧にそろえてから、電気の付いていないリビングの扉を開ける。
しかし、そこには当然の如く雫の姿は無く、僕はカバンをソファの上に放り投げると、その足のまま雫が居るであろう僕の部屋に向かっていく。
「ただいま」
ドアを開ける事なく部屋の中に話しかけると、雫からの返事は無かったが代わりに微かな物音が聞こえて来て、そこに雫が居るのを感じる。
雫が居るのを確認すると、僕は大きく息を吸い込んでからもう一度ドアに向かって話始める。
「雫。僕は正直お前に劣等感みたいな物を感じていた。きっとこの感情は家族に対する物でもなければ、友達に向ける物でも無くて、ただ僕が子供なせいなんだと思う」
僕が話し始めると、ドア越しに足音が少しずつこちらに近づいて来る。
「悔しかったんだよ、喜べなかったんだ!」
一度本音を零してしまうと歯止めが効かなくなってしまい、どんどんと声が激しく、そして震えていく。それでも僕は空っぽな頭で言葉を紡ぎ続ける。
「だからこそちゃんとお前に向き合いたいんだ、子供で弱虫な今の僕として」
賢くない僕の頭で考え、つたない言葉で伝えた精一杯の思いは、雫に伝わったのか、部屋の中から座り込んだ様な音と共にドアが小さく揺れる。
「……私ね。本当は逃げてきたんだ」
ドア越しに聞こえてきた雫の声に、熱くなっていた僕の体からスッと熱が消えていく。
「私は学校にも友達なんて居なくて、どんなに努力しても親の七光りだなんて言われて、それが嫌になって逃げてきたんだ」
「その……未来の僕はそれでも何もしなかったのか」
僕は声の位置を合わせる様にしゃがみ込むと、雫の話に悔しさを覚えて声を返す。
「お父さんは有名な人になっちゃってね。私は悩みなんて言えなかったんだ」
(そんなの無いじゃないか、子供を最優先するのが親だろ)
雫の言葉を聞いて真っ先に頭に浮かんだ言葉は、つい最近彼女がボソッと零した言葉だった。
だからこそ『そんな事にも気が付けない自分』というのに納得が行く半面、その分腹立たしだが滲み出してくる。
そんな僕を察したのか、こんな時だというのに雫はフォローを入れようとしてくれる。
「だけど、それでも私にとっては大好きなお父さんで、尊敬してるんだよ」
雫が必死になって言う声に、彼女の優しさや気遣いが伝わって来て僕の方が泣きそうになってしまう。
だから僕は涙を流さない様に、首を横に振って震えた声を返す。
「それでもだめだよ。自分が一番よく分かっている筈なのに、同じ気持ちを子供にさせるなんて」
僕は自分に別れを告げる様に、子供じゃなくなる為のわがままを呟くと、立ち上がってドアから遠ざかる様にしてリビングに戻っていった。
中途半端だと感じる方も居ると思いますが、次回が最終章です。
子供が急に大人になんて成れる訳ないし、でも自分を子供だと理解するのもすごく勇気のいる行為だと思うので、この賞は暗くなってしまったと思いますが、最後までお付き合いしていただけたらと思います。




