3日目(3)
空港の中にあるカフェに着いた僕達は店内をパッと探したが、どうやら父さんはまだ来ていなかった様で、飲み物だけを注文してから席に座っていた。
「翔君。緊張してるね」
「仕方ないだろ、父さんに会うのなんて年に数回くらいなんだから」
「それもおかしな話なんだけどね」
僕が姿勢を正しながら横に座っている雫に返事をすると、雫は不貞腐れた様子で頬を膨らませて、頬杖を突きながらボソッと不満を言ってくれる。
「……ありがとう。でも僕も納得してるから良いんだよ。それに今日は会えるんだしな」
僕がそう言って雫の頭を撫でると、雫はそのままの体制で僕の顔を見上げた後、機嫌を直したのか今度はしっかりと座り直す。
「昨日から翔君。ありがとうばかりだね」
「頑張って素直になろうとしてるんです」
僕が雫の言葉にそう返事をすると、彼女は目を丸くして、あからさまに驚いた顔をした後に大笑いを始める。
「そこまで笑わなくたっていいだろ」
「うん……そうだね。ごめん、ごめん」
謝りつつも笑うのを止めない雫に、今度は僕の方が不貞腐れそうになっていると、雫は落ち着いたのか言葉を続ける。
「うん! いいと思うよ」
そう言った雫の言葉とその笑い声のせいで、僕はいつの間にか緊張を忘れて、二人してそのまま話し込んでしまう。
「おう、お待たせ」
そんな風に時間を過ごしていると、後ろの方から電話越しでは聞きなれている筈の、僕の声に似た、だが僕よりも少し低い声が背中にかかってくる。
「ひ、久しぶり。父さん」
その声を聞いた僕は、咄嗟に立ち上がって父さんの方に振り替える。
父さんは僕の横に座っていた雫を一瞥したが、何の反応もせず、僕の頭に大きな手を置いて話始める。
「大きくなったな」
父さんのその言葉に、僕は嬉しいような、それでいて寂しいような気持ちがあふれてきて、声を出せないで下を向いてしまう。
そんな僕を見て、父さんはゆっくりと言葉を繋げる。
「ごめんな、あまり帰れてなくて」
父さんの悲しそうなその声に、僕は熱くなった目に力を込めて、勢いよく首を横に振る。
「ううん。大丈夫だから、今日はありがとう」
僕の顔を見て父さんは少し寂しそうな笑みを浮かべると、頭の上に置いていた手を下ろしてしまう。その父さんの顔を見て、僕はまた可愛げが無かったな、と心の中で反省をする。
その間に父さんはコーヒーを注文してから、僕の反対側の席に座る。
「それで、話ってのはそちらの女の子の事か?」
父さんは荷物を自分の横に置くと、落ち着いた声でそう告げる。
父さんの言葉に雫は大げさに口元を手で押さえて、何故か緩んだ顔を隠すと大きく深呼吸をする。
「もしかして、彼女さん……とか、か?」
父さんが真剣な声色で言ったその言葉に、思わず僕と雫は同じタイミグでむせこんでしまう。
「い、いや違うよ」
僕が直ぐに否定をすると、雫が僕の顔を睨みつけてきた気もしたが、それは気のせいにしておく。
「……その、今から言う事を信じて欲しいんだけど」
「分かった。話してみろ」
僕が息を落ち着かせてから父さんの顔を見てそう言うと、父さんは何も知らない筈なのに、二つ返事で了承してくれる。その姿に不覚にも、かっこいいなと思ってしまう。
そんな事を考えていると、僕の横の席に座っている雫も落ち着いてきたようで、父さんの顔をみて声を出す。
「初めまして、私は柊雫です」
座りながら深く頭を下げて言う雫の姿は、僕が今まで見た事のない雫の姿で、そのかしこまった行動に驚いてしまう。
「翔の父です。よろしくお願いします」
その雫の態度に臆する事もせず返した父さんの対応を見て、僕はなぜだか疎外感を感じてしまう。
僕はそんな邪念を振り払うために、本題に入ろうと話を始める。
「それで、父さんにどうしても相談したかったのは、雫の事なんだけど」
「待って、翔君。私から説明させて」
話し始めようとした僕の腕を引っ張って、雫は会話を無理やり中断させてくる。
その真剣な雫の顔に僕は引き下がるしかなく、無言のまま首を縦に振る。
「信じてもらえないかも知れませんが、私は未来からタイムスリップしてきた翔君の娘です」
深刻そうに語るその言葉は、信じている僕でも、やはり怪しさしか感じない。当の父さんも、かなり表情をこわばらせてしまっている。
「タイムスリップ……それを示す物は君にあるのかい?」
「はい」
頷いた雫は僕の顔を見て、真剣な眼差しのまま、今度は僕に言葉を放ってくる。
「翔君。三分だけで良いから席を外してくれない?」
「え、でも……」
「お願い。翔君」
僕が雫の言葉に戸惑っていると、彼女は押し通す様に言葉を重ねて蓋をしてくる。
「……分かった」
「ありがとう」
僕は、真剣な顔で互いを見合わせるその大人達を前に、にじみ出てきた悔しさと、見せつけられる様な自分の幼さを噛み締めながら、笑顔を作って席を離れていった。
去り際に横目で見えたのは、雫がスマホを父さんに見せている様子だったが、キラキラと滲んでいくその光景が、どんどんと見え無くなって行くのを感じて、僕は足早に二人が見えない所へと逃げて行った。




