2日目(6)
「ねえ、柊さん」
「ん? どうかした?」
カーテン越しに柊さんが試着をしている最中。手持ち無沙汰になった私は彼女に声をかける。
「さっきもだけど、私の事名前で呼ぶよね?」
私は柊さんと初めて話してから、ずっと疑問に思っていた事を問いかける。
「えっと……そうだっけ。嫌な思いさせたならごめんね」
柊さんがあからさまに誤魔化す為に言った言葉に、私はあまり気持ちのいい気分には慣れず、問い正す様にもう一度言葉を繋げる。
「ううん。別に嫌とかじゃないんだけど、どうしてかなって」
「そっか……」
私は気持ちが悟られない様に意識しながら、いつもより優しい口調で言うと、柊さんのどこか嬉しそうな声がカーテン越し漏れ出てきて、私の調子は狂いそうになる。
「い、いや。翔君と仲良さそうだったから、友達になれたらなって」
そのすぐ後に、私の気持ちに感づいたのか、柊さんは捲し立てる様にあわてて言葉を紡ぐが、それでも本当の事を言ってはくれない彼女に、私は心の中で諦めを覚えてしまう。
「ごめんね……海ちゃん」
そんな私の心の内が全て分かっているか、柊さんは申し訳なさそうに直ぐに謝罪の言葉を繋げる。
「……いいよ」
だが、私のその謝罪の意図をくみ取りつつも、彼女の事を他人だと割り切った返事をしてしまう。
私の冷たくも感じるその言葉に、柊さんは焦った声を出しながら言葉を返してくる。
「言えない事はいっぱいあるけど、私、海ちゃんと仲良くしたいだけなの。それは信じて欲しい……です」
柊さんのその身勝手でつたない言葉は、そのつたなさ故に、嘘では無いんだと、決して悪い子では無いんだと、そう感じさせてくる。
「……分かった、信じるよ。なんだか他人って気がしなくて、不思議だなって思っただけだよ」
「他人って気がしない……か。ありがとね、海ちゃん」
彼女が嬉しそうに復唱した無意識な言葉に、私は急に恥ずかしくなって言葉を紡ごうと頭を動かすが、でも何処かこの無言は心地の良いもので、私は頭を動かすのを止めた。
「あ、そうだ柊さん。私も名前で呼んでもいいかな?」
「うん! その方が私も嬉しいや」
私がムズ痒い空気を壊すべく言った言葉に、彼女からは無邪気で嬉しそうな声が返ってくる。
こう気持ちを素直に表されると、言った私ですら恥ずかしい気持ちになってしまう。
逃げ癖のある所や、変に素直な所が、なんだか柊君と似ていて可愛いなと思っていると、ガラガラっとカーテンが音を立てて開かれる。
「うん。似合ってるよ、雫」
私が選んだにも関わらず、目の前に現れた美少女の姿に、笑顔と一緒に自然と言葉を零してしまう。
「へへ、ありがと。それじゃ、翔君の所に行こう」
雫は子供の様に無邪気な笑みで微笑むと、私の手を取って彼のもとに向かっていく。
だが前を走る雫が言った『翔君』に、未だに私は顔をゆがめてしまうのだった。




