1日目(12)
空を見ると日の光は微塵も残っていなく、もう昼間の温かさなど無くなった頃。僕達二人は制服から着替える事もせずに、近所のスーパーに足を運んでいた。
「なんだか制服デートみたいだね」
「うるさい」
僕の横をぴったりと歩いてニコッと微笑みかけてくる雫に、僕は心の中で動揺しながら雫の目線から逃げる様にしてそう言うと、雫は心底楽しそうにキャッキャと声に出して笑い始める。
その笑い声に、なんだか見透かされている気がして、僕はもっと恥ずかしくなって彼女の方に目線を戻さずに前だけ見て歩き続ける。
僕が何も考えず、慣れた足取りでスーパーのお弁当コーナーに向かっていると、雫は行き先に気が付いたのか、先程までのテンションとはあからさまに違い、スンと空気を冷たくする。
「お父さん……」
「名前で呼びなさい」
僕はお弁当を吟味しながら、わざと雫の反応を無視して淡々と言葉を返す。
すると雫は何も言わなくなったが、代わりに突き刺すかのような視線をじっと背中に向けてきて、痛いという錯覚すら覚えさせてくる。
「……翔君、今日の夜ご飯は何ですか?」
少しの間を作って聞こえてきた雫の声には色が無く、無機質に告げられたその言葉に温度がないのを感じて、僕は逃げるのを諦めて雫の方に体を向ける。
たがそこに立っていた雫は、見る限りでは怒ってはいない様子だったが、ただ冷淡に真っ直ぐ僕の目を見つめていた。
「あの、その……お弁当でも食べない?」
僕の弱点を知っているかの様な雫の目線に、僕は弱々しく目線を泳がしながら精一杯のおちゃらけた声でそんな提案をする。
「はぁ……」
「そんな、ため息なんて……」
僕が言いかけたその言葉は、頭が痛そうに自分の額に手を当てた雫の、ギロリとした目線を前に、途切れる他無かった。
雫は呆れた様にもう一度大きくため息をつくと、僕の手を引っ張ってお弁当コーナーを出て行った。
雫はそれ以降も無言なまま、右手で僕の手を握りしめて左手で僕の持っていた買い物籠の中に、野菜やお肉を次々と入れていく。
「あの、これはいったい」
「今日の夜ご飯の材料ですけど」
僕が恐る恐る聞いた質問に、雫はこちらに目配せをする事もなく、無機質な声のまま返答をしてくる。
「雫ってご飯作れるのか!」
僕がこの冷たい空気を変えるべくあからさまに大きく反応をすると、雫は急にピタリと立ち止まってしまう。
彼女のその様子を僕はチャンスだと思い、畳みかける様にして矢継ぎ早に言葉を繋ぐ。
「流石は俺の娘だなー。これは自慢だなー」
僕の安易なお世辞を聞くと、雫はバッと僕の方に振返って、握っていた手に非力ながらも先ほどより強く力を込めてくる。
「ばか!」
そう罵ってきた雫の顔は頬が少し緩んでいて、だが目線は鋭いまま僕の顔を睨みつけていた。
雫がそんな状態だというのに、僕はそれが無性に楽しくなってしまい、声を出して笑ってしまう。
「も~~~っ!」
そんな風に不満の声を垂らしながらも楽しそうにしてくれる雫のお陰で、僕はなぜだかこの時間が愛しく思えてしまった。




