1日目(10)
島田さんを駅まで送り届けると、空はオレンジ色に明るく染まっていた。
だけど、その温かな色合いとは違い肌寒さを感じ、僕は真っ直ぐ家に向かって、先ほど通った道を戻っていた。
今日は漫画の主人公にでもなったかの様に、色鮮やかで慌ただしい一日だった。
そのせいか、家の近くの曲がり角を見つけると急に疲労を感じて、それと同時にどこか名残惜しさを覚えてしまう。
そんな自分の考えに、自然と頬が緩んでしまいその角を曲がる。
するとそこには、先程まで一緒に居た女の子が僕の家の前でしゃがみ込んでスマホの画面とにらめっこをしていた。
僕がその光景に唖然として足を止めていると、その女の子の鼻をすする音が聞こえてきて、覚悟を決めて女の子に声をかける。
「雫さん。いったい何をしてるんですか?」
僕の声に反応した雫は、バッと勢いよく顔を上げて、しゃがみ込んだまま半泣きの彼女は、顔をくしゃくしゃにして震えた声で返事をくれる。
「翔君……寒いよぉ」
先程心の中で美少女と褒めた女の子は、ズズっと鼻水をすすりながら、僕の方に両手を差し出して助けを懇願していた。
「ああ、もう。とりあえず入れ」
僕はそう言うと、雫の横を通り抜けて家のカギを開ける。
「うん」
後から聞こえた雫の声は、どこか情けなく聞こえた。
「お邪魔します……」
そう告げた雫の言葉は、さっきまでの寒そうに震えた声とは違い、申し訳なさそうに今にも消えそうな声で告げられる。
僕はとりあえず雫をリビングに通すと、暖房をつけてからソファに腰を下ろす。
その僕の行動を見て、雫は申し訳なさそうにしながらも僕の横にちょこんと座る。
「それで、どうして僕の家の前で待ってたんだ?」
僕の質問に雫は依然として、申し訳なさそうに小さな声でぼそぼそと話し始める。
「その、タイムスリップして、お父さん達に会う! って事までは予定通りだったんだけど、それ以外何も考えてなくって、その……家もお金もありません」
自称娘は、出会ってから初めての敬語を使って、丁寧だが震えた声のまま此処に至る経緯を語る。
彼女の話す理由に、僕は内心やはり詐欺師とかなのかと疑心暗鬼になりつつも、それと同時に、僕も同じ過ちをしてしまいそうな気もして少し信用してしまいそうにもなる。
「そんな、おまっ!」
僕が雫の方に体を向けて少し強めに言った声に、雫は怯えた様に体をピクリと動かす。
そんな雫を見て、僕は自分の言葉を途中で遮り、一呼吸置いてからソファにしっかりと座り直すと先程までとは違う言葉を口にする。
「いや、そうか。わが娘ながら、それは……馬鹿だな」
だってそうだろ? 女の子が目の前で泣きそうになっていたら、そんなの騙されるしかないじゃないか。
「信じてくれるの?」
雫本人も、僕が今まで、彼女が娘だと言うのを信じていなかった事を感じていたのか、それとも、自分の行動が怪しいのを自覚していたかは分からないが、戸惑いながら僕の顔色を窺うように質問してくる。
「ああ、信じるよ。だから自分の娘を外に追い出すなんて事、出来ないよな」
僕は自分の決意をしっかりと固める為、わざわざ声に出して言ったその言葉に、雫も僕の横で溢れるのを精一杯堪えていた潤んだ瞳をゴシゴシと擦って、涙を吹き飛ばす様に笑顔で返してくれた。
「うん。ありがと、翔君」
こうして僕には、同い年の娘が出来たのだった。




