2話 部活の魔法使い
公立双葉高等学校。
普通科・工業専門・スポーツ科・音楽科、そして魔法科と幅の広い分野を学ぶ事が出来る過大規模校であり、それぞれの科目ごとに多くの生徒が在籍されている。
生徒会を中心に部活動なども学校に大きな貢献をしている事から、他県からの編入性も珍しくない。
そして、そんな多種多様な部活動のある中で、校内の一階に角側にとある教室が存在していた。
いつから活動していて、いつから存在しているのかも分からない事から、歴史ある双葉高等学校の七不思議として語り継がれている部活動。
その名も【魔法研究会】と言う。
「へいらっしゃいッ! いつでも何処でも手軽に相談できる魔法研究会とはここの事ッ! さぁ今日は一体どんな悩みでここに来たのかなッ?!」
まるでラーメン店の従業員のようなセリフで魔法研究会の扉を開けた生徒に向けて挨拶をするのは、双葉高等学校一な有名人であり数少ない魔法使い、神宮寺葵である。
「なんだ。 君か転入生くん」
葵の素っ頓狂な挨拶に肩を落として溜息を吐くのは、葵とは同じクラスである男子生徒。
2年生に上がってから双葉高校に転入してきた藤大樹だ。
「お前こそなんだよその変な挨拶は」
「ふっふ~ん。 いいでしょ?! これなら相談に来た人も印象に残って風当りはバッチリ! そこから噂が流れて魔法研究会の印象がよくなる事間違いなしってもんよ!」
「そうだな。 変な女子生徒がいる事でさらに有名になるだろうよ」
「流石は私。 完璧な計画ね」
「いや、愚直な行動だろう」
「なんだとー!」
プンプンと頬を膨らませて怒りを表現している葵だが、藤はそんな事気にする様子もなく部室にある古びたソファーに座り本を取り出す。
「はぁ~あ。 今日もお客さん来ないのかな~。 もう2年生に上がって早2か月。 季節は梅雨となっているのだよ転入生くんや」
「そうだな。 俺としては2か月も過ぎてるのに後輩の1人も入部していない方が頭を抱える所だと思うが」
「それはそれ! これはこれ! 新部員に関しての言及はノーセンキューなのです!」
「左様で」
葵は頭を下に向けながらテーブルに部長席と書かれた名札のある椅子に座り込む。
「こういう時に必要な物ってなんだと思う?」
「まともな生徒部員」
「それはすでに解決してるでしょ?」
「なるほど。 必要なのは自覚だったか」
「あら? 喧嘩かしら? 喧嘩なのかしら?? 上等だコノヤローッ! 表に出やがれ!!」
「断る。 ゴリラと殴りあう自殺行為はしたくないのでね」
「なんだとー! ゴリラところかオーク人にさえ負けない筋力を舐めんじゃないわよ!」
むんッ!と腕に力を込めて力こぶを作る葵の腕は、とても華奢なものだった。
・・・が、その腕が一瞬にして膨れ上がり筋肉の筋がハッキリと見える。
「・・・さて、部活の活動内容についての話だが」
「ちょっと待て。 逃がさんよ?」
明らかに体と巨躯となった片腕の比率が合わなすぎる姿となった葵はニッコリと藤に向けて微笑む。
その笑みには「何か言う事あるだろうワレ」と思っているのが伝わってくる。
「・・・すみませんでした」
「うむ! 分かればよろしいッ!」
プシューと空気が抜けるように腕が縮んでいく。
「くそ。 なんだよ今の」
「ふふふ・・・素晴らしい力だろ。 この力が何か知りたいのかナ?」
「いや、長くなるなら別に―――」
「仕方ないな! そこまで言うのであれば教えてやろうッ!」
「・・・」
聞く耳持たずの葵は頭を抱える藤などお構いなしに話を進める。
「今のは筋力のステータスを魔力を増やす事で強化される強化魔法。 さきほどみたいに身体の一部に魔力を集中させると筋力が膨れ上がり大きくなるのが特徴的ね」
「へ~。 でも一部の強化でそんな風に大きくなるなら、全体的に強化するとどうなるんだ? やっぱり身体全体が大きくなるものなのか?」
「その通り! ・・と言いたい所だけど、それは無理な話ね」
「なんで?」
「身体全体の強化となると、それだけ太く大きな魔力を一定以上の感覚で維持しないといけないから」
水の流れを円を描いた所に流し続ける事は出来るが、そこへ更に水の量を増やしてしまうと円から水が溢れてしまう事と同じだという。
どれだけ全体を強化しようとしても、それだけ強化に必要な魔力を身体に循環させる事は至難の業だという。
「だけどさっきみたいに身体の一部だけを強化させるなら、負担を減らす為に身体の構造を破裂しないように魔力でバランスをとればいい。 これが魔法で実現できる強化の限界ね」
「ほ~ん。 漫画みたいに身体に力を湧き上がらせるみたいな事はできないんだ」
「出来ない訳じゃないけど。 今の私の身体じゃ無理って話ね。 論理的でもないし」
「ふ~ん」
「・・・ハッ! ちょっと待って!」
葵は何かに気付いたように自分の胸に両手を当てて凝視する。
「よくよく考えればこの魔法で胸だけを意識すれば理想のバストを手に入れる事も可能では?!」
「なんだお前。 世の中の女性陣に喧嘩でもふっかけるのか?」
葵は男子生徒から見て誰でも魅力的に見えるスタイルをしている。
制服の上からでも分かる凹凸のハッキリしたラインは世の男性を惚れさせてきたであろう。
「ふっ、甘いわね転入生。 女子と言うのは常に最高のスタイル維持する事を目標にして生きている生物よ。 故に私には私の理想とするバスト数値という物が存在するの! 分かる!!」
「お前の場合、理想の体型よりも一般のモラルを持った方がいいぞ。 男の前で自分の胸をもむな」
「なんだとこのムッツリスケベめ。 そんな事いいながらチラチラ見てんじゃないぞ」
「・・・・うっせ」
「うわ声小さッ!」