隻眼のエルフ
新キャラ登場。
滝つぼの国の城の地下の牢屋に、エルフの男がひとりおりました。
彼は忘れられた存在で、もう何十年もそこにいました。
質の良い金髪はかなり伸びていて、2mはある身長で立っても地面についてしまう程です。
もっとも、彼は座って目を閉じ、立つどころか動こうとはしませんでしたが。
久しぶりに彼が目を開けると、一匹のアゲハ蝶が入ってきていました。
蝶は牢の中を飛びまわり、数回旋回して、地上に通じる小さな穴から出ていきました。
何も考えず、無意識に蝶を追っていた彼の両目はやがて、小さな穴を捉えました。
そこから、ちいさな幼子の手が、手招きしているのが目に入ったのです。
「…っ」
彼は這うようにして穴に寄り、座って、長い指を小さな手に向けました。
するとその手は、彼の指を握り、引っ張って指だけ外に出したのです。
「きゃっきゃっ」
幼子は嬉しそうな声を出して、隣のさらに小さな穴から覗いてきました。
瞳孔まで青い眼と、エルフの銀の眼とが合いました。
「アリア。何してる」
「う? きゃ~♡きゃ~♡」
ようやくハイハイしだした頃のアリアは、彼の指を見せ、穴を指さしました。
「え?」
父、ラミエル・フェアリー唖然。
「きゃ~きゃ~」
ちびアリアは「コイツを出してくれ」と言わんばかりに、囚われのエルフをアピールしていました。
数十年ぶりに出された彼は、アリアを護る騎士になりました。
騎士になった彼を、滝つぼの国を支える聖剣は主に選び、彼はすぐに騎士団長にまでなりました。
その日、彼は揺りかごを覗いて言いました。
「この恩は忘れない。俺の唯一の主よ。貴女を護るとここに誓おう」
銀の双眸は、かつて彼が牢屋にいた時には無かった光を宿していました。
そんな彼の腰で、炎を纏う聖剣は、彼の意志を象徴するかのように鞘の中で光り輝いたのです。
彼、滝つぼのエルフの騎士団長の片目が開きました。
「……。夢…」
左目を失ってから武者修行の旅に出ていた彼は、シュタッと木から下りると、川へ向かいました。
顔を洗うのと、水を飲みに来たのです。
水に、彼の整った顔が映りました。
左目の傷は生々しく残り、目を完全に塞いでいます。
陰の一座からアリアを護った時に付けられた傷です。
彼は水をすくい、パシャッと顔にかけました。
冷たい水は、仄かに故郷の匂いがしました。
滝つぼの国は、もうすぐそこです。
「兄様、兄様、兄様ぁ!」
バーンと、元気にアリアが入って来ました。
ホーリーがその頭上に浮かび、雪兎は片手に抱かれています。
竜王は普通に、人型で後ろについてきていました。
「姫様」
「どうした。アリア?」
ルカとエレミヤが振り向きます。
「アラモアが帰って来るって本当!?」
「アラモア?」と、ルカが首をかしげました。
「おやおや。ビックリさせようかと黙っていたのに、何処からの情報だ?」
「メイドさん達だよ!」
エレミヤの優しい問いかけに、アリアは律義に答えました。
「じゃあじゃあ、本当なんだね!?」
「ああ」
「やったぁ♡本当なんだってぇ!」
その言葉を聞き、どうやら後ろに待機していたらしい騎士団の数名が歓喜をあげました。
「姫様(と騎士団)、凄い嬉しそうでしたね。どなたです?アラモアさんというのは?」
ルカは軽く嫉妬したように聞きました。
エレミヤは
(悪魔でもそんな感情をもつのか。随分と人間くさいじゃないか)
なんて思いながら、答えてあげました。
「アラモア・ライオネス。
アリアの騎士で、この国最強の不在の騎士団長だ」
「えっ?あの“隻眼の騎士団長”ですか?都市伝説かと思ってました」
隻眼の騎士団長とは。
滝つぼの国最強と云われる、不在の騎士団長のこと。
アリア・セシリア姫専属の騎士だが、修行の旅に出ていて今は不在。
その容姿は太陽の如く美しく、獣の如く鋭い眼をしている。
長身で薄い色の金髪。隻眼。
「…普通、そこまでハッキリ人物描写してたら、実在するって思わないか?」
エレミヤの冷たく、当り前なツッコミがルカに当たります。
「だって、知らなかったから」
「まぁいいさ。会ってみればわかる」
「はぁ…」
ルカはあえて、「何がわかるんですか?」とは問いませんでした。
ルカはアリアちゃんが大好き。