姫の誕生日
滝つぼの国の伝統行事♡
滝つぼの国には雪が降らず、年中滝つぼに水が流れています。
12月25日。
滝つぼの国の王女、アリア・セシリアの誕生日がやってきました。
国をあげての祭りは、前夜祭から始まり朝にはピークに達していました。
アリア姫を護る騎士、ルカ・セントルイスのテンションもまた、日出の頃には最高潮に達していました。
~プリンセスルーム~
「ええ!竜王、昨日が誕生日だったの?何で言わなかったの」
「俺よりアリアの誕生日が大事だ。それに、俺は死んでるようなモンだし」
「何を言っちゃってるの。ダメよ。お祝いしなきゃ。
あ、そうだ。明日ケーキを作ろう!ちっさいパーティーをしよう」
アリアは今日ばかりは厨房に入れないので、明日ケーキを作ることにしました。
調理場にアリアが入れないのは儀式があるからで、儀式のために調理場には入れないのです。
滝つぼの国には、十歳の誕生日と成人式に、歳の儀というものをやるのです。
基本は水に関連した儀式ですが、王族と民の儀式は多少違っています。
国民は、魔力を使って水の上を歩いたり、水を浮かせて動物を形作ったりします。
王族は、水の上に浮かぶ舞台まで歩き、舞台の上で舞を演じます。日本でいう神楽です。
小道具も必要で、男の子は剣とベールを、女の子はベールと地面まである袖の衣装を装備します。
一番最近行われた王族の儀式は成人の儀で、エレミヤが舞いました。
ちなみに、エルフの成人は30歳です。
「エレミヤ様。我が唯一無二の主は一体どのように舞われるのでしょうか」
「さあ。まあ兄上と義姉上の娘だからな、綺麗だろう」
「ですよね。楽しみですね。ホーリー?」
「はいです♡」
滝つぼから流れてきた水溜まりに、王、騎士、神官、巫女が整列します。
「はうう。緊張するよ」
「頑張って」
「竜王、代わりに…」
「無理」
「うぬ…」
その時、入場を知らせるハープが鳴らされました。
ポロロロロロン♪
「行け」
「うぬ。よし行く。水も世界もお友達だ」
「俺もトモダチだ」
「ほお…ほぉ」エレミヤが発して、
「姫様……麗しき君」ルカが呟きました。
純白の身体に合ったシンプルな、シルクのよな光沢を放つ、裾と袖の長いドレス。
頭に乗せただけの水のようなベール。裾からたまに見える素足には銀の足輪が光ります。
髪にはいくつか珠が飾られています。
緊張のため頬はやや赤く、その姿が子供らしくて可愛いです。
アリアは軽やかに水面を歩きます。
才ドンの前に浮かぶ舞台にそっと乗り、エルフの脅威のバランス感覚で普通に立ちます。
舞いのハープがひとりでに鳴りだしました。
ポロロロン ポロン ポロロロロロン ポロロン ポン ポロロロロン
動くたびに揺れる舞台上で、アリアの舞いが始まりました。
長い袖をゆっくり上下に振り、翼のようにベールをなびかせます。
一回転して、裾とベールが花のように開いて閉じました。
ベールをつまみながら右手を高くおき、左手を低くおいて回ります。
袖に忍ばせてある鈴が、ちりんと可愛らしく鳴りました。
わざと濡れて、回りながら水を飛ばします。
ベールと裾が、より良く開くように手で持ち、くるくると回りました。
ベールと裾は花開き、アリアが回るのを終えると同時に蕾のように閉じました。
ポロロロロロロロン ポロン
演舞は終了です。
「見ましたか?兄上。貴方の残した水の精を」
「ルカ、ルカ!しっかりするです!お~い」
「う…うぅ…。ここは…天国?」
「悪魔でも天国?」「悪魔が何をゆうとるですかコラ」
竜王に支えられ、ホーリーに罵倒されたルカは、幸せそうに一旦眠りました。
「あ」「?」
松明があちこちで燃え、国のあらゆる所でお祭り騒ぎがおきています。
城のバルコニーに、アリアはいました。
滝つぼの国名物の冬蛍が、差し出されたアリアの手にじゃれて遊んでいます。
フクロウが一羽飛んできました。
「ホゥ」
フクロウは一声鳴いて、手すりに可愛い包みを置きました。
包みには、さわり心地最高の猫のぬいぐるみが入っていました。
兎のぬいぐるみの雪兎が、興味深そうに見ています。
髪が一枚ひらりと落ちました。
雪兎が拾ってアリアに渡します。
アリアは読んで、ふっと笑うと、フクロウに魔法をかけて飛ばしました。
『親愛なるアリア・セシリア・フェアリー様
十歳おめでとうございます
多くの幸せを 闇の中からお祈り致しております
ベル』
フクロウは、主人の元に到着しました。
「ホゥ」
「おかえり。渡せた?」
「ホゥ」
「ありがとう」
フクロウがベルの腕に飛び乗った時、アリアの魔法が発動しました。
「わあ」「ホゥ」
キラキラとした粒子が飛んで、蝶の形を作ります。
沢山の蝶が飛び回りました。
そしてベルの頭上で、いくつもの光の粒になって、地面に着く前に消えていきました。
「凄い。綺麗だ」
「ホゥ」
満点の星空の下、祝いの言葉が飛び交った。
歌が歌われ、詩が詠まれた。
様々な想いを流しながら、今日もまた、日付が変わる。
もう30話か。早いもんですね。