少年と吸血鬼
昨日、銀魂という映画をみてきました。
やっぱりアレは最高です。
死臭の漂う家のドアを、誰かが開ける音がしました。
グイルは敵襲かと思い、喪失した戦意を復活させます。
敵意をむき出しにするグイルの前に、若い男が立ちました
暗くて顔は見えませんが、彼は優しく笑っているようでした。
「王に言われて来てみれば、随分と派手にやらかしましたね」
男が口を開きました。
「君が彼らを?」
グイルは、さっきの奴らとは違う彼の雰囲気に恐怖心を抱きつつも、頷きました。
「凄いじゃないですか。幼いながらに大人に勝る力を持つとは」
でも、と彼は続けます。
「それでは君は、強いとはいえません」
彼は魔力で発光させた手をかざしました。
グイルも魔力を発動させます。
家に明かりが灯り、彼の顔が見えました。
丁寧に手入れのされた灰色の長髪と、整った顔立ちの男でした。
黄色い双眸には、優しい光が宿っています。
「力が欲しいですか?」
ルカと似た、というか同じ質問です。
「…ほしい」
「何のための力が?」
グイルは答えません。
彼はそんなグイルを見て、言いました。
「力が欲しいなら、私についてきなさい」
彼は扉の方に歩いて行きました。
「そして、力の使い方、意味を学ぶといい」
彼は一度立ち止まり、振り向いて言いました。
「君ならきっと見つけることができるはずです。力の使い道を」
グイルは男が出ていくのを黙って見ていました。
「私についてきなさい」
彼の言葉が頭の中でこだましていました。
両親を振り返りました。
寄って行き、開いたままの目を優しく閉じました。
そして、部屋に火を放ち、グイルは男を追いかけて外に出ました。
彼は普通に外に待っていました。
「名前は?」
かがんでそう聞いてきました。
「グイル」
グイルは素直に名乗りました。
彼になら教えてもいいと、無意識のうちに判断したのです。
「私はロンド・スプラチェル。来なさい、グイル」
ロンドは町の外れに歩いていきます。
グイルはそのあとをちょこちょことついて行きます。
が、初めてのくせに大量に魔力を消費したせいで、コケてしまいました。
立てないので、そこから先は、ロンドにおんぶしてもらって進みました。
「…ロンド」
「はい?」
ロンドの背中から、グイルは声をかけました。
「さっき、何のために力が欲しいか聞いたよな?」
「ええ」
「…言う」
ロンドを掴むグイルの手が、かたく握られました。
「俺は、力が欲しい」
「何のために?」
「……」
(答えたら、ロンドは俺を捨てるのかな。怒るのかな。殺すのかな)
頭にそんなことがよぎりました。
でも、思い切って言うことにしました。
「…を……わす…」
「はい?」
ぼそぼそ過ぎて聞こえません。
でも次は聞こえました。
「魔法界を壊す」
聞いた途端、ロンドの両目は見開かれました。
「そうですか」
ロンドの答えはそんなものでした。
町を出ました。
するとロンドは、「そう言えば」と前置きをして言いました。
「審判者…私を送った王が、グイルに姓をくださいましたよ」
「せいって?」
「私でいうスプラチェルです。呼び名…みたいなものですかね」
グイルは「ふ~ん」と鳴らし、また聞きました。
「で、俺が貰った姓は?」
ロンドが笑う声が聞こえた気がしました。
「ジャスティス(正義)。君はこれからグイル・ジャスティスです」
確かに、魔法界に行ったら悪役になろう奴に、「正義」はない。
しかも、その魔法界の王にもらったので、生理的に嫌です。
グイルが反論しようかとした時、
「はじめに聞いた時も思ったんですが、いい響きですよね。『グイル・ジャスティス』」
ロンドはそう言いました。
いい響き いい響き いい響き いい響き いい響き いい響き ・・・・・・・・・
グイル・ジャスティス グイル・ジャスティス グイル・ジャスティス グイル・ジャスティス グイル・ジャスティス ・・・・・・・・・・
グイルの頭で、その言葉がエコーそました。
何だか嬉しくて、反論をグイルはやめました。
いつの間にかグイルは、ロンドの背中で眠っていました。
「死者は蘇らない。
だからこそ残された生者は、悔いなく強く生きなければなりませんよ」
ロンドは、心地よさそうに眠っているグイルが、聞いていないことを承知で言いました。
世界が開け、ロンドとグイルは魔法界へ行きました。
炎の中から、二人の男女と一人の赤ちゃんの魂が出てきました。
「我らの息子に、神のご加護を」
声なき声が、空に向かって言いました。
繋がる登場者たち。
闇に墜ちた少年と、闇に輝く姫。
あとは、あれやそれ。
グロテスクゾーンは今の所は終了です。