月が昇る
魔法界。それは魔力を持ち操る生き物と、神話に登場する生き物の世界。
そこにはエルフの小国が在った。
美しい森に囲まれ、雄大な滝つぼに恵まれた通称、滝つぼの国。
その国の王女に仕える悪魔のルカは、葬式を行った教会の画に、得体のしれない何かを感じました。
姫と悪魔の同居、スタート。
少女の歌が聞こえます。
それは、死者へ捧ぐレクイエム。
大きな鐘の音が、小さな国に響きます。
空の上には魂ひとつ。
丸いソレは形を変えて、大きな翼を生やしたエルフになりました。
銀色の髪に、紫の混じった銀色の瞳、エルフ特有の白い肌ととんがった耳の、綺麗な青年です。
彼は、娘の歌う自分への歌を聞いています。
最後まで聞くと、彼は名残惜しそうに消えて逝きました。
教会に、長い黒髪に黒い瞳の黒い服を着た悪魔がおりました。
ルカという名の姫の執事です。
彼が見上げる先には、十字架に貼り付けにされたイエス・キリストの画があります。
かなり最近入ってきた宗教で、その宗教を広めたイエスという男は、神の子だとか。
事実、こうして一度は十字架上で死にながら、三日目に復活していらっしゃる。
ルカはその画を見た時、その画に不快感をえました。
それは別に、描かれているのが神の子だからではなく、似たような境遇を見た事があるような気がしたからです。
「十字架は犠牲の象徴。貼り付けの柱。名誉の象徴」
誰かが言っていたようですが、主の所へ行くルカには関係のないことでした。
主であるアリア姫の部屋に行くと、もぬけのからでした。
窓が開いていたので閉じると、ガラスに十字架が映ったので、ルカは驚いて振り返りました。
それは、扉の模様でした。
「何なんですかこれ・・・」
異様にモヤモヤとします。
ワケのわからない感情を振り払うように、なんだか落ち着くところ、アリアの所へと急ぎます。
光をキラキラとはじく黒髪に、瞳孔の存在の分からない蒼い瞳のエルフと天使の混血の少女が、水の上を歩いています。
彼女こそ、ルカの主にしてこの国、滝つぼの国の王位継承者アリア・セシリア(・フェアリー)姫であらせらされます。
国民からは、混血美少女プリンセスとして、グッズが出るほど人気のお姫様です。
ちなみに、ルカはアリアちゃんグッズを一夜ですべて手に入れました。
その際に、ホーリーとかいう赤い聖霊(もしくは妖精)に「ヘンタイ」と言われたのですが、気にしないのがルカのスタイルです。
「姫様~お茶にしましょう」
エルフの耳は人間よりモノスゴク発達しているので、30メートル先で魚と遊んでいるアリアに言うには充分な音量です。
アリアは「お茶?」と言いながらルカを見ます。
「ぐ・・・可愛い・・・(ボソッ)。はい。姫様にと国中から焼き菓子や紅茶の茶葉やぬいぐるみ、ペット、ラブレ・・・ちっ、その他が送られてきていますよ」
発言から分かる通り、ルカは完全にアリアになついています。
「焼き菓子」に反応したアリアは、嬉しそうに水面を走ってきます。
魔力を使わずに。
お茶が用意できました。お菓子も選びました。
「それにしても、姫様は何故魔力を使わないで水面を歩くことが出来るんですか?」
お茶を淹れながらルカが訊ねます。
「水が私を持ち上げてくれてるの」
「はい?」
意味がわかりません。
「水が助けてくれるの」
「はあ」
分かりません。
「ではまた今度教えてください」
「うん」
アリアはもうお菓子に夢中です。
ルカは「親亡くしたり殺したりしたばかりでこの回復力。姫様って見かけより強いな」と思いました。
「まあそこにホレたんですけど」
これは声に出てきましたが、アリアは全く気付いていません。
「おいしい~」
とか言っちゃってます。
長い髪にクズがぽろぽろ落ちてますが、なんぼのもんじゃいと食べます。
すると、アリアは突然食べるのをやめて一言。
「お腹一杯」
「え?」
「お昼ごはんはいらない」
「え?でもまだ一袋も食べてませんよ?」
「私は父様<<ととさま>>譲りで胃が小さいんだい!」
「ええええええ!?もっと早く言ってくださいよ」
「昨日も夕ご飯残したじゃないさ!」
「スイマセン。ショック症状だと思ってました」
衝撃に事実発覚。しかし、次に告げられたものの衝撃は、コレを超えるものでした。
「あと、私は臓器が左右逆についてて、心臓は右にあるヨ」
・・・・・・。
沈黙。
・・・・・・。
ぽくぽくぽくぽく(木魚)
・・・・・・。
ぽくぽく ちーん!
豆電球ピカン!
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
絶叫。
森のなか、ちびっ子エルフ三兄弟の会話です。
「なんだ?なんだ?」
「クマか?」
「違うよ!妖精だよ!」
「あっそれいい!」
「妖精だ妖精だ」
違います。
「おかーさーん!妖精がいる~!」
「はいはい。さて坊やたち、ご飯ですよ~」
「はーい!」「わーい!」「らじゃー!」
さて、妖精扱いされたルカは、白衣を身にまとい問診を始めました。
「障害などはありますか?」
「左目が見えんのです。ドクター」
「病気は?」
「無いです。風邪はしょっちゅうです」
ドクタールカの質問にアリアが答えます。
「大きなけがをしたことは?」
「無いです」
今思ったけどドクタールカーって伸ばすと、ドクターコトーみたいでカッコいいですね。アレ?カッコいいのかこれ?まあいいや。
「おつかれさまでした。もういいですよ」
「ありがとうございました。ドクター」
キュン!!
「いえ」
色々あったけど、今日はあっという間に過ぎました。
アリアは午後9時にパタリと寝ます。
ルカはというと、明日の朝ごはんの下ごしらえをして、森で拾ってきた薪を割り、お風呂に浸かって、わしゃわしゃと髪を乾かしながら歯を磨き、(最初からやれば良かったのに)魔法でぱっと髪を乾かし、30分使ってアリアの服を選び、11時45分にルカは寝ました。
「アリア姫の夢見る、アリア様の夢見る、姫様の夢見る・・・GО!」
寝ました。
怪しすぎてアリアには見せることができません。
そして・・・ルカはなんやかんやで夢を見た。
「おや?」
そこには手を伸ばせば届きそうな月があります。
「おお」
見渡せばそこは水の上。
おや、何かが出ています。十字架です。
十字架には銀色のティアラが鎖で巻きつけられています。
ルカの脳裏に、今日見た「十字架上のキリスト」が浮かびます。
「拘束・・・」
ルカがティアラに手を伸ばすと、十字架はティアラを連れたまま、水にもぐってしまいました。
すると、入れかわるようにして、小さな太陽がひょっこりと出てきました。
太陽は迷子の子供のようにちょろちょろと動きます。
やがて太陽は、輝いていない月を見つけ、戸惑いながらも嬉しそうに月に向かって飛んでいきます。
月は優しく太陽を迎え入れました。
そして、月は美しく輝き、空へと昇ってゆきます。
「あっ」
ルカはあわてて月を掴もうとしましたが、月には触れずぐんぐん水面とルカから遠ざかっていきます。
星がちらちらと見えました。
もう月には届きません。
「行ってしまう。あの方が」
ルカはそう言うと、水面から高く跳びました。
星に乗り、星を跳び、月を追いかけます。
最後に跳んだ星が、結構高く跳ばせてくれました。
そこは、星の無い所でした。
月は昇っていった
星を見下ろす高みへと
静かに 気高く 清らかに
堕ちていった
気持のよい朝です。
ルカは勢いよく起きました。
夢に見た現実味のない夢が、頭から離れません。
「月・・・」
ルカは、魔力型という、魔力の分類を思いだいました。
魔力にはそれぞれ、血液型のように型があります。
種類は光、闇、太陽、月、星。
ルカは闇で、アリアが月でした。
「あの月は、主?」
ならば、アリア姫はどこかへ行ってしまうのか?
考え出したらキリがありません。
起きたんだから仕事をするに限ります。
きっちりといつもの服に着替えて、歯を磨いて顔を洗って、外の空気を吸いに出ます。
森の朝は冷えます。
暖かな朝日に森は眼を覚ましたようです。
どうやら早朝だというのに、何やら賊が来たようです。
昨日、アリアの叔父である王様にもらった剣を持ち、ルカは長い黒服と髪をはためかせ、賊の成敗に向かいます。
「俺は、アリア様の執事、ルカ・セントルイス。姫様が行ってしまわれるなら、それまで俺は、主の傍に在り護る」
自分に言い聞かせるように、ルカは呟きました。
賊が見えてきました。
10人はいます。
ルカは木を蹴り、賊の前に立ちます。
「おはようございます」
爽やかに言うと、賊のひとりが叫びます。
「何だお前!」
ルカはにっこり笑って堂々と答えます。
「俺は、滝つぼの国の姫君、アリア様の執事のルカ・セントルイスと申します」
ルカにはもう、迷いももやもやもありませんでした。
今は、目の前の賊を成敗するだけです。
鞘から刃が解き放たれました。
木の上に、雪のように白く長い髪の、誰かがいます。
彼は見ています。
アリアという、主の姿を。
新キャラ登場です。
いや~お腹がすきました。
お腹がさっきからうるさいので、これにて私は失礼します。
次回、白竜登場。
ルカが暴れる!アリアが可愛い!新キャラ出る?
お楽しみに。
ごはん~!!!!!!!!!!!!