2話
俺は犬になった。
水面にうつる自分の姿は正真正銘可愛らしい犬だった。どうやらあの爺さんが言っていたことは本当だったらしい。
そんなことを考えていると視界に変な板が浮かぶ。
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名前:
種族:イッヌ
レベル:1
HP:10/10
MP:5/5
筋力:10
俊敏:8
耐久:3
器用:3
魔力:100
<スキル>
鑑定:1 魔力操作:1
善行ポイント0
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備考:これはステータスボードと言っての。お前の能力値を可視化したものじゃ。気になるものは意識を集中させると詳しく見れるようになるぞ。以降はステータスオープンと念じれば出せるようになるぞい!
おぉ。これはゲームっぽくてワクワクするな。若干魔力に偏りすぎてるような気がするが…
スキルの隣の数字はレベル…かな?
もしそうだとしたらどちらもレベル1ということか。
てか、なんだよイッヌって普通に犬でいいじゃねえか。
備考に書いてあったように種族に意識を集中させる。
【種族:イッヌ】ただの犬。実はイッヌは犬の可愛さが極まると、この愛称に進化するらしい…
なんだそりゃ。まぁただの犬ってことね。
次はスキルかな?個人的に鑑定と魔力操作というスキルはありがちなものだから見なくてもわかる気がするが
<鑑定>対象の物体、生体の能力値や特性などが見れる。レベルが上がるごとに見えるものも増える。
<魔力操作>魔力を用いる上で最も基本的な技術、レベルが上がるごとに魔力の操作が上手くなる。
大体想像した通りだったな。
そういえばじいさんは善行ポイント100万ないと、来世では虫って言っていたな…
まず善行ポイントの貯め方すら聞いてないぞ…
ステータスボードにある善行ポイントという項目に意識を集中させていると。
【魔法】
【技術】
【身体能力】
こんな項目が出てきた。
どういうことだ?
魔法?技術?身体能力?
やっぱりあの爺さん説明端折りすぎじゃないか?
内心そう愚痴っても現状は変わらないので周りを見渡す。
この穏やかな流れの川以外は鬱蒼とした森が広がっている。一つ一つの木々はこの犬になった身より10倍は大きい。
前世ではインドア派だったのでこんな景色はテレビ以外ではそう見なかった。
とりあえずここを中心として、あたりを探索してみよう。
森の中は比較的静かで、小鳥が囀っていたり、小動物がこちらを見てきたりと、前世で荒んだ心が穏やかになっていく。
そんな光景をみながら少し休憩をしていると、小鳥が急に飛び立ち、動物達は一斉に散る。
なんだ?と訝しんでいると、木々の間から
1匹の小人のような影がみえる。
見つからないように木の後ろに隠れていると、その全貌が現れる。
一見子供のような背丈だが、その顔は鼻が異様なほど高く、耳がとんがっていて、極めつけに肌は緑という醜悪な見た目をしていた。
か、<鑑定>
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名前:
種族:ゴブリン
レベル:2
HP:15/15
MP:0/0
筋力:12
俊敏:7
耐久:5
器用:7
魔力:1
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やっぱりゴブリンか!
ファンタジーだとよく出てくる雑魚モンスターとして有名だが俺よりステータスが高い…
ここは逃げるべきだな…幸い相手はこちらに気づいていないみたいだ。
そろりそろりと犬の身で音を立てないように歩く。
ポキッ 枝が折れた音があたりに響く。
!? しまった!ゴブリンに注視しすぎて、足元を疎かにしてしまった。
急いでゴブリンを見ると目が合う。
ゴブリンは醜悪な顔をニィッと歪ませこちらに走ってくる。
やばい!?ステータスはゴブリンの方が高いから戦ったら負ける。ここは逃げるが勝ちだな!
こちらはゴブリンより俊敏が速いから追いつけないはずだ。
追ってくるゴブリンから必死に逃げていると、急にゴブリンが立ち止まる。
よし!ゴブリンも追いつけないと悟って諦めたか。
少し離れてから俺は荒い息を整えるために立ち止まる。
そう…立ち止まってしまったのだ。
ゴブリンがなぜ立ち止まったかを深く考えずに。
風を切りながら飛来してくる石が体にぶち当たる。
投擲…その2文字が頭に浮かぶ。
瞬間体に激痛が走る。
痛みの元を辿ると右前足が変な方向に曲がっている…
やばいやばい!これじゃあ走って逃げれない。
そんな思考をしていると、ゴブリンが近づいてくるのが視界の端で確認出来る。
なにか…なにかないか!?誰か!
必死に吠えても現実は無慈悲でそんな都合よく助けが来るなんてことは無い。
ステータスを確認するとHPは4/10にまで下がっていた。
そうだ!魔力操作!これがあるじゃないか。
前世で暇つぶしに読んでいた小説では魔力を身体に纏うと身体強化ができると書いてあった。
創作を信じるのは頭がおかしいと思うかもしれないが、このまま死ぬよりはずっといい!
<魔力操作>
激痛に耐えながらスキルを発動させると身体の内側からなにかが湧き上がってくる。
これが魔力…?
視界の隅ではゴブリンが目前にまで迫ってきて手に持った石を振り下ろそうとしている。
急ぎ魔力を強引に身体に纏う。
不格好だが確かに身にまとったそれは、ゴブリンの打撃を軽減した。
ゴブリンはかえってくる手応えを不審に思ったのか首をかしげている。
その隙をつきゴブリンに向かって飛びかかり、喉笛に噛み付く。
ゴブリンは抵抗してくると思っていなかったのかろくに抵抗もできずにそのまま呆気なく命を落とした。
か、勝った…
勝利の美酒に酔いしれていると足を怪我していたことを思い出し、急いで足を何とか治そうと思い目を向けると何故か足が元通りになっていた、
なんでだ?そう疑問に感じたが強烈な眠気が襲ってきて思考が中断される。
眠い身体に鞭打ってどこか休める場所をさがしに歩く。
ちょうどその時視界に手頃な洞穴を見つけた
その洞穴を眠気で機能が落ちている頭でなんとか索敵し誰もいないことを確認すると泥のように眠った。