§2高校時代の彼氏
絵美里は高校2年生の時から、一つ上の先輩である青江将生と交際していた。告白してきたのは彼の方で、頭も良く人気者の彼に絵美里は一目で魅かれた。
「絵美里は可愛いな!エミリーって呼んで良い?」
「じゃあ、わたしはマッキーと呼ぼうっと!」
交際し出して3カ月目に、初めてのキスをした。夏休みの夕方の公園で、蚊に刺されながらのファーストキスだった。
「マッキーは、大学に行くんでしょ!受験する所は、決まったの?」
「ああ、東京に行きたくて調べてる。エミリーも来年、東京においでよ!」と言われ、私はその気になって喜んだが、親を説得するのが至難の業だった。
絵美里の両親は共に高校教師で、一人娘の教育に厳しかった。高校卒業後の進路も地元の国立大学に行くように勧め、東京へ行く事などは論外だった。また、彼女が将生と交際している事も知れて、母からきつく説諭された。
「青江君は優秀みたいだけど、まだ男女交際は早いんじゃないの?これから大学に行くために、男の子と遊んでる場合じゃないわよ。青江君だって、受験でしょ!」
「勉強はしっかりとやるから、将生君と付き合ってもいいでしょ!」と訴えても聞いてくれず、私はこんこんと言って聞かされた。
「まさかとは思うけど、不純な事はしてないわよね!高校生の男子は、女子に対して欲望を抱いていて抑え切れないの!あとで泣くのは、女の子なのよ!」
母の言う事は極端だが、確かに一理あると思った。キスをしてから彼の要求は止まる事なく、嫌だと言っても聞いてくれなくなっていた。勉強にも身が入らず、いつも彼の事、彼との行為で頭がいっぱいだった。
将生は第1志望の大学には落ち、滑り止めにしていた第3志望の大学に入学手続きをした。浪人して再挑戦する意欲はなく、一応東京の大学に行くという目的は果たした。卒業式の翌日、絵美里は彼の家に呼ばれて行った。
「卒業おめでとうございます。卒業式で、泣いちゃった!」
「ありがとう!東京から高速バスで2時間だから、またすぐに帰って来るよ。」
「絶対だよ、待ってるからね!」とまた泣きそうになった。そんな私を彼はそっと胸に抱き寄せ、いつものキスをしてくれた。家の人は誰もいなくて、周りを気にしないでするキスに酔いしれていた。ベッドに導かれ、自然の流れとして彼と一つになった。私にとって、初めての体験だった。彼に抱かれて嬉しいはずなのに、なぜか悲しくて涙が止まらなかった。
「ごめんなさい、泣いたりして。夏休みに、東京へ遊びに行って良い?」
「ああ、大歓迎だよ!夏休みと言わず、来年東京の大学に受かったら、いつでも会えるし、何なら一緒に住んでもいいかも!待ってるからね。」
親に東京の大学に行きたいと、それとなく匂わせていたが、まだ具体的な話は出来ていなかった。一緒に住むのは無茶な事だが、東京での大学生活を夢見ていた。
絵美里は再三にわたり談判して親の承諾を得たが、女子大の寮に入る事、長期の休みには帰って来る事が条件だった。彼女は東京に行けるなら、何でも構わないとそれを受け入れた。そして夏休みになると、オープンキャンパスに友だちと行くと偽り、将生の部屋に一泊した。
「親に分かってもらえて、良かったな!」と言う彼は、私ほど喜びを表さなかった。ゆっくり話す余裕もなく、待ち構えていたとばかりに私を求めてきた。
絵美里は親の条件に適った聖海女子大に合格し、親とともに上京した。一刻も早く将生に会いたいと思いながら、引っ越しと手続きを済ませた。翌日、彼を驚かそうと思い、連絡もせずに部屋を訪ねた所に女の影があった。彼女は何も言えず、その場を逃げる様にして立ち去った。寮に帰り着くや|否≪いな≫や将生から電話があり、友だちの彼女の相談に乗っていただけで、何の関係もないと言い包められた。
「ホントなの?驚かそうと思っていたのに、私の方がびっくりしちゃった!」
「ごめんよ、急に来るからさ。明日は大丈夫だから、部屋に来て食事を作ってよ!」
彼を信じた私は喜んで部屋に行き、彼の思い通りにされた。親の目の行き届かない所で、その解放感から彼の虜になっていった。
そうして3カ月が経ったある日、絵美里は予告なしに彼の部屋を訪れた。留守だと思って預かっていた鍵で部屋に入ると、ベッドの中で絡み合っている男女に目を奪われた。まさしく将生とこの前の女で、裏切られていた事にようやく気付いた。




