§1バイトの先輩
<柊絵美里(18歳)>
聖海女子大文学部1年生。山梨から上京し、大学の女子寮に入る。両親は共に高校教師。高校時代の先輩である青江将生と交際しており、東京の白銀大に入った彼を追うように東京の大学を受験した。身長150㎝、セミロングの髪型で小顔。
柊絵美里は山梨の高校を卒業し、東京の聖海女子大の文学部英文学科に入学した。両親は上京する事に反対していたが、女子寮に入る事を条件に許された。ワンルームの部屋を借りて自由に暮らしたかった彼女だが、両親に背くこともできず仕方なく条件を飲んだ。いずれは部屋を借りようと、夏休みにコンビニのアルバイトを始めた。そこで指導係となったのが、アルバイトの先輩の立松千宙であった。
「よろしくお願いします。わたし、バイトするのは初めてで、迷惑をお掛けするかもしれませんが、いろいろと教えてください。先輩は、どこの大学ですか?」
「こちらこそ、先輩と言っても半年足らずだけどね。大学は千里大学だよ!」
「そうなんですね!わたしは、聖海女子大の1年生です。」と言うと、「聖女なの?」と訊き返された。さらに「女子寮に住んでいる」と言うと目を丸くしていた。
「女子寮って、あの神田にある大学の近くの?」とやけに詳しかった。
「誰か知り合いでもいるんですか?まさか、彼女さんとか?」と突っこみを入れると、顔を赤くしてかぶりを振っていた。私は彼の態度から、図星だと確信した。はにかんだ彼の態度が可愛らしく、好感を抱いた。
二人は未成年という事で、夜間のシフトは外されて同じ時間帯で働く事が多かった。自然と会話も多くなり、親しみを覚えるようになっていた。
8月も終わろうとするある日、バイトにもすっかり慣れた絵美里の元に、茶髪のいかにも遊んでいる風の大学生が訪ねて来た。
「エミリー、ここで働いてたんだ。最近、連絡しても返事がないし、心配したよ!」
「あっ、マッキー!どうしてここが分かったの?まさか、付けてきたとか?」
私は信じ難い思いで、立ちすくんでいた。
「何時に終わるの?そこらで待ってるから、逃げないでよ!」と言い残して帰って行った。横にいた立松さんは、不審な面持ちで経緯を見守っていたが、私の尋常ではない態度を察し、心配して声を掛けてくれた。
「誰なの?彼氏?それとも、ストーカーとか?」
「元カレというか、高校時代に付き合ってた彼で、まだ別れていなくて…。」
「何か、面倒くさそうだね!待ち伏せされて嫌なら、俺が一緒に帰ってやろうか?」
立松さんを巻き添えにする訳にいかず、「自分で何とかしますから」と言ったものの、意志が弱い私は、また彼に取り込まれるのではないかと不安だった。
絵美里の交際相手である青江将生は、パチンコで時間をつぶしながら彼女を待っていた。コンビニの裏から出て来た彼女を呼び止め、話し合おうと詰め寄った。
「さっき隣にいた男とは、どういう関係なの?随分と仲が良さそうだったけど。」
「バイトの先輩だから、何にもないよ。それより、別れたいって言ったよね!」
「俺は別れないって、言ったよな!原因は、俺の浮気だろ?だったら、あの子とはもう別れたし、俺はエミリーだけを彼女だと思っているからさ!」
それからずっと、「好きだから」とか「愛してる」だとか言い続け、
「俺の部屋に来て、前みたいに食事を作ってよ、お願い!」と懇願され、私は断り切れなかった。彼の部屋に行けば、元の木阿弥だと憂慮しながら連れられて行った。
将生の部屋に行くと食事を作る所ではなく、恐れていた通りその場に押し倒され、彼の筋書き通りになった。「泊っていけよ」という誘いを、門限があるからとはねつけたが、みじめさと口惜しさで心は乱れ、やり場のない思いを引きずって帰った。




