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すれ違う恋の行方〈大学編〉  作者: 秋 夕紀
第8章 梅枝七海(19歳)=黄川田肇(21歳)
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§9悪女になった私

 そのまま朝を迎え、結局二人は同じ部屋で一夜を過ごした。肇は恐縮し続け、七海はその態度が可笑(おか)しくて仕方なかった。朝食を食べていると母親がやって来て、

「七海さん、昨夜はゆっくり眠れたの?何か寝不足みたいね!」と言うのを、肇はにらみつけていた。七海は何もなかったと否定したものの、母親の下衆(げす)勘繰(かんぐ)りは治まらず、もうどうでも良くなっていた。

その日は肇の運転する車で、道内の観光を楽しんだ。函館までは距離があったが、七海はどうしても行きたいと彼に頼んで行った。五稜郭を見学した後、函館山の展望台にロープウェイで上って景色を堪能した。

「ここは夜景がきれいなんですよね!夜に来たかったな!」

「今日は無理だけど、また来ればいいよ!」と言われ、一緒にという意味なのか、別の機会にという意味なのか、私は訊き返す事はあえてしなかった。その代わりに、いたずら心がわいてきて、彼の手をそっと握ってみた。振り解かれると思ったが、意外にも握り返して来た。

「手をつなぐのも、初めてなの?肇さんの手は大きくて、温かいね!」

「中学校のフォークダンス以来かな。七海さんの手は、柔らかくて気持ちが良い!」

 しばらく手をつないで歩いたが、思わせぶりな態度だったかと思って後悔した。

「女の子と手をつなぐのも、いいもんでしょ!肇さんはやさしいから、これからきっと素敵な女性が見つかりますよ。臆病にならず、いい恋をしてください!」

 車の中での会話だったが、彼は黙って何かを考えているようだった。

 

 その晩は部屋が用意されていて、七海はゆっくりと休む事ができた。肇が部屋を訪れる事もなく、温泉に()かって早目の床に就いた。

 3日目は帰り支度を整え、肇の両親にお礼の挨拶をした。

「ぜひまた来てくださいね。冬には雪も積もって寒いけど、とても良いわよ!それとも、花嫁修業のつもりでアルバイトをしてもらっても良いわね。」

「はい、また来られたらですけど、その時はよろしくお願いします。」と社交辞令を述べてホテルを後にした。彼が札幌まで車で送ってくれ、夕方の飛行機の時間まで市内を見て廻った。驚いた事に彼が積極的に手を握って来て、少し薬が効き過ぎた事に後ろめたさを覚えた。彼は8月いっぱい実家に残り、夏休みで忙しい両親を手伝うという話だった。

「ありがとうございました、とても楽しかったです。東京に戻ったら、連絡してください。今度はわたしがお礼に、ごちそうしますから!」

「楽しんでくれて、良かった!僕も七海さんと一緒で楽しかった。」

彼は別れ難そうにしていたが、私はとっとと搭乗口に向かった。


 七海は飛行機の中で、自分の行動を反省していた。告白されても付き合う気もないのに、彼の心をもてあそんだ自分を悪女になぞらえていた。このままでは嫌な女でしかなく、東京で会った時には、はっきりと気持ちを伝えて謝ろうと心に誓った。


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