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すれ違う恋の行方〈大学編〉  作者: 秋 夕紀
第8章 梅枝七海(19歳)=黄川田肇(21歳)
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§7男友だちとの旅行

 8月の初め、七海と肇は羽田から新千歳へ向かう飛行機に搭乗していた。七海は北海道に肇と行く事に何の屈託もなかったが、親には女友だちと旅行に行くと告げていた。恋愛関係に到らない男友だちだと説明しても到底理解されないだろうと思い、面倒を避けるために、あえて女友だちだと嘘を()いた。

「僕と北海道に行く事を、御両親は承知してるの?」と訊かれ、

「えー、まあ、誰とは言ってないですけど…。」と私は言い淀んでいた。彼から友だちだと断言され、また彼の信条からして、決して間違った事にはならないだろうと確信していた。それでも、飛行機のシートに隣り合わせでいると、新婚旅行はこんななのかなと想像して、一人頬を赤らめていた。


 新千歳から電車で南千歳駅に行き、そこから1時間半特急に乗って洞爺(とうや)駅に向かった。さらにバスに乗って20分、目的の場所に着いたのは夕方の6時近かった。肇はペンションと謙遜していたが、ホテル並みの建物で従業員も多く雇っていた。ロビーに入ると、肇の両親が二人を出迎えてくれた。

「いらっしゃい!遠かったでしょ!温泉もあるので、ゆっくりとくつろいでね!」

「ありがとうございます。梅枝七海と申します。肇さんとはお友だちで、いつもお世話になっています。今日は図々しくお邪魔して、申し訳ありません。」

「まあ、お友だちだなんて。はっきりと言ってくれても、良いんですよ。まあ、肇が女の子を連れて来るなんて、雪でも降らなければ良いけど!」と完全に早とちりをしている母親に、彼は語気を強めて否定していた。私がロビーで部屋の手配を待っていると、彼と父親が言い争っている声が耳に入って来た。どうやら、予約ミスで部屋が取れていなくて、しかも本日は満室だという事らしかった。

「いいじゃないの、肇の部屋に泊まってもらえば。私たちは別に構わないわよ!」

「どういう意味?僕は構うよ!それに、七海さんに失礼だよ!」と彼は親に食って掛かっていた。いつもは穏やかな彼が怒りを(あら)わにしているのを見て、私は放って置けずに腰を上げ、彼と母親が言い合っている間に入った。

「肇さん、わたしはいいわよ!そういう関係じゃないし、構わないわよ!」

「本当にごめんなさいね!そうしてくれるかしら?いいのよ、別に隠さなくても。」と油を注ぐような発言に、彼は再び怒り出した。誤解が解けたかどうかは定かではないが、一晩だけの約束で仕方なく彼の部屋で過ごす事になった。


 自分の部屋に七海を案内した肇は、未だ怒りは収まらず、親に対する非難が止まなかった。七海は困ってしまい、彼をなだめる言葉を探していた。

「わたしたちの関係を誤解してたのには面食(めんく)らったけど、肇さんと違ってお母さんは、随分さばけた考え方をしてるね!驚いちゃった!」と独り言のように言うと、

「両親は職業柄、カップルのお客様を色眼鏡(いろめがね)で見てるんだよね。」とボソッと返してきた。「どういう事なの?」と私が改めて訊くと、

「男女の二人連れは夫婦もいるけど、恋人とか愛人とかの関係だと思い込んでるわけだよ。だから、僕たちもそういう関係にあるのが当然だと思ってるんだ!」と説明をしながら、私に嫌な思いをさせたと謝っていた。


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